令和 2年10月30日(金):初稿 |
○「”相続人不存在・不在者財産管理の落とし穴”紹介-予納金2」を続けます。 貸金返還請求の相手方Aが死亡して相続人が不存在ですが、Aに預貯金等の財産が残されていた場合、債権者としては、Aについて相続財産管理人を選任して、相続財産管理人相手に訴訟を提起して判決を得て、最終的には預貯金を差し押さえる方法が一般的です。 ○私も、この場合、相続人の居ないAについて相続財産管理人を選任するしか回収方法がないと思っていましたが、この考えが誤認例とされていました。本当は「特別代理人選任の申立や相続財産の破産の申立により目的を達成できることもある」と解説されています。 ○相続財産管理人を選任すると最終解決まで1年以上かかります。そこで債権者は「亡A相続財産」という相続財産法人を被告とする訴訟提起とその特別代理人選任の申立を行うことによって、同相続財産に対する訴訟を進行させることができるとのことです。 ○その根拠は、代表者の存在しない相続財産法人対して訴訟行為を行う場合も、特別代理人選任申立ができるとの昭和5年6月28日大審院決定(民集9・640)でが挙げられています。この決定、全文カタカナ書き文語体で読みづらいことこの上ないですが、後記します。 ○特別代理人選任申立の際の裁判所に対する予納金は5~10万円程度で相続財産管理人選任申立予納金よりはずっと低廉になっており、また、請求に対する答弁も不知となり、判決も相続財産管理人を相手にするよりズッと早くなりそうで、良いことずくめです。預貯金差押等の強制執行にも特別代理人選任申立もできます(昭和6年12月9日大審院決定民集10・1197)。 ******************************************* 事 実 抗告人ハ亡木部得志外10名ニ対スル土地所有権確認請求ノ訴ヲ前橋地方裁判所ニ提起セムトスレトモ右得志ノ推定家督相続人ナシ然ルニ右訴ノ提起ヲ遅滞スルニ於テハ損害ヲ受クル虞アリトノ理由ニヨリ右裁判所ノ裁判長ニ対シ右得志ニ属セシ財産ノ為特別代理人ノ選任ヲ申請シタル処昭和5年4月23日同裁判長ハ本件ノ如キ場合ニ於テハ特別代理人ノ選任ヲ申請スルコトヲ得サルモノトシテ該申請ヲ却下シタリ之ニ対シ抗告人ヨリ原院ニ抗告ヲ為シタルニ同年5月22日原院ハ抗告ヲ理由ナキモノトシテ棄却ノ決定ヲ為シタルヲ以テ抗告人ハ当院ニ再抗告ヲ為シタリ 理 由 抗告理由ハ一、原決定理由ニヨレハ「然レトモ旧民事訴訟法第46条ニハ訴訟無能力者又ハ相続人未定ノ遺産又ハ不分明ナル相続人ニ対シ訴ヲ起スヘキ場合ニ法律上代理人アラサルトキハ裁判長ハ申立ニヨリ特別代理人ヲ選任スヘキ旨ノ規定存シタルニ拘ラス現行民事訴訟法第56条ニ於テ法定代理人ナキ未成年者又ハ禁治産者ニ対シ訴訟行為ヲ為サントスル場合ニ特別代理人ノ選任申請ヲ為シ得ヘキ旨規定シ相続人未定ノ相続財産ニ対スル場合ヲ除外シタルハ民法第1051条ノ規定ニヨリ相続人未定ノ相続財産ニ対シ訴訟ヲ提起セントスルトキニハ裁判所ハ其ノ相続財産ノ管理人ノ選任ヲ請求スルヲ以テ足リ別ニ之カ特別代理人ノ選任ヲ必要トセサルニ出テタルモノニシテ畢竟民事訴訟法第58条ニ依リ前示第56条ノ準用アルヘキ法人ノ代表者ニ付テハ前叙ノ如キ相続財産ノ場合ヲ包含セサルモノト解釈スルヲ妥当トス云々」ト説示シ抗告人ノ抗告ヲ棄去セラレタリ二, 現行民事訴訟法第56条制定ノ沿革ニヨレハ同条ノ前身タル草案51条ニハ当初「法定代理人ノ缺ケタル場合又ハ法定代理人カ代理権ヲ行フコト能ハサル場合ニ於テ訴訟無能力者ニ対シ訴訟行為ヲ為サントスル者ハ云々裁判長ニ特別代理人ノ選任ヲ申請スルコトヲ得相続人ノ確定セサル相続財産ニ対シ訴訟行為ヲ為サントスル場合亦同シ」トアリタルヲ民事訴訟法改正調査委員会ニ於テ審議ノ末相続財産ニ対シテハ民法第1051条ニヨリ財産管理人選任ヲ申請シ之ニ対シ訴訟行為ヲ為サシムレハ足ル敢テ特別代人選任申請ヲ容スノ必要ナシトノ理由ニヨリ其ノ後段「相続財産ニ関スル部分」ヲ削除シテ修正セラレ又第51回帝国議会委員会ニ於ケル政府委員ノ説明亦之ト同旨ナルヲ以テ此ノ沿革上ノ理由ニ囚ハルルトキハ勿論原決定理由ノ如ク現行法58条ニ依リ56条ノ準用セラルヘキ範囲ハ相続財産ノ場合ヲ除外シタル其ノ他ノ法人ノ代表者ニ関スル規定ト解スヘク 従テ相続人未定ノ財産ニ付テハ遂ニ特別代理人ノ選任ヲ容ササルモノト解釈スルノ外ナカラン然レトモ若シ法規解釈ノ目的ハ立法者ノ意思ヲ明ニセントスモノニ非スシテ法規其ノモノノ意義ヲ明ニスルモノナリトノ見解カ正シキモノトセハ叙上歴史的ノ事実ニハ毫モ膠着スルノ要ナク吾人ハ須ラク法律トシテ発表セラレタルモノニ付学理的ニ其ノ意義ヲ確定スヘキモノナリト信ス果シテ然ラハ成文上56条ハ未成年者又ハ禁治産者ニ法定代理人カ缺ケタル場合ニ特別代理人ノ選任ヲ申請シ得ヘキコトヲ定メ而シテ58条ニ於テ56条ヲ準用スル結果トシテ法人ニ代表者カ缺ケタル場合ハ相続財産タル法人ナルト又ハ其ノ他ノ法人ナルトヲ問ハス総テ特別代理人ノ選任ヲ申請シ得ルモノト解スルカ妥当ニシテ56条ノ範囲カ相続財産ヲ除外シタル以外ノ法人ニ限ルト云フカ如キ見解ハ叙上沿革上ノ理由タル隠レタル立法者ノ意思ヲ外ニシテハ認ムヘキ何等根拠ナキモノナリト謂ハサルヘカラス 加之コレヲ吾人ノ実生活ヨリ考察スレハ其ノ相続人未定ノ財産ニ対スル場合ト他ノ未成年者又ハ禁治産者若クハ一般ノ法人ニ対スル場合トハ之カ特別代理人選任ヲ必要トスル理由ニ付毫モ差異アルコトナシ殊ニ留意スヘキハ相続人未定ノ財産ニ付民法ニ従ヒ財産管理人ノ選任ヲ申請スルニハ多クノ日時ト費用トヲ要シ到底未成年者又ハ禁治産者ニ法定代理人ノ缺ケタル場合ニ訴訟当事者カ利害関係人トシテ後見人ヲ選任ノ為ノ親族会招集ヲ申請スルノ比ニアラス然ルニ後者ニ対シテハ特別代理人ノ選任ヲ容シナカラ前者ニ対シ之ヲ許サストスルカ如キハ主客ヲ顛倒シタルモノニシテ不衡平モ亦甚シク全ク社会事情ヲ無視シタルモノト謂ハサルヲ得ス要之58条ノ準用範囲ヲ抗告人主張ノ如ク広ク解スルトキハ或ハ同条制定ノ沿革ニハ矛盾スルヤモ知ルヘカラスト雖而モ成文上ノ解釈トシテモ将亦社会的需要ニ適応スル点ヨリスルモ寧ロ法ノ精神ニ合致スヘシト確信スルモノナリ仍テ原決定ニハ服シ難ク茲ニ抗告スル所以ナリト云フニ在リ 按スルニ現行民事訴訟法第56条ハ未成年者又ハ禁治産者ニ対シ訴訟行為ヲ為サムトスル者カ特別代理人ノ選任ヲ申請スルコトヲ得ヘキ場合ヲ定メタルノミニ止リ旧民事訴訟法第46条ノ如ク相続人ノ未定ノ遺産又ハ不分明ナル相続人ニ対シ訴ヲ起スヘキ場合ニ於ケル特別代理人選任申請ヲ為シ得ヘキ旨ヲ定メタルモノニ非サレトモ其ノ第58条ニ於テ本法中法定代理及法定代理人ニ関スル規定ハ法人ノ代表者ニ之ヲ準用スル旨ヲ定メ特ニ民法第1051条ニ依ル法人タル相続財産ヲ除外セサルカ故ニ前記第56条ノ規定ハ法人タル相続財産ノ代表者ナキ場合ニ当然其ノ準用アルヘク従テ右相続財産ニ対シ訴訟行為ヲ為サムトスル者ハ同ク受訴裁判所ノ裁判長ニ特別代理人ノ選任ヲ申請スルコトヲ得ルモノト解スルヲ相当トス 尤モ民法第1052条ニハ法人タル相続財産ノ為利害関係人ニ於テ所轄裁判所ニ管理人選任ノ申請ヲ為シ得ヘキ旨ヲ定メタルモ右相続財産ニ対シ訴訟行為ヲ為サムトスル者カ其ノ選任ヲ待ツコト能ハサル事由アル場合ニ於テハ上述ノ如ク特別代理人ノ選任ヲ申請スル必要アルカ故ニ管理人選任申請ノ途アルコトハ現行民事訴訟法第58条ニ依リ同第56条ヲ右相続財産ノ代表者ニ準用スルノ妨ケト為ラス本件ニ付之ヲ観ルニ抗告人ノ申請要旨ハ抗告人ヨリ亡戸主木部得志外10名ニ対シ土地所有権確認請求ノ訴ヲ提起セムトスレトモ右得志ノ法定推定家督相続人ナシ然ルニ該訴ノ提起ヲ遅滞スルニ於テハ損害ヲ受クル虞アルヲ以テ右得志ニ属セシ財産ノ為特別代理人ノ選任ヲ求ムルト云フニ在ルカ故ニ其ノ主張事実ノ疏明アルニ於テハ受訴裁判所ノ裁判長ハ右相続財産ノ為特別代理人ヲ選任スヘキモノナルコト前段ノ説明ニ依リ明白ナリトス然ラハ受訴裁判所ノ裁判長カ本件ノ場合ニ於テハ現行民事訴訟法第56条ヲ準用スヘキ限リニ非ストシテ該申請却下ノ命令ヲ為シ原決定カ之ヲ相当ト認メテ抗告ヲ棄却シタルハ何レモ違法ナルヲ以テ本件再抗告ハ理由アリ仍テ民事訴訟法第414条第408条第396条第389条第1項第386条ニ則リ主文ノ如ク決定ス 以上:3,451文字
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