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相続人受領死亡保険金を特別受益該当とした地裁判決紹介

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令和 4年 4月29日(金):初稿
○相続開始時の遺産が殆どないところ、相続人ではない孫が死亡保険金5000万円を受領していた場合、相続人の一人が孫に対し、死亡保険金を民法第1044条「贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。」と規定された贈与に該当するとして、遺留分算定財産に加えることが出来ますかとの質問を受けました。形式的には、死亡保険金は遺産ではありませんので、遺産からの贈与に該当せず、遺留分減殺対象にはなりませんとの回答になります。

○しかし、平成16年10月29日最高裁決定での、「保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、特別受益に準じて持戻しの対象となる。」との趣旨からすると割り切れないものがあります。

○そこで裁判例を調べているのですが、相続人ではない者が受領した死亡保険金について判断した判例は現時点では見つかっていません。相続人の1人が受領した死亡保険金約1500万円が特別受益の対象になるとした最近の判例として令和3年9月13日東京地裁判決(LEX/DB・ウエストロージャパン)が見つかりましたので、死亡保険金部分について紹介します。論点が多岐に渡っており、その他の論点の判断により死亡保険金が特別受益に該当するとされながら、原告の請求は僅かしか認められませんでした。

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主   文
1 被告は,原告に対し,11万3876円及びこれに対する平成28年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを100分し,その99を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,2317万4062円及びこれに対する平成28年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,被相続人d(以下「被相続人」という。)の養子である原告が,同じく養子であり,被相続人の遺言により被相続人の全財産の2分の1を取得するなどした被告に対し,同遺言等により原告の遺留分が侵害されたとして,遺留分減殺請求をし,被相続人の相続財産等につき遺留分割合に従った金額に相当する不当利得返還を求める事案である。

         (中略)

2 争点

         (中略)

(原告主張)
イ 被告が受領した死亡保険金について

 被相続人のプルデンシャル生命保険株式会社との生命保険契約は,被告とeが,将来的な原告からの遺留分減殺請求を想定し,被相続人の生前から被相続人名義の財産を減少させつつ,被告やS社を隠れ蓑として利用する形で被告及びeへと財産を移転させることを目的として,締結されたものであり,被相続人ではなく,被告が主導して行ったものである。 
 また,被相続人の遺産は約1500万円であり,被告が得た死亡保険金が遺産総額に占める比率は極めて高い。
 そのため,保険金受取人である被告とその他の共同相続人との間で著しい不公平が生じていることから,被告が受け取った死亡保険金1475万6880円は特別受益に準じて持戻しの対象となるべきである。

         (中略)

(被告主張)
イ 被告が受領した死亡保険金について

 被告は,平成27年12月22日頃,被相続人が契約者兼被保険者,保険金受取人が被告となっていたプルデンシャル生命保険株式会社との生命保険契約に基づく死亡保険金を受け取った。これは,被告が上記保険契約に基づく固有の権利として取得したものであるため,特別受益又はそれに準じるものではない。

         (中略)

第3 裁判所の判断

         (中略)

5 争点(4)(被告の特別受益の有無等)について

         (中略)

(2)被告が受領した死亡保険金について
ア 保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解するのが相当である。

もっとも,保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無,被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して,保険金受取人である相続人その他の共同相続人との間に生ずる不公平が同条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である(最決平成16年10月29日民集58巻7号1979頁参照)。

イ 前記前提事実及び認定事実によれば,被告が受領した死亡保険金の金額は1475万6880円であり,被相続人の相続開始時における遺産の総額は1579万2746円に対する比率は9割3分程度と遺産の総額に匹敵し,被相続人の原告に対する600万円の特別受益を持ち戻した後の遺産総額2179万2746円に対する比率をみても6割7分程度であり,過半を占めるものである。

これらの事情からすれば,被告は,被相続人の養子となった平成24年2月1日以降,被相続人の財産管理のほか,被相続人が入所する有料老人ホームとのやり取りをし,被相続人が有料老人ホームから外出する際は身の回りの世話をするなどしていた一方で,原告が上記のような被告の被相続人に対する生活への貢献を超える被相続人の生活に対する貢献は認められず,被相続人から離縁を求められていたという事情を考慮しても,上記特段の事情が存するというべきである。

そうすると,上記死亡保険金に係る生命保険の保険料を全て被相続人が負担していることも考慮すれば,被告が受け取った死亡保険金額1475万6880円は被告の特別受益に準じて持戻しの対象となると解される。
以上:2,621文字

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