令和 3年 4月 8日(木):初稿 |
○死亡退職金の支給規程のない財団法人が死亡した理事長の妻に支給した死亡退職金が相続財産に属さず妻個人に属するものとした昭和62年3月3日最高裁判決(判タ638号130頁、判時1232号103)全文を紹介します。 ○事案は、次の通りです。 ・財団法人Aは、死亡退職金の支給規程を定めていなかったが、理事長Bの死亡後、Bの妻Yに死亡退職金として2000万円を支給した ・Bの子であるXら(2名)は、この死亡退職金はXら及びYの共有財産であるから平等に分割されるべきであるとして、Yに対しXらの持分の支払を求めた ・一審は、相続人の一人であるYは遺族の代表として死亡退職金を支給されたものと解すべきであるからこの退職金を共有持分に応じて分割すべきであるとして、Xらの請求を認容した ・これに対し、原審昭和59年1月30日東京高裁判決(家庭裁判月報39巻10号76頁)は、この死亡退職金は相続という立場を離れてBの配偶者であったY個人に対して支給されたものであるとして、Xらの請求を棄却した ・Xらの上告 ○死亡退職金の受給権者ないし相続財産性については、死亡退職金の支給基準、受給権者の範囲、順序が法令や就業規則等で定められている場合について、①受給権者の固有の権利とみる説(以下「固有権説」という。)、②相続財産とみる説及び③特別受益分とみる説に分かれています(浅見公子・新版相続法の基礎91頁、時岡泰・昭和55年度最高裁判例解説366頁)。 ○通説、判例は、固有権説をとっており、昭和55年11月27日最高裁判決(民集34巻6号815頁、判タ434号169頁)は、特殊法人日本貿易振興会の職員Aが死亡し、同人の相続財産法人が、右特殊法人に対しAの死亡退職金の請求をした事案において、「死亡退職金の支給等を定めた特殊法人の規程に、死亡退職金の支給を受ける者の第一順位は内縁の配偶者を含む配偶者であって、配偶者があるときは子は全く支給を受けないことなど、受給権者の範囲、順位につき民法の規定する相続人の順位決定の原則とは異なる定め方がされている場合には、右死亡退職金の受給権は、相続財産に属さず、受給権者である遺族固有の権利である。」旨を判示ています。 ○昭和58年10月14日最高裁判決(裁判集140号115頁、判タ532号131頁)も、滋賀県立高校の教諭であったAが死亡し、同人の遺言執行者が滋賀県に対し死亡退職金の支払を求め、これに対し同県が右退職金は条例に基づきAの妻Bに支給すべきものであってAの相続財産に属さないと主張して争った事案において、死亡退職金の受給権は、受給権者たる遺族固有の権利であり亡Aの相続財産には属さない旨を判示しています。 ○死亡退職金の支給につき全く規程がない場合、学説には、相続財産に属さないとする説と相続財産となるとする説に分かれ、裁判例も同様に分かれていましたが、本判決は、死亡退職金につき相続財産性を否定する最高裁の判例の流れの中にあるものと位置づけることができるもので、死亡退職金の支給規程のない財団法人において理事長の死亡後同人に対する死亡退職金として支給する旨の決定をし同人の妻に支払われた金員は、特段の事情のない限り、相続財産に属するものではなく、妻個人に属するものと認めるべきものとした原審の認定判断は相当としました。 *************************************** 主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人らの負担とする。 理 由 上告代理人○○○○の上告理由について 亡B(以下「B」という。)は財団法人○○会(以下「○○会」という。)の理事長であつたこと、Bの死亡当時、○○会には退職金支給規程ないし死亡功労金支給規程は存在しなかつたこと、○○会は、Bの死亡後同人に対する死亡退職金として2000万円を支給する旨の決定をしたうえBの妻である被上告人にこれを支払つたことは、原審の適法に確定した事実であるところ、右死亡退職金は、Bの相続財産として相続人の代表者としての被上告人に支結されたものではなく、相続という関係を離れてBの配偶者であつた被上告人個人に対して支給されたものであるとしてBの子である上告人らの請求を棄却すべきものとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決の結論に影響のない説示部分を論難するものにすぎず、採用することができない。 よつて、民訴法401条、95条、89条、93条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 安岡滿彦 裁判官 伊藤正己 長島敦 坂上壽夫) 以上:1,947文字
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