令和 3年 5月13日(木):初稿 |
○「特別受益持戻し免除と遺留分減殺請求についての大阪家裁審判紹介」の続きで、その抗告審平成23年2月21日大阪高裁(金商1393号40頁<参考収録>)の主文と裁判所の判断部分を紹介します。 ○被相続人の前妻の子で、相続分の指定により各相続分をそれぞれ零とされた抗告人3名が、被相続人の後妻及びその子である相手方3名に対し、遺留分減殺の意思表示をして遺産分割を申し立てたところ、原審が抗告人らの相続分を40分の2として代償金支払方法による遺産分割をする審判をしていました。 ○原審審判を不服とした抗告人らが抗告しましたが、高裁決定は、被相続人は、後妻に対し、持戻し免除の意思表示がされた生前贈与をしているが、その意思表示は遺留分を害することはできないから、抗告人らの遺留分各40分の2の範囲で持戻し計算をすべきであるとして、代償金額を変更して増額認定しました。なお、遺産である株式を現物分割すべきとする抗告人の主張は排斥しました。 ○原審で認めた遺産総額は14億7691万4588円でしたが、株式評価額が減額され、本件生前贈与の40分の6相当額と現金が加わり15億3295万1296円と5603万円と認められ、抗告人3名は各自7664万7565円の相続分が認められました。原審では7384万5729円でしたので、約280万円アップし、これを前提に代償金が増額されています。 **************************************** 主 文 1 原審判を次のとおり変更する。 2 被相続人の遺産を次のとおり分割する。 (1) 原審判添付の別紙遺産目録記載1の株式につき、相手方Y1は、a興産株式会社5456株、b製罐株式会社5万6000株、c産業株式会社6945株を単独取得し、相手方Y2は、a興産株式会社2728株、b製罐株式会社2万8000株、c産業株式会社3472株を単独取得し、c産業株式会社の1株は相手方Y3と共有取得し、相手方Y3は、a興産株式会社2728株、b製罐株式会社2万8000株、c産業株式会社3472株を単独取得し、c産業株式会社1株を相手方Y2と共有取得する。 (2) 原審判添付の別紙遺産目録2の宝飾品につき、相手方Y1・2分の1、相手方Y2・4分の1及び相手方Y3・4分の1の割合で共有取得する。 (3) 3020万円の現金につき、相手方Y1・2分の1、相手方Y2・4分の1及び相手方Y3・4分の1の割合でそれぞれ単独取得する。 (4) (1)ないし(3)の遺産取得の代償として、相手方Y2は、抗告人らに対し、それぞれ5000万円を、相手方Y1に対し、1821万0888円を、相手方Y3は、抗告人らに対し、それぞれ2869万9808円を、相手方Y1に対し、1522万9896円をいずれも本決定確定の日から6か月以内に支払え。 3 鑑定人Aに支払った費用は、原審、当審を通じてこれを抗告人ら2分の1、相手方ら2分の1の負担とし、その余の手続費用は、各自の負担とする。 理 由 第1 抗告の趣旨 原審判を取り消し、本件を原審に差し戻すとの裁判を求める。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 被相続人の相続人は、被相続人の前妻の子らである抗告人ら並びに後妻及びその子らである相手方らである。被相続人は、公正証書遺言をしたが、その内容は、相手方らの相続分を指定し、抗告人らの相続分を零とするものであった。抗告人らは、遺留分減殺の意思表示をした上、平成19年9月26日、原審に対し、遺産分割の調停申立てをした。 2 原審判(平成21年9月14日)の要旨 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 相続の開始及び相続人並びに被相続人の遺言と遺留分の減殺の意思表示 原審判3頁5行目から4頁3行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 2 遺産の範囲 一件記録によれば、被相続人の遺産は、本件株式及び本件宝飾品並びに本件現金であると認められる。 3 特別受益と持戻し免除の意思表示 (1) 一件記録によれば、被相続人は相手方Y2に対し、本件生前贈与をしたことが認められる。 (2) 相手方らは、抗告人らの本件生前贈与の主張は、抗告審において審理対象とすべきでないと主張するが、その主張を考慮しても、未だ、審理対象とすべきでないとまではいえない。 (3) 本件生前贈与は、その株式数や金額を考慮すれば、生計の基礎として役立つ生計の資本としての贈与であると認められる。相手方らは、経営権委譲目的であるから、生計の資本ではないと主張するが、そのような目的があったとしても、生計の資本としての贈与であることを否定することはできない。 (4) 一件記録及び手続の全趣旨によれば、本件生前贈与は、被相続人が相手方Y2に対し、経営権委譲目的で行ったものであるところ、平成16年の2回にわたる株式譲渡後の平成17年5月26日、被相続人は公正証書遺言を行い、相手方Y1・2分の1、その余の相手方ら各4分の1、抗告人ら各零とする相続分の指定をしたのであり、その後、死亡までにc産業株式及び現金等の譲渡をしたのである。そうすると、被相続人は、本件生前贈与について、(黙示的にもせよ)持戻し免除の意思表示を行ったものとみるのが相当である。 しかし、持戻し免除の意思表示は遺留分を害することはできないから(民法903条3項)、抗告人らの(遺留分減殺の意思表示の結果生じた)相続分各40分の2の範囲で持戻し計算すべきであると解される。 4 以上によれば、みなし相続財産は、本件株式、本件宝飾品及び本件現金並びに本件生前贈与の40分の6となる。 5 本件相続開始時の遺産の評価額 (1) 上記のとおり、本件遺産分割においては、本件生前贈与の40分の6がみなし相続財産として遺産に加えられるから、遺産の評価は本件相続開始時と本件遺産分割時の2段階の評価が必要となる。そこで、まず、以下のとおり、本件相続開始時の遺産の評価をする。 (2) 本件相続開始時の遺産の評価額 ア 本件株式 14億2150万3788円 (ア) a興産株 1万0912株 5億3691万4048円 当審鑑定によれば、本件相続開始時のa興産株は1株当たり4万9204円であることが認められる。 (イ) b製罐株 11万2000株 1億5444万8000円 当審鑑定によれば、本件相続開始時のb製罐株は1株当たり1379円であることが認められる。 (ウ) c産業株 1万3890株 7億3014万1740円 原審鑑定によれば、本件相続開始時のc産業株は1株当たり5万2566円であることが認められる。 (エ) 合計 14億2150万3788円 イ 本件宝飾品 1611万円 原審判6頁11行目に記載のとおりであるから、これを引用する。 ウ 本件現金 3020万円 エ 本件生前贈与の40分の6 (ア) a興産株 8184株 4億0268万5536円 上記のとおり、本件相続開始時のa興産株は1株当たり4万9204円であることが認められる。 (イ) c産業株 220株 1156万4520円 上記のとおり、本件相続開始時のc産業株は1株当たり5万2566円であることが認められる。 (ウ) 現金預貯金等 2000万円 (エ) 合計 4億3425万0056円 (オ) みなし相続財産分 6513万7508円 4億3425万0056円×6/40=6513万7508円(円未満四捨五入 以下同様) オ 総合計 15億3295万1296円 6 本件遺産分割時の遺産の評価額 原審判4頁13行目から6頁11行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり改める。 (1) 原審判6頁10行目の次に改行の上、次のとおり加える。 「抗告人は、原審鑑定の手法を批判するが、代償分割の場合の代償金算定のための株式評価であることを前提とすれば、不当であるとの批判は当たらない。」 (2) 同6頁11行目の次に改行の上、次のとおり加える。 「(3) 本件現金3020万円を加えれば、本件遺産分割時の遺産の評価額は、以上合計15億0711万4588円となる。」 7 具体的相続分の算定 (1) 上記5のとおり、みなし相続財産の評価額は、合計15億3295万1296円であるから、当事者の具体的相続分は、以下の計算のとおりとなる。 ア 抗告人ら各自 15億3295万1296円×2/40(遺留分に相当する相続分)=7664万7565円 イ 相手方Y1 15億3295万1296円×20/40=7億6647万5648円 ウ 相手方Y2 15億3295万1296円×7/40-6513万7508円(本件生前贈与の40分の6 特別受益の持戻し分)=2億0312万8969円 エ 相手方Y3 15億3295万1296円×7/40=2億6826万6477円 (2) 上記6のとおり、本件遺産分割時の遺産の評価額は合計15億0711万4588円であるから、当事者の上記具体的相続分で按分すると、現に取得する相続分額は、以下の計算のとおりとなる。 ア 抗告人ら各自 15億0711万4588円×7664万7565円/(7664万7565円×3+7億6647万5648円+2億0312万8969円+2億6826万6477円)=7869万9808円 イ 相手方Y1 15億0711万4588円×7億6647万5648円/(7664万7565円×3+7億6647万5648円+2億0312万8969円+2億6826万6477円)=7億8699万8078円 ウ 相手方Y2 15億0711万4588円×2億0312万8969円/(7664万7565円×3+7億6647万5648円+2億0312万8969円+2億6826万6477円)=2億0856万7759円 エ 相手方Y3 15億0711万4588円×2億6826万6477円/(7664万7565円×3+7億6647万5648円+2億0312万8969円+2億6826万6477円)=2億7544万9327円 8 分割についての当事者の意見 原審判6頁19行目から7頁2行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 9 分割方法 原審判7頁4行目から21行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり改める。 (1) 原審判7頁15行目の末尾に次のとおり加える。 「本件現金については、一件記録によれば、相手方らがこれを保管していることが認められるから、相手方Y1・2分の1(1510万円)、相手方Y2及び相手方Y3各4分の1(755万円)の割合でそれぞれ単独取得し、」 (2) 同頁17行目の「代償金の額は」から18行目の「記載のとおりである。」までを次のとおり改める。 「 次に相手方らが、上記のとおり遺産を取得する代償として、抗告人らに対して支払うべき代償金について、検討する。 (1) 抗告人ら 抗告人らの現に取得する相続分額はそれぞれ7869万9808円であるところ、抗告人らは遺産を取得しないから、それぞれ代償金として、7869万9808円の支払を受けることになる。 (2) 相手方Y1 相手方Y1の現に取得する相続分額は7億8699万8078円であるところ、相手方Y1は本件株式の2分の1である7億3040万2294円、本件宝飾品の2分の1である805万5000円及び本件現金の2分の1である1510万円、合計7億5355万7294円を取得したから、代償金として、7億8699万8078円から7億5355万7294円を差し引いた3344万0784円の支払を受けることになる。 (3) 相手方Y2 相手方Y2の現に取得する相続分額は2億0856万7759円であるところ、相手方Y2は本件株式の4分の1である3億6520万1147円、本件宝飾品の4分の1である402万7500円及び本件現金の4分の1である755万円、合計3億7677万8647円を取得したから、代償金として、3億7677万8647円から2億0856万7759円を差し引いた1億6821万0888円を支払うことになる。 (4) 相手方Y3 相手方Y3の現に取得する相続分額は2億7544万9327円であるところ、相手方Y3は相手方Y2と同様に3億7677万8647円を取得したから、代償金として、3億7677万8647円から2億7544万9327円を差し引いた1億0132万9320円を支払うことになる。 (5) 代償金の支払方法 ア 相手方Y2は、抗告人らに対し、それぞれ5000万円を、相手方Y3は、抗告人らに対し、それぞれ2869万9808円をいずれも本審判確定の日から6か月以内に支払うこととする。 イ 相手方Y2は、相手方Y1に対し、1821万0888円を、相手方Y3は、相手方Y1に対し、1522万9896円をいずれも本審判確定の日から6か月以内に支払うこととする。」 (3) 同頁19行目の「別紙遺産目録記載の遺産」を「本件株式、本件宝飾品及び本件現金」に改める。 10 抗告理由について (1) 遺産の範囲及び相手方Y2の特別受益については上記説示のとおりである。 (2) 抗告人らは、本件株式は現物分割すべきであると主張する。 しかし、本件3社は、いずれも閉鎖的な同族会社とみるのが相当であるところ(c産業は、被相続人が50%以上の株主、a興産は、相手方Y2の属する同族関係者の議決権総数は94.4%である。b製罐は、○○氏一族により49.7%の株式が保有されている。)、相手方らは、その経営に関与してきたものと認められる(c産業及びa興産については3名とも取締役に就任し、b製罐については相手方Y2が取締役に就任している。)。他方、抗告人らは、従来、本件3社の株主でもなく、経営にも全く関与していない。また、被相続人の公正証書遺言に現れた意思としても、抗告人らには、本件3社の株式を相続させる意思は全くなかったのである。そうすると、本件遺産分割において、本件株式を現物分割することは被相続人の意思にも反し、また、将来の株式買取請求などの紛争を来すことが予想されるのであって、妥当とはいえない。 (3) その他、抗告人らが本件株式の評価、相手方らの支払能力について主張するところは、いずれも、原審判の説示及び当決定の説示に照らして採用できない。 11 以上のとおりであって、本件抗告は上記説示の範囲で理由があるから、家事審判規則19条2項により、主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官 赤西芳文 裁判官 片岡勝行 久留島群一) 以上:5,955文字
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