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相続回復請求権消滅時効完成前の時効取得を認めた最高裁判決紹介

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令和 6年11月22日(金):初稿
○相続回復請求の相手方である表見相続人は、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても、当該真正相続人が相続した財産の所有権を時効により取得することができるとされた令和6年3月19日最高裁判決(判タ1523号93頁)全文を紹介します。

関連民法条文は以下の通りです。
第884条(相続回復請求権)
 相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から20年を経過したときも、同様とする。
第162条(所有権の取得時効)
 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。


○事案の概要は、X(被上告人)が,Y1(包括受遺者)並びにY2及びY3(Y2及びY3は遺言執行者)に対し,原判決別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件不動産」という。)について,YらのXに対するY1及びA(包括受遺者)への持分移転登記請求権が存在しないことの確認等を求めたものです。事実経緯はいかのとおりです。
・h13.4、Bは、養子Xと甥Y1,Aに遺産を等しく分与する遺言
・h16.2.13、B死去遺産は本件不動産、法定相続人はXのみ
・Xは、h16.2.14以降所有の意思をもって本件不動産占有、Xは占有の始め、本件遺言の存在を知らず、本件不動産を単独で所有すると信じ,これを信ずるにつき過失がなかった
・h16.3、Xは本件不動産をX単独名義に相続登記
・h31.1、Y2・Y3が本件遺言の遺言執行者に選任
・h31.2、XはYらとAに本件不動産についてのY1・A持分について取得時効を援用する意思表示


○Xが,Y1・Aの有する民法884条所定の相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても,Y1・Aが包括遺贈を受けた財産の所有権を時効により取得することができるかどうかが問題となり、最高裁判決は、取得時効の完成を認めました。

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主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。 
 
理   由
 上告人らの上告受理申立て理由(ただし、排除された部分を除く。)について
1 本件は、被上告人が、上告人らに対し、原判決別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件不動産」という。)について、上告人らの被上告人に対する上告人Y1及び原審控訴人Aへの持分移転登記請求権が存在しないことの確認等を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
(1) Bは、平成13年4月、甥である上告人Y1及びA並びに養子である被上告人に遺産を等しく分与する旨の自筆証書遺言(以下「本件遺言」という。)をした。
(2) Bは、本件不動産を所有していたが、平成16年2月13日に死亡した。Bの法定相続人は、被上告人のみである。

(3) 被上告人は、平成16年2月14日以降、所有の意思をもって、本件不動産を占有している。被上告人は、同日当時、本件遺言の存在を知らず、本件不動産を単独で所有すると信じ、これを信ずるにつき過失がなかった。
(4) 被上告人は、平成16年3月、本件不動産につき、被上告人単独名義の相続を原因とする所有権移転登記をした。

(5) 上告人Y2及び同Y3は、平成31年1月、東京家庭裁判所により、本件遺言の遺言執行者に選任された。
(6) 被上告人は、平成31年2月、上告人ら及びAに対し、本件不動産に係る上告人Y1及びAの各共有持分権につき、取得時効を援用する旨の意思表示をした。

3 所論は、上告人Y1及びAの有する民法884条所定の相続回復請求権の消滅時効が完成していないところ、相続回復請求の相手方である被上告人は、上記消滅時効の完成前に上記各共有持分権を時効により取得することはできないというべきであるのに、被上告人による時効取得を認めた原審の判断には、法令の解釈適用の誤り及び判例違反があるというものである。

4 民法884条所定の相続回復請求権の消滅時効と同法162条所定の所有権の取得時効とは要件及び効果を異にする別個の制度であって、特別法と一般法の関係にあるとは解されない。また、民法その他の法令において、相続回復請求の相手方である表見相続人が、上記消滅時効が完成する前に、相続回復請求権を有する真正相続人の相続した財産の所有権を時効により取得することが妨げられる旨を定めた規定は存しない。

 そして、民法884条が相続回復請求権について消滅時効を定めた趣旨は、相続権の帰属及びこれに伴う法律関係を早期かつ終局的に確定させることにある(最高裁昭和48年(オ)第854号同53年12月20日大法廷判決・民集32巻9号1674頁参照)ところ、上記表見相続人が同法162条所定の時効取得の要件を満たしたにもかかわらず、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成していないことにより、当該真正相続人の相続した財産の所有権を時効により取得することが妨げられると解することは、上記の趣旨に整合しないものというべきである。

 以上によれば、上記表見相続人は、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても、当該真正相続人が相続した財産の所有権を時効により取得することができるものと解するのが相当である。このことは、包括受遺者が相続回復請求権を有する場合であっても異なるものではない。したがって、被上告人は、本件不動産に係る上告人Y1及びAの各共有持分権を時効により取得することができる。

5 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例のうち、各大審院判例(大審院明治44年(オ)第56号同年7月10日判決・民録17輯468頁、大審院昭和6年(オ)第2930号同7年2月9日判決・民集11巻3号192頁)は、昭和22年法律第222号による改正前の民法における家督相続制度を前提とする相続回復請求権に関するものであって、上記判断は、上記各大審院判例に抵触するものではない。また、その余の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用することができない。
 なお、上告人Y1のその余の上告については、上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除された。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 渡邉惠理子 裁判官 宇賀克也 裁判官 林道晴 裁判官 長嶺安政 裁判官 今崎幸彦) 
以上:2,769文字

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