令和 3年 7月15日(木):初稿 |
○「不当訴訟等理由の遺言執行者による廃除申立を認めた家裁審判紹介」の続きで、その抗告審の令和2年2月27日大阪高裁決定(判時2480号16頁)全文を紹介します。 ○死亡した被相続人が、遺言公正証書において、夫である抗告人を廃除する意思を表示したことを理由に、遺言執行者である原審申立人が推定相続人廃除の審判を求め、原審裁判所が原審申立人の本件申立てを認容する原審判をしていました。 ○これを不服とする抗告人夫が即時抗告をしましたが、大阪高裁決定は、被相続人の挙げる各事由は、被相続人と抗告人との夫婦関係の不和が高じたものであるが、当該事業を巡る紛争に関連して生じており、約44年間に及ぶ婚姻期間のうちの5年余りの間に生じたものに過ぎず、被相続人の遺産形成への抗告人の寄与を考慮すれば、その遺留分を否定することが正当であると評価できる程度に重大なものということはできないから、廃除事由には該当しないとして、原審判を取り消し、原審申立人の本件申立てを却下しました。 ○夫は、妻生前妻に対し離婚請求をしていましたが、妻と株式会社Dを設立して共同経営をしており、Dから夫に支払われるべき金員を妻が支払わず,管理保管しているとして,その金員の半額の1400万円を財産分与し,婚姻破綻の原因が被相続人妻にあるとして慰謝料300万円を支払うこと求め、離婚が棄却されたため、いずれも棄却されました。妻は、財産を夫にやりたくないため離婚を拒否し、さらに相続人廃除を求めたもので、結局、お金の争いでした。 ******************************************** 主 文 1 原審判を取り消す。 2 原審申立人の本件申立てを却下する。 3 手続費用は、原審及び当審を通じて、原審申立人の負担とする。 理 由 第1 抗告の趣旨及び理由 1 抗告の趣旨 主文と同旨 2 抗告の理由 別紙抗告理由書《略》及び抗告人準備書面《略》(各写し)のとおり 第2 当裁判所の判断 1 本件は、被相続人(平成31年▲月▲日死亡)が、平成▲年2月15日付け遺言公正証書(以下「本件遺言」という。)において、夫である抗告人を廃除する意思を表示したことを理由に、遺言執行者である原審申立人が推定相続人廃除の審判を求める事案である。 原審裁判所は、原審申立人の本件申立てを認容する原審判をしたが、これを不服とする抗告人が即時抗告をした。 2 当裁判所は、抗告人の被相続人に対する虐待、重大な侮辱、その他の著しい非行(廃除事由。民法892条)を認めることができないから、本件申立ては理由がなく、却下すべきであると判断する。 その理由は、次のとおり補正するほかは、原審判の理由説示のとおりであるから、これを引用する。 (1)原審判5頁4行目及び23行目の各「当裁判所」をいずれも「奈良家庭裁判所葛城支部」に改め、24行目の「19日に」の次に「同裁判所に」を加える。 (2)同6頁3行目の「しかし、当裁判所は、」を「これに対して、被相続人は、抗告人の離婚請求について、婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条1項5号)はないし、これが存在するとしても、有責配偶者からの離婚請求であり、また、婚姻の継続を相当と認めるべき事情がある(同条2項)と主張して争った。同裁判所は、」に改める。 (3)同7頁24行目から9頁14行目までを次のとおり改める。 「(2)前記認定事実に基づき、原審申立人の本件申立てについて判断する。 ア 推定相続人の廃除は、被相続人の意思によって遺留分を有する推定相続人の相続権を剥奪する制度であるから、廃除事由である被相続人に対する虐待や重大な侮辱、その他の著しい非行は、被相続人との人的信頼関係を破壊し、推定相続人の遺留分を否定することが正当であると評価できる程度に重大なものでなければならず、夫婦関係にある推定相続人の場合には、離婚原因である「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)と同程度の非行が必要であると解するべきである。 イ 被相続人は、本件遺言において、抗告人から精神的、経済的虐待を受けたと主張し、具体的理由として、〔1〕離婚請求、〔2〕不当訴訟の提起、〔3〕刑事告訴、〔4〕取締役の不当解任、〔5〕婚姻費用の不払い及び〔6〕被相続人の放置の各事由を挙げる。 しかし、被相続人は、本件遺言時に係属中であった離婚訴訟において、婚姻を継続し難い重大な事由はないし、これが存在するとしても有責配偶者からの離婚請求であるか、婚姻の継続を相当と認めるべき事情がある旨を主張して争ったうえ、本件遺言作成の後に言い渡された上記離婚訴訟の判決において、婚姻を継続し難い重大な事由(離婚原因)が認められないと判断された。 しかも、被相続人の遺産は、Dの株式など抗告人とともに営んでいた事業(D)を通じて形成されたものである。被相続人の挙げる上記〔1〕ないし〔6〕の各事由は、被相続人と抗告人との夫婦関係の不和が高じたものであるが、上記事業を巡る紛争に関連して生じており、約44年間に及ぶ婚姻期間のうちの5年余りの間に生じたものにすぎないのであり、被相続人の遺産形成への抗告人の寄与を考慮すれば、その遺留分を否定することが正当であると評価できる程度に重大なものということはできず,廃除事由には該当しない。 ウ そして、事実の調査の結果を総合しても、他に、抗告人を被相続人の推定相続人から廃除すべき事由は見当たらない。 (3)以上によれば、原審申立人の本件申立ては理由がないから、これを却下すべきである。」 3 よって、上記判断と異なる原審判は相当でないから、これを取消して、本件申立てを却下することとし、主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官 永井裕之 裁判官 上田日出子 大淵茂樹) 別紙 抗告理由書《略》 別紙 抗告人準備書面《略》 以上:2,397文字
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