令和 3年 4月14日(水):初稿 |
○「死亡退職金を受給者固有の権利とした最高裁判決紹介」の続きでその原審昭和54年9月28日大阪高裁判決(判例時報951号70頁、判例タイムズ404号100頁)全文を紹介します。 ○亡Aが死亡し、同人に相続人があることが明らかでないため成立した被控訴人相続財産法人が、亡Aが勤務していた控訴人に対して、控訴人退職規程にしたがった退職金は相続財産であるとして退職金相当の金員を請求し、これに対して控訴人が亡Aが死亡したことによる退職金は控訴人死亡退職金規程にしたがえば遺族固有の権利として取得すると主張しました。 ○第一審昭和53年6月30日大阪地裁判決では、被控訴人の請求が認容されたためこれに対して控訴しました。大阪高裁判決は、控訴人の退職手当規程では死亡退職金の支給を受けるものについて、第一順位が内縁を含む配偶者であり、配偶者があるときは子は全く支給を受けないこと、直系血族間でも親等の近い父母が孫よりも先順位となることなど民法の規定する相続人の順位決定の原則とは著しく異なって定められていることからは、この規程は、もっぱら職員の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とし、民法とは別の立場で受給権者を定めたもので、受給権者たる遺族は、上記規程の定めにより直接これを事故固有の権利として取得するとして、原判決中控訴人敗訴の部分を取消し、被控訴人の請求を棄却しました。 ********************************************** 主 文 原判決中控訴人(附帯被控訴人)敗訴の部分を取消す。 被控訴人(附帯控訴人)の請求を棄却する。 被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴を棄却する。 訴訟費用は、第1、2審を通じ、補助参加によって生じた部分は補助参加人の、その余は被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。 事 実 控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という)は、主文第1、2項同旨及び「訴訟費用は、第1、2審を通じ被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という)の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴について「原判決中被控訴人敗訴部分を取消す。(第一次請求)控訴人は被控訴人に対し金1027万1333円及びこれに対する昭和50年3月1日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。(第二次請求)控訴人は被控訴人に対し金829万0433円及びこれに対する昭和50年2月28日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第1、2審を通じ控訴人の負担とする。」との判決を求め、控訴人は、主文第三項同旨の判決を求めた。 当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。 一 主張 1 (被控訴人) 原判決四枚目表1行目の「第一次請求原因」とあるのを「第二次請求原因」と、同8枚目裏2行目の「第二次請求原因」とあるのを「第一次請求原因」と、同8枚目裏6行目及び同9枚目表3行目の各「第一次請求原因」とあるのを各「第二次請求原因」とそれぞれ訂正し、同9枚目表5行目に続けて「そして、Aについては、本俸月額の100分の500の割合により後記退職手当の増額(加算)がなされる場合に該当する。」と付加する。 2(控訴人) (一)原判決12枚目表末行の「第一次請求原因」とあるのを「第二次請求原因」と、同裏4行目の「第二次請求原因」とあるのを「第一次請求原因」と、同4行目の「1は認める」の次に「(但し退職手当の増額(加算)に関する主張を除く)」と付加し、同14枚目表4行目に「前掲」とあるのを「前号」とそれぞれ訂正する。 (二)本件の死亡退職金は相続財産ではない。 国家公務員等退職手当法に定める死亡退職金は、一般に受給権者の固有の権利で相続財産ではないと解されているが,控訴人の職員に関する死亡退職金についても同様に解すべきである。すなわち、控訴人は、通産省の業務のうち貿易振興に関する事業を総合的かつ効果的に実施することを目的とする特殊法人であって、その業務はすべて通産大臣の認可ないし監督のもとにおかれ、控訴人の資本は全額政府の出資にかゝり、事業予算、給与の大部分が政府資金によって賄われることに鑑み、職員の給与の制定についても通産大臣が大蔵大臣と協議のうえ認可することになっており、職員の給与のうち死亡退職金に関する内容は国家公務員等退職手当法と同一の支給基準となっている。以上のような経緯からみて控訴人の職員の死亡退職金については国家公務員と同様に考えるべきである。 また本件の弔慰金も相続財産ではない。弔慰金は死者の葬儀費用の一部と遺族に対し金銭的な形で哀悼の意を表し遺族を慰藉するためのもので、その交付額も社会通念上相当の範囲内のものであるから、これは遺族に直接贈与するもので、死者の相続財産となることはない。 3(被控訴人) 控訴人の前記2(二)の主張は争う。 二 証拠《略》 理 由 一 被控訴人の第一次請求について 1 被控訴人は、Aが昭和50年2月28日死亡し、その相続人のあることが明かでないため成立した亡A相続財産法人であること、控訴人は昭和33年7月25日日本貿易振興会法により昭和26年2月28日設立の財団法人海外貿易振興会の一切の権利、義務を承継して設立された特殊法人であること、Aは昭和26年5月18日から右財団法人海外貿易振興会及び控訴人に雇われ、その従業員として控訴人の従たる事務所である大阪本部に勤務しており、右勤務中に死亡したが、死亡当時における本俸は3等級15号(月額22万0100円)で、勤続年数は23年10ケ月であったこと、控訴人には内部規程として「職員の退職手当に関する規程」(以下、本件規程と略称する)がありその内容が被控訴人主張のとおりであること、はいずれも当事者間に争いがない。 2 被控訴人は、Aの前示本俸、勤続年数を基準として本件規程により算出される死亡退職金及び弔慰金が同人の相続財産に属することを理由にその支払を求めるので検討する。 およそ企業がその従業員や職員が死亡した場合に支払う死亡退職金の法的性質は、相続財産に属するか受給権者の固有の権利であり相続財産でないかは一律に決することはできないのであって、当該企業の労働協約、就業規則あるいは本件におけるような規程の内容からこれを考えるべきである。 本件につきこれをみるに、《証拠略》によれば、控訴人の職員に関する死亡退職金の支給につき、被控訴人の主張する規定のほか、控訴人の主張するとおりの規定の存することが認められ、本件規程第2条で「この規程の規定による退職手当は、本会の職員で常時勤務に服することを要するものが退職した場合に、その者(死亡による退職の場合には、その遺族)に支給する。」と規定し、本件規程第8条で、右第2条の遺族の範囲及び順位を規定しているが、その要旨は、(1)第2条に規定する遺族の範囲は、 (一)配偶者(内縁の配偶者を含む)、 (二)子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で職員の死亡当時主としてその収入によって生計を維持していたもの、 (三)右(二)に掲げる者の外、職員の死亡当時主としてその収入によって生計を維持していた親族、 (四)子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で(二)に該当しないもの、 とし、(2)前項に掲げる者が退職手当を受ける順位は、前項各号の順位により、第(二)号及び第(四)号に掲げる者のうちにあっては、同号に掲げる順位による。 この場合において、父母については養父母を先にし実父母を後にし、祖父母については養父母の父母を先にし実父母の父母を後にし、父母の養父母を先にし父母の実父母を後にする、(3)退職手当の支給を受けるべき同順位の者が2人以上ある場合には、その人数によって等分して支給する、というものである。 以上のように本件規程によると、死亡退職金の支給を受ける者の第一順位は配偶者であって、配偶者がいれば子はまったく支給を受けないし、配偶者には内縁を含むこと、直系血族間でも親等の近い父母が孫より先順位となり、嫡出子と非嫡出子が平等に扱われ、父母や養父母については養方が実方に優先すること、死亡した者の収入によって生計を維持していたかどうかによって順位に著るしい差異を生ずること、受給権者が給付を受けずに死亡した場合には、受給権者の相続人でなく、同順位または次順位の者が給付を受け、給付を受ける権利は相続の対象とされていないことなどからみると、右規程の中心的機能は遺族自体の扶養にあって遺族が右規程に基づき直接死亡退職金を受給できるとみられるので、本件規程による死亡退職金は相続財産に属せず、受給権者である遺族の固有の権利と解するのが相当である。 また、本件規程による弔慰金については、その受給権者を特に定めていないが、本件規程により算出される弔慰金の額からみて喪主の主宰する死者の葬式費用ないし遺族に対する金銭をもってする慰藉のための贈与と解するのが相当であるから、その性質からみて相続財産に該当しないことは明らかである。 以上のとおりであるから、本件規程による死亡退職金及び弔慰金が亡Aの相続財産であることを前提とする被控訴人の第一次請求は理由がない。 二 被控訴人の第二次請求について 被控訴人は、Aが昭和50年2月27日控訴人を退職したと主張するけれども、右主張事実を認めるに足る証拠はないので、同人の生前退職を前提とする第二次請求はその余の点を判断するまでもなく理由がない。 三 よって、以上と結論を異にする原判決を取消し、被控訴人の請求を棄却し、被控訴人の附帯控訴を棄却し、民訴法89条、96条を適用して主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 首藤武兵 裁判官 丹宗朝子 西田美昭) 以上:4,036文字
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