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指定相続分零の相続人に対する特別寄与料請求を却下した家裁審判紹介

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令和 6年10月10日(木):初稿
○民法の相続法の改正で、令和元年7月1日から以下の特別寄与料制度が導入されています。

第10章 特別の寄与
第1050条
 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
2 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から一年を経過したときは、この限りでない。
3 前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。
4 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
5 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第900条から第902条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。


○特別寄与料制度とは、被相続人の介護などを無償ですることによって財産の維持・増加に貢献していた相続人以外の親族が、相続人に対して寄与度に応じた金銭を請求できる制度です。その典型は、親と同居する長男の妻が、親が生前その介護に尽くしたのに、相続人ではないためその遺産について分配を請求できません。そこで公平の見地から長男妻の介護貢献について金銭評価した金額を、相続人に対し、相続分に応じた金額の請求ができるとしたものです。

○被相続人が死亡し、相続が開始し、その相続人は、子であるb及び相手方の2名で、被相続人の公正証書による遺言には、被相続人の所有する財産全部(不動産、動産、預貯金債権など)をbに相続させる旨の記載があり、相手方はbに対し遺留分侵害額の請求を行ったようです。

○bの妻である申立人が、遺言で相続分がないとされた相手方に対し、特別寄与料約1408万円と主張し、遺留分割合額(4分の1と思われる)の支払を請求しましたが、相手方との間で協議が調わなかったため、特別寄与料として相当額を支払うこと審判を求めました。

○これに対し、指定相続分を零とされた相続人が遺留分侵害額の請求を行った場合に、民法1050条5項の適用上、当該他の相続人の指定相続分を遺留分割合とすると解することは相当ではなく、本件では、本件遺言により、相続分の全部がbに指定されており、相手方の指定相続分は零であるから、申立人が相手方に対して請求することができる金額は零円になるとして、本件申立てを却下した令和4年3月18日名古屋家裁審判(最高裁判所民事判例集77巻7号1923頁)を紹介します。

○仮に遺産評価額が4000万円とすれば、相手方はbに対し、遺留分侵害額として1000万円の請求が出来ますが、この結論では、相手方特別寄与料負担は零です。遺言で、民法902条によって、b4分の3、相手方4分の1と相続分が指定された場合、相手方の取得分は1000万円ですが、4分の1の割合の特別寄与料を負担することになります。申立人の請求が妥当と思われるのですが、抗告審・許可抗告審結論は同じでした。私の理解が浅いと思われ、別コンテンツで紹介して、さらに勉強を続けます。

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主   文
1 本件申立てを却下する。
2 手続費用は各自の負担とする。

理   由
第1 事案の概要
1 申立ての趣旨

 相手方は、申立人に対し、特別寄与料として相当額を支払う。

2 前提事実
(1)被相続人は、令和2年6月5日に死亡し、相続が開始した。
(2)その相続人は、別紙a相続関係図のとおり、子であるb(以下「b」という。)及び相手方の2名である。申立人は、bの妻である。
(3)申立人は、相手方に対し、特別寄与料の支払を請求したが、相手方との間で協議が調わなかったため、令和2年12月2日、当庁に対し、本件特別の寄与に関する処分申立事件を申し立てた。

(4)被相続人の平成19年11月7日付け名古屋法務局所属公証人宇野博作成第322号公正証書による遺言(以下「本件遺言」という。)には、被相続人の所有する財産全部(不動産、動産、預貯金債権など)をbに相続させる旨の記載がある(甲1)。
 本件遺言が有効であることは、当事者間に争いがない。

3 争点及び当事者の主張
(1)申立人
ア 申立人は、別紙主張整理表記載のとおり,被相続人の療養看護を行った。
 申立人の特別寄与料は、要介護2の報酬相当額(1日あたり6232円)に介護日数2259日を乗じた1407万8088円に裁量的割合を乗じた額が相当である。 

イ 民法1050条5項は、「相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第900条から第902条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。」と規定しているところ、この規定を形式的に解釈すれば、全財産を相続人の1人に相続させる旨の遺言がある場合には、当該相続分の指定相続分は100、他の相続人の指定相続分は0とされ、当該他の相続人は寄与料を負担しないという帰結となると考えられる。
 しかし、当該他の相続人が遺留分侵害額の請求を行った場合には、相続人間の公平の見地から、民法1050条5項の適用上、当該他の相続人の指定相続分は遺留分割合とみなすのが相当である。

(2)相手方
 争う。

第2 当裁判所の判断

(1)民法1050条5項は、「相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第900条から第902条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。」と定め、特別寄与者が相続人の1人に対して請求することができる金額を、特別寄与料の額に当該相続人の法定相続分又は指定相続分を乗じた額にとどめることとしている。相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合、その余の相続人の指定相続分は零であるから、当該その余の相続人に対して請求することができる特別寄与料は零円になるものと解される。

(2)この点、申立人は、指定相続分を零とされた相続人が遺留分侵害額の請求を行った場合には、相続人間の公平の見地から、民法1050条5項の適用上、当該他の相続人の指定相続分は遺留分割合とみなすのが相当である旨主張する。

 しかし、民法1050条5項は、特別寄与者が相続人の1人に対して請求することができる金額の上限を特別寄与料の額に当該相続人の法定相続分又は指定相続分を乗じた額としており、遺留分割合を請求額の上限とする旨の定めはない。特別寄与料の支払請求権は、あくまでも公平の見地から法律上認められたものであり、当然に請求することができる性質のものではないことから、法律の定める上限額を解釈論により変更することは相当ではない。

 また、民法1050条5項は、法定相続分又は指定相続分の総和が1であることを前提に、特別寄与者が相続分を有する相続人全員を相手方として特別寄与料の請求をした場合に、特別寄与料全額について支払を受けることを想定しているが、特別寄与者が相続人の1人に対して請求することができる金額の上限を特別寄与料の額に当該相続人の遺留分割合を乗じた額と解する場合、当該遺留分割合が当該相続人の指定相続分を超える場合には、当該相続人の遺留分割合と他の相続人の指定相続分の総和は1を超えることとなり、特別寄与者が相続分を有する相続人全員を相手方として特別寄与料の請求をした結果、特別寄与料全額を超える支払を受ける事態が生じ得ることとなる。

 さらに、申立人は、「指定相続分を零とされた相続人が遺留分侵害額の請求を行った場合」に上記のような解釈をすべきと主張するが、当該相続人がいつまでに遺留分侵害額の請求を行った場合を指すのか不明である。相続人が遺留分侵害額の請求を行ったことを考慮し得るのは、現実的には、特別の寄与に関する処分に係る調停の成立時又は審判の審理終結日までに請求がされた場合であると考えられるが、同処分の請求期間は、「特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月」、「又は相続開始の時から1年」(民法1050条2項)と短期間に限定されているところ、同処分の調停又は審理が先行し、調停成立又は審判確定した後に、遺留分権利者から遺留分侵害額の請求が行われた場合に、特別寄与料の支払を命ずる処分においてこれを考慮する余地はなく、不均衡が生ずることも否めない。

 以上によれば、指定相続分を零とされた相続人が遺留分侵害額の請求を行った場合に、民法1050条5項の適用上、当該他の相続人の指定相続分を遺留分割合とすると解することは相当ではない。

2 本件では、本件遺言により、相続分の全部がbに指定されており、相手方の指定相続分は零であるから、申立人が相手方に対して請求することができる金額は零円になる。

3 よって、本件申立ては理由がないからこれを却下することとして、主文のとおり審判する。
(名古屋家庭裁判所家事第2部)

「別紙a相続関係図省略」
別紙 主張整理表

以上:3,949文字

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