令和 1年12月14日(土):初稿 |
○「被相続人銀行印鑑届書記載情報開示請求を認めた高裁判決紹介」の続きで、その上告審である平成31年3月18日最高裁判決(判タ1462号10頁、判時2422号○頁)全文を紹介します。 ○被上告人が、銀行である上告人に対し、被上告人の亡母が提出した本件印鑑届書の情報は個人情報の保護に関する法律2条7項に規定する保有個人データに該当すると主張して、同法28条1項に基づき、本件印鑑届書の写しの交付を求め、一審原審平成28年10月26日岡山地裁判決は請求を棄却するも、控訴審平成29年8月17日広島高裁岡山支部判決は、被上告人の請求を認容していました。 ○私は控訴審判決の方が妥当と思っていましたが、最高裁判決は、相続財産についての情報が被相続人に関するものとしてその生前に個人情報保護法2条1項にいう「個人に関する情報」に当たるものであったとしても、そのことから直ちに、当該情報が当該相続財産を取得した相続人等に関するものとして「個人に関する情報」に当たるということはできないとし、これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼす明らかな法令の違反があり、原判決を破棄し、被上告人の請求を棄却した第1審判決は結論において正当あるとしました。 *************************************** 主 文 原判決を破棄する。 被上告人の控訴を棄却する。 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。 理 由 上告代理人○○○○ほかの上告受理申立て理由について 1 本件は,被上告人が,銀行である上告人に対し,被上告人の死亡した母(以下「亡母」という。)が提出した第1審判決別紙記載の印鑑届書(以下「本件印鑑届書」という。)の情報は個人情報の保護に関する法律(以下「法」という。)2条7項に規定する保有個人データに該当すると主張して,法28条1項に基づき,本件印鑑届書の写しの交付を求める事案である。ある情報が,同項に基づき開示を請求することができる保有個人データに該当するというためには,少なくとも開示請求者に関するものとして法2条1項にいう「個人に関する情報」に当たることが必要であるところ,本件では,本件印鑑届書の情報が被上告人に関するものとして上記「個人に関する情報」に当たるか否かが争われている。 2 原審が適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。 (1) 亡母は,平成15年8月29日,上告人井原支店に普通預金口座(以下「本件預金口座」という。)を開設し,その際,上告人に対し,本件印鑑届書を提出した。本件印鑑届書には,亡母が上告人との銀行取引において使用する銀行印の印影があり,亡母の住所,氏名,生年月日等の記載がある。 (2) 亡母は,平成16年1月28日に死亡した。その法定相続人は,いずれも亡母の子である被上告人ほか3名であった。亡母の平成15年8月29日付けの遺言書による遺言は,本件預金口座の預金のうち1億円を被上告人に相続させるなどというものであった。 3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断して,被上告人の請求を認容した。 ある相続財産についての情報であって被相続人に関するものとしてその生前に法2条1項にいう「個人に関する情報」であったものは,当該相続財産が被相続人の死亡により相続人や受遺者(以下「相続人等」という。)に移転することに伴い,当該相続人等に帰属することになるから,当該相続人等に関するものとして上記「個人に関する情報」に当たる。本件印鑑届書の情報は,本件預金口座に係る預金契約上の地位についての情報であって亡母に関するものとして上記「個人に関する情報」であったから,亡母の相続人等として上記預金契約上の地位を取得した被上告人に関するものとして上記「個人に関する情報」に当たる。 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1) 法は,個人情報の利用が著しく拡大していることに鑑み,個人情報の適正な取扱いに関し,個人情報取扱事業者の遵守すべき義務等を定めること等により,個人情報の有用性に配慮しつつ,個人の権利利益を保護することを目的とするものである。法が,保有個人データの開示,訂正及び利用停止等を個人情報取扱事業者に対して請求することができる旨を定めているのも,個人情報取扱事業者による個人情報の適正な取扱いを確保し,上記目的を達成しようとした趣旨と解される。 このような法の趣旨目的に照らせば,ある情報が特定の個人に関するものとして法2条1項にいう「個人に関する情報」に当たるか否かは,当該情報の内容と当該個人との関係を個別に検討して判断すべきものである。したがって,相続財産についての情報が被相続人に関するものとしてその生前に法2条1項にいう「個人に関する情報」に当たるものであったとしても,そのことから直ちに,当該情報が当該相続財産を取得した相続人等に関するものとして上記「個人に関する情報」に当たるということはできない。 (2) 本件印鑑届書にある銀行印の印影は,亡母が上告人との銀行取引において使用するものとして届け出られたものであって,被上告人が亡母の相続人等として本件預金口座に係る預金契約上の地位を取得したからといって,上記印影は,被上告人と上告人との銀行取引において使用されることとなるものではない。また,本件印鑑届書にあるその余の記載も,被上告人と上告人との銀行取引に関するものとはいえない。その他,本件印鑑届書の情報の内容が被上告人に関するものであるというべき事情はうかがわれないから,上記情報が被上告人に関するものとして法2条1項にいう「個人に関する情報」に当たるということはできない。 5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,被上告人の請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は結論において正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 木澤克之 裁判官 池上政幸 裁判官 小池裕 裁判官 山口厚 裁判官 深山卓也) 以上:2,575文字
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