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死亡退職金を特別受益として持ち戻しを認めた家裁審判紹介1

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令和 1年 7月14日(日):初稿
○「遺留分減殺請求で死亡保険金の特別受益持ち戻しを認めた地裁判決紹介」の続きです。死亡退職金は、受取人の固有の権利であり遺産に属さないので遺産分割の対象にならず、特別受益として持ち戻しの対象にはならないと一般に解説されています。しかし、最近の裁判例でこれを明言した例は余り見当たりません。

○古い判例ですが、被相続人と先妻との間の子が、後妻及びその間の子に対して遺産分割を求めた事案において、後妻が取得した死亡退職金、生命保険金及び被相続人が後妻名義で積立てた定期積立預金につき、これらは、いずれも被相続人が相手方母子両名の生活保障のためのもので、この両名による共同での特別受益にあたり、結局母子両名の具体的相続分はないとした昭和55年9月16日福島家裁審判(家月33巻1号78頁)を紹介します。

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主  文
一 被相続人Aの遺産をつぎのとおり分割する。
1 申立人X2はつぎの不動産を取得する。
ア 福島市○町×-× 宅地面積145・67平方メートル
イ 同上所在居住家屋番号×-× 木造瓦葺平家建
 床面積41・32平方メートル
2 申立人X1はつぎの物件を取得する。
ア 福島市○○○字○○○×-×× 原野面積1、270・00平方メートル
イ 期末勤勉手当(昭和53年度12月分支給分) 434、060円
ウ 死亡後被相続人名義で支給された給与 151、948円
エ ○○銀行(○○支店)普通預金 568、505円
オ ・普通乗用車(トヨタコロナ 49年型 1600CC)一台
3 申立人X2は同X1に対し550、995円を支払え。
二 相手方Y1、同Y2は本件遺産からなにも取得しない。
三 鑑定費用80、000円はこれを4分し、各当事者はその1づつを負担する。

理  由

(一) 相続人

 被相続人Aは昭和53年11月11日死亡し、その相続人は同人とその先妻亡Bとの間の長男申立人X1、長女同X2、および被相続人の妻であつた相手方Y1、同女との間の長男相手方Y2の4名である。
 
(二) 特別受益
1 別表二のうち一の死亡退職金および3~5の各保険金は被相続人の死亡によつて発生した財産権であるので、被相続人の遺産を構成するものではなく、その取得者によつて原始取得されたものといえる。しかし、右各財産権の発生には被相続人の生存中その財産からのなんらかの出損(被相続人の給料等からの退職金の積立て、保険掛金の支払)があるので右財産権の取得はその取得者における被相続人からの特別受益とみることができる

2 同表中二の定期積立貯金は被相続人が相手方Y1名義で積立てたものであるので、贈与として特別受益とみられる。

3 そしてこれらの財産権はその取得名義者は一応相手方Y1であるが、その趣旨は被相続人がその妻Y1とその間の子相手方Y2とのいわば遺族の生活保障のためになしたものであるとみられるので、Y1名義であるということはY2の受益を排除する趣旨ではなく、逆にこれを含めるものであると認められ、したがつて上記受益は相手方両者による共同での特別受益と認められる。

(三) したがつて被相続人の遺産は別表一の財産のみであり、その価額(被相続人の死亡時および現在時)はいずれも同表記載のとおりである。

(四) 遺産の分割
一 先ず特別受益をえた相手方Y1、同Y2がなお本件遺産につき相続分をもつか否かにつき検討する。
ア 被相続人死亡時の遺産の評価額は(一)不動産は計14、676、619円(二)その他の財産は計1、351、938円である。そこで相手方両名の特別受益額計22、362、259円を被相続人の死亡時の遺産額に加えると
 (14,676,619円+1,351,938円)+22,362,259円 = 38,390,816円
 となる。

イ 相手方Y1の法定相続分は3分の1、同Y2のそれは9分の2であるから
 38,390,816円×(1/3+2/9) = 21,328,231円

ウ したがつて相手方両名はすでに自己の法定相続分を越える特別受益をえていることになるので本件遺産についての相続分はないことになる。

二 そこで本件遺産を申立人両名間で配分するに
ア 遺産の現在価額での総額は、
 19,112,062円+1,246,071円 = 20,358,133円
 となりこれを申立人両名で平等配分すると
 20,358,133円×1/2 = 10,179,067円(円以下四捨五入)
 となる。

イ そこで諸般の状況より見て、申立人加代は表一遺産目録中の(一)不動産1・2の福島市○町×-×の土地、建物を、申立人光男はその他の遺産、すなわち(一)不動産三の同市○○○字○○○×-××の原野、と同表(二)のその他の財産をいずれも取得するのが相当であると認める。

ウ そうすると申立人加代の取得財産の価額は
 10,342,570円+387,492円 = 10,730,062円
 となつて自己の相続取得分10、179、067を550、995円越え、他方申立人光男の取得財産の価額は
 8,382,000円+1,246,071円 = 9,628,071円
 となつて上記自己の相続取得分10、179、067円より550、996円(一円は端数)不足することになる。

エ したがつて申立人加代は同光男にこの不足分550・995円を支払うこととして、同両者間を調整することにする。

三 なお鑑定人○○○○に支払つた鑑定費用80、000円はこれを当事者4名が平等分割負担することにする。
 (家事審判官 福島重雄)

 遺産目録〈省略〉

以上:2,291文字

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