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死亡退職金を特別受益として持ち戻しを認めた家裁審判紹介2

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令和 1年 7月15日(月):初稿
○「死亡退職金を特別受益として持ち戻しを認めた家裁審判紹介1」の続きで、死亡退職金については国家公務員退職手当法2条及び11条の趣旨からすれば、同規定による受給権者は固有の権利として取得すると解するのが相当であるが、共同相続人間の実質的公平の見地からすると、やはり特別受益になるものと解すべきであるとした昭和51年11月25日大阪家裁審判(審判家月29巻6号27頁)を紹介します。

○この審判は、生命保険金についても、保険金の受取人と指定された相続人の固有財産に属するものと考えられるが、相続人間の公平という見地から被相続人がその死亡時までに払い込んだ保険料の保険料全額に対する割合を保険金に乗じて得た金額をもつて特別受益とすべきとしています。

○また被相続人の妻(相手方)において、その婚姻中勤務を続け、被相続人より少なくはない収入を得ていた場合、婚姻期間中に得た財産が被相続人名義になつているとしても実質的には被相続人及びその妻の共有に属すると考えるべきであり、妻の寄与分として5割をもつて相当と認めるとしました。

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主  文
申立人は金295万4385円を取得する。
相手方は金404万5615円を取得する。

理  由

第一 当事者双方の主張
一 申立の実情

1 被相続人Aは昭和48年8月28日××市○○区で死亡して相続が開始し、被相続人の母である申立人および妻である相手方がそれぞれ各2分の1の法定相続分をもつて、被相続人の遺産を相続した。

2 被相続人の生前、被相続人は申立人および相手方の3人で生活し、申立人は被相続人の扶養を受けていたものであるところ、昭和49年2月24日、申立人と相手方との間で下記の契約が成立した。
(1) 相手方は申立人に昭和49年2月24日金400万円を贈与する。
(2) 申立人は、同人の二男Bの扶養を受け、相手方は申立人に対して扶養の義務を負うことなく、かつ申立人の扶養者の扶養については一切関与せず、申立人もまた相手方に対して一切関与しない。

         (中略)


第二 当裁判所の判断
一 相続人および法定相続分

 本件記録中の戸籍謄本によると、被相続人Aが昭和48年8月28日死亡して、その相続が開始し、被相続人の妻である相手方および母である申立人が被相続人の遺産を相続した(但し、申立人は本件の調停進行中である昭和50年1月20日死亡し、被相続人のただ1人の弟であり、申立人の二男であるBが、本件手続を承継した)ことが認められ、従つて、申立人および相手方の法定相続分は各2分の1であることが認められる。

二 遺産の範囲および価額
1 本件記録中の登記簿謄本3通、「お支払明細書」と題する書面(○○生命保険相互会社保険金課作成)、△△大学退職手当決定通知書二通、家庭裁判所調査官長尾紘也作成の調査報告書、不動産売買契約証書、公団公社分譲住宅速報に、当事者間に争いのない事実を総合すると、被相続人の遺産およびその価額は次のとおりであることが認められる。
(1) 交通災害保険金(×××市の交通災害保険に基づくもの) 金50万円
(2) 預金 金155万円
(3) 社債 金80万円
(4) 別紙目録記載の土地、建物 価額金600万円
 同建物については昭和48年11月19日付で、相続を原因として被相続人から相手方に所有権移転登記がなされているが、後記の遺産分割協議がなされた時点での価額は金800万円程度であると考えるのが相当であるところ、同価額のうち、相手方が相続開始時以降支払うべきローン残高200万円を控除して、遺産分割の対象としての価額は金600万円をもつて相当とする。
(5) 自動車損害賠償責任保険金(以下自賠責保険金と称する)金700万円

2 上記認定の遺産の外に、申立人は被相続人が○○生命保険相互会社との間で締結した、相手方を受取人とする生命保険金1000万円についても、被相続人の遺産に含まれる旨主張するが、上記資料の外、相手方代理人作成の保険内容に関する書面によれば本件のように被相続人自身が契約し、相続人のうちの1人である相手方のみを受取人と指定している場合は、保険契約の効力として、支給された保険金は相手方の固有財産に属するものと考える。

 しかしながら、保険金請求権についても、相続人間の公平という見地から特別受益とみなして分割の際に考慮すべきである。但し、特別受益分として持戻すべき額は、保険契約者であり保険料負担者である被相続人において、その死亡時までに払い込んだ保険料の、保険料全額に対する割合を保険金に乗じて得た金額とすべきものと考える。しかして、本件保険契約の内容は、契約日は昭和48年1月1日、当時の被相続人の年齢は40歳8ヵ月で保険料年額8万3040円(月額6920円)を満60歳に達するまでの20年間支払うこととなつている。

 そうすると、支払うべき保険料の総額は
 83,040円×20 = 1,660,800円
 であり、被相続人が死亡時までに支払つた保険料は昭和48年1月から8月分までであるので、
 6,920円×8 = 55,360円
 となる。

 これに対して支給された保険金は997万2320円であつた(上記保険料年額の不足分9月から12月までの四ヵ月分2万7680円が差引かれたので、上記の額となつた。)。従つて、特別受益分として持戻されるべき金額は、
 9,972,320×55,360/1,660,800 = 332,410.66
 33万2410円(小数点以下切捨て)ということになる。

3 更に、被相続人のいわゆる死亡退職金について検討するに、上記各資料によれば、被相続人は死亡するまで、×××××として△△大学○学部に勤務していたので、その死亡によつて、金234万1160円の退職手当を支給されたことが認められるところ、国家公務員退職手当法2条および11条によれば、国家公務員の死亡による退職の場合は、1、配偶者、二、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で職員の死亡当時主としてその収入によつて生計を維持していた者、三、上記の外、職員の死亡当時主としてその収入によつて生計を維持していた親族、四、子、父母、祖父母及び兄弟姉妹で第2号に該当しない者、の順位で、その退職手当が支結されることが規定されており、この規定内容は民法に定める被相続人の順位決定の原則とは異なつていることから、公務員の退職金制度は公務員およびその遺族の生活の安定と福祉の向上を図ることを第一目的とするものであると考えられる。

従つて、死亡退職金の受給権を有する遺族、本件においては相手方は固有の権利として被相続人の死亡による退職手当を取得すると解するのが相当である。しかしながら、共同相続人間の実質的公平の見地から、遺産分割の際、これについて全く考慮に入れないのは妥当でなく、特別受益になるものと解すべきである。

4 なお、株式会社△△△公益社から前田家宛の領収書2通によれば被相続人の葬儀費用として金43万9800円を要したことが認められる(証拠上認められるもの)ところ、葬儀費用(相続開始後の法事の費用については遺産分割の際考慮すべきではないと解する)は遺産のうちから負担すべきものと解するので、遺産分割の対象となる遺産の範囲を確定する際には、これを遺産のうちから控除すべきである。

 相手方は墓地購入費についても遺産のうちから控除すべきである旨主張するが、墓地は祭祀用の財産であると解すべきであり、遺産とは別個にその帰属を定めるべきであるから、墓地購入費用は本件遺産のうちから控除しないこととする。

三 相手方の寄与分
 上記各資料および△△△市の市民税、府民税特別徴収税額の納税者への通知書六通ならびに本件調停および審判の過程で顕われた一切の事情を総合すると、相手方は被相続人との婚姻中、被相続人の死亡直前の昭和48年6月15日まで、大阪府立××療養所○○○病院、大阪府立△△病院等で○○○として勤務を続け、この間、被相続人の収入を上回りこそすれ決して低くはない収入を得ていたもので、その生活費、財産購入費等は、相手方と被相続人との収入をまとめたものの中から支出されていたことが認められる。

 上記事実によれば、相手方と被相続人との婚姻期間中に得た財産(本件においては、第2、2、1記載の遺産のうち(2)、(3)、(4))について、被相続人名義になつていても相手方の財産取得に対する寄与を認めるべきであり、実質的には相手方と被相続人の共有に属すると考えるべきである。しかして、その寄与割合は、上記資料によれば、相手方と被相続人の収入の比率はほぼ3対2ないし4対3となることは認められるけれども、これによつて、相手方の寄与割合を機械的に定めるのも相当でなく、5割をもつて相当と考える。

 なお、申立人は申立人自身にも被相続人の財産の増加に寄与がある旨主張し、上記各資料によれば相手方と被相続人がそれぞれの職業に従事している間、同居している申立人は家事のほとんどをとりしきつていたことは認められるけれども、これは、同居している親族としては通常なされるべき程度の協力であるから、これをもつて特に被相続人の財産の増加に寄与があつたとは認められない。

四 遺産分割協議の有無
(一) 申立人と相手方との間で、昭和49年2月に成立した贈与契約について、相手方は遺産分割の協議であると主張し、申立人は申立人に対する相手方の扶養義務の履行である旨主張するので、この点について判断する。


         (中略)



五 申立人と相手方との具体的相続分
(一) 以上述べたところを総合して遺産の総額を算出すると、第2、2、1の遺産のうち、(2)ないし(4)についてはその総額から相手方の寄与分5割を差引いた金額(なお、(4)については、本件が一部分割を有効とし、残余財産をもつてその修正を図るという見地から、評価の時期は一部分割がなされた時期を基準とすべきものと考える)を遺産分割の対象とすることになるので、金417万5000円となり、これに同(1)および(5)を加算して、1167万5000円となる。更に第2、2、2および3の特別受益分を加算すると、分割の対象として考慮すべき総額は金1434万8570円となるが、このうちから上記認定の葬儀費用43万9800円を控除すると、遺産総額は金1390万8770円となる。

(二) そこで、上記金額に申立人および相手方の各2分の1の相続分を乗ずると、申立人および相手方がそれぞれ取得すべき金額は、いずれも、金695万4385円となるが、申立人は一部分割の際既に金400万円を取得しているのでこれを差引いた金295万4385円を取得すべきであり、相手方は、既に金290万8770円を取得しているのでこれを差いた金404万5615円を取得すべきである。

六 結論
 以上の次第であるから、本件において具体的に分割の対象となるのは金700万円であり、このうち、申立人は金295万4385円、相手方は金404万5615円をそれぞれ取得すべきものと定める。
 よつて、主文のとおり審判する。
 (家事審判官 佐野久美子)
以上:4,588文字

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