平成31年 3月 5日(火):初稿 |
○被相続人Aの共同相続人の1人である申立人の相手方に対する遺産分割等の審判を申し立てた事案で、相手方の妻EによるAへの療養看護を理由とする相手方の寄与分申立しました。 ○これに対し、Eは、通院や入浴の介助など被相続人の世話を約13年間、主として担ってきたのであり、相手方と婚姻生活になじむ間もなく、義父の世話を担うこととなったEの苦労は相当なものであったと認定しながら、寄与分には該当しないとした平成21年3月27日静岡家裁沼津支部審判(家庭裁判月報63巻6号89頁)を紹介します。 ○寄与分と認定しない理由は、 ①Eの行為は、これを相手方の履行補助者の行為であると評価してはじめて寄与行為となるところ、相手方は、子らの中で唯一、成人後も継続して被相続人が所有する不動産において被相続人と同居してきたこと ②被相続人は、退院後は、1日中付添が必要な状態にあったわけではなく、自分でトイレに立ったり、食事を食べることはできたこと ③Eは、被相続人の昼食の支度をした上で、外出やパートに出ることもできたこと ④入院期間中の付添は1日当たりの拘束時間は長かったといえるが付添介護期間が長期にわたるとまではいえないこと 等にから同居の直系親族としての通常期待される扶養義務の範囲を超える療養看護をしたとまでは評価できず、相続分の修正要素たる特別の寄与に該当しないというものでした。 ○抗告されて平成22年9月13日東京高裁決定で覆され寄与分が認定されていますので、別コンテンツで紹介します。 ******************************************** 主 文 1 相手方の寄与分申立てを却下する。 2 被相続人Dの遺産を次のとおり分割する。 (1)別紙遺産目録記載第1の1,3ないし7の各不動産を申立人の取得とする。 (2)別紙遺産目録記載第1の2の不動産を相手方の取得とする。 (3)別紙遺産目録記載第2の預貯金等解約金のうち,25万9090円を申立人の取得とし,246万5869円を相手方の取得とする。 3 相手方は,申立人に対し,前項(3)の25万9090円を支払え。 理 由 一件記録に基づく当裁判所の事実認定及び法律判断の要旨は,以下のとおりである。 1 相続の開始及び法定相続分 被相続人は,平成11年×月×日死亡し,相続が開始した。相続人は,長男である相手方,二男である脱退前相手方(以下「C」という。),長女である申立人であり,その法定相続分は3分の1ずつであったが,Cは,平成16年×月×日,その相続分を放棄し,本件手続から脱退したので,申立人及び相手方の法定相続分は各2分の1ずつとなった。 2 遺産の範囲及び評価 (1)本件遺産分割の対象となる遺産の範囲は,別紙遺産目録(以下「目録」という。)記載のとおりである(不動産につき各登記簿謄本及び第1回審判期日調書,預貯金等解約金につき第13回審判期日調書)。なお,××信用金庫普通預金口座は,平成11年×月×日の残高は8003円であったが,同年×月×日厚生年金が振込入金されたことにより,同年×月×日の解約時残高は42万1197円となった。また,平成11年×月の被相続人の死亡時には,通常郵便貯金の残高は23万6033円であったが,同口座は,遺産である不動産の固定資産税の引落とし口座であり,同残高は固定資産税の支払に毎年充当され,現在残存するものはない。 目録記載第1の1及び4の土地は,現況畑であり,目録記載第1の1の土地はその一部をG氏に駐車場や焼却炉設置の目的で年額3万円で貸している。目録記載第1の2の土地は,××自動車という会社に駐車場として月額8000円で貸している。 目録記載第1の3の土地上に目録記載第1の7の建物(以下「本件建物」という。)があり,相手方夫婦が居住している。本件建物は,目録記載第1の4の土地にも若干跨っている。相手方夫婦は,被相続人の生前は,本件建物において被相続人と同居していた。本件建物は,築90年以上で土台が腐り始めるなど老朽化が著しく,相手方は早く新たに居宅を新築して移り住みたい意向であり,無価値であることについて当事者間に争いはない。なお,目録記載第1の3の土地は,地下水が湧きやすく地盤が軟弱である。目録記載第1の5及び6の土地は,山林で現在は管理もされていない。 目録記載第1の1の土地の西側部分及び目録記載第1の4の土地は,平成19年度急傾斜地崩壊対策事業の××急傾斜地崩壊危険区域に当たり,今後,擁壁等の崩壊防止工事が県または市によって実施される予定である。崩壊防止工事完了までは,同敷地内で立木の伐採や建物の建築及び改造等を行うことは困難であり,工事完了後もこれらの行為には県知事の許可が必要となる。また,目録記載第1の1の土地の東側部分及び目録記載第1の2及び3の各土地は,被害想定区域に該当する。 (2)不動産の評価について,別紙評価目録記載の評価額とすることにつき,当事者間の合意があり(第12,第15回審判期日調書),また,相続開始時の固定資産評価額と本件申立時の固定資産評価額との間に大きな変動は見られないから,相続開始時及び分割時とも同評価額によるのが相当である。 そうすると,遺産(不動産及び預貯金等)の合計額は,3187万1738円となる。 3 特別受益及び寄与分について (中略) (4)当裁判所の判断 ア 被相続人及び相続人らの生活関係について (ア)被相続人は,昭和23年×月×日,妻Fと婚姻し,二人の間には,同年×月×日に長男である相手方が,昭和25年×月×日に二男であるCが,昭和27年×月×日に長女である申立人がそれぞれ出生した。 被相続人は,被相続人の父が大正時代に建てた本件建物で妻子とともに生活し,○○株式会社でメッキ関係の業務に従事していた。 (イ)相手方は,高校卒業後,○○に就職した。相手方は,昭和55年×月に最初の婚姻をしたが,昭和59年×月ころに離婚した。相手方は,この間もずっと実家で生活しており,昭和60年×月×日にFが死亡すると,被相続人と相手方の二人暮らしとなった。被相続人と相手方は,日常生活のさもないことで喧嘩をすることもあった(申立人本人調書93,94項,C調書45ないし47項)。 Cは,家計が苦しいことから高校進学を断念し,当初,東京所在の会社に就職したが,2,3か月で実家に戻って○○に就職し,25歳のころ,○○を退社して,××の運送会社に住み込みで働くようになった。Cは,昭和52年×月×日,婚姻して世帯を持った。 申立人は,高校卒業後,××に就職し,昭和51年×月ころ,Hと2週間ばかり駆落ちしたが,同年×月には両親から認めてもらい,同年×月×日にHと入籍した。申立人は,Hとの間に,二児をもうけた。 (ウ)相手方は,長男ということもあり,成人した後も被相続人夫婦と同居し,食事の支度や衣類等の買い物など身の回りのことは母Fの世話になり,自分の給料は,原則として給料袋ごと母Fに渡して管理してもらっていた。相手方が婚姻後は,給料は妻に渡すようになったが,離婚後は,Fが再び管理し,Fの死亡後は,被相続人が管理していた。 なお,Cと申立人は,独立するまでは実家にいたが,その間,給料を実家に入れるということはなかった。 (エ)申立人は,昭和56年×月,スナックを始めた。被相続人は,××漁業協同組合員で理事などもしたことがあり,鮎釣りなどが趣味であったところ,そのころ,申立人夫婦に,Hの実家近くの川で××鮎の販売業をすることを勧め,××漁業協同組合の組合員の資格の無いHの代りに,昭和57年×月×日,入漁証販売許可を受けた。申立人夫婦は,当初被相続人に手伝ってもらいながら,××鮎販売業を始めた。やがて,相手方名義の××漁業協同組合の出資証券をHに譲渡する代りに,被相続人名義の××漁業協同組合の出資証券は相手方が引き継ぐことになり,Hは,昭和60年×月×日,相手方から××漁業協同組合の出資証券を譲り受け(甲10号証),同年×月×日,自ら,入漁証販売店新設の許可を受けて営業をするようになった(甲16号証)。 (オ)相手方は,昭和61年×月×日,Eと再婚したが,翌月×日ころ,被相続人は,脳梗塞で倒れ,昭和62年×月まで,××病院に入院した。当時の病院は完全看護ではなく,約2か月間,被相続人の費用負担で,順次二人の家政婦の付添いを頼んだが,長くは引受けてもらえず,それ以外の期間はEが主として付添いをし,交換下着の洗濯なども行っていた。 被相続人は,昭和62年×月,退院して自宅に戻ったが,右半身不随で身体障害者2級の認定を受けており,週2回,Eが被相続人を車に乗せてリハビリのため病院に連れて行く生活となった。 被相続人は,判断能力には全く問題がなく,会話もでき,またトイレに行ったり,用意してもらった食事を自分で食べたりすることはできたが,一人で入浴はできず,Eが週2回,通院の前日に被相続人を介助して入浴させていた。 被相続人は,リハビリの仲間と車椅子で旅行に出かけることはあったが,平素は外出することもおっくうになり,通帳からお金を引き出すときにはその都度,Eに頼んでおり,また,訪ねてきた申立人に頼んだこともあり,申立人は被相続人のためにお金を下ろしてくると被相続人からお駄賃をもらった(申立人本人調書114項,120項)。被相続人は,自己の通帳の管理を預けたまま任せきりにするということはなく,Eや申立人は,お金を下ろすとその都度内容を通帳に書き入れて被相続人に渡していた。 被相続人は,亡くなる半年位前から,毎晩,失禁するようになったため,夜間はおむつを使用することとなり,Eがおむつ交換や粗相してしまった布団の後始末などをした。 イ 申立人の特別受益について 申立人は,被相続人から昭和57年×月×日に家の建築費用の一部として100万円の贈与を受けたこと,平成4年×月×日に100万円の贈与を受けたこと,平成7年×月×日に長女の短大の学資の足しにと100万円の贈与を受けたことをそれぞれ認めており(甲23号証,申立人本人調書56ないし58項),これらは申立人の特別受益に該当する。 しかしながら,相手方の主張するその余の特別受益についてはこれを認めるに足りる証拠はない。××の営業についても,上記認定事実のほか,××営業設備を被相続人の費用負担で設置した証拠はないし,Cの証言(C証人調書72項)に照らしても,少なくとも,昭和60年以降は,名実ともにHの事業となっていたというべきであって,被相続人が作業を一部手伝っていた等のことがあったとしても,特別受益に該当するようなものではない。 ウ 相手方の特別受益について 申立人が主張する相手方の特別受益についてはいずれもこれを認めるに足りる証拠はない。なお,申立人が証拠として提出する甲1号証の1及び2は,メモに過ぎず,これを申立人に交付した年月日やその趣旨も明らかでなく,申立人自身その記載内容には一部,間違いがあると述べるなど(申立人本人調書87頁)記載内容の正確性も疑問であると言わざるを得ない。また,上記認定のとおり,被相続人は身体は不自由でも頭はしっかりしていたことから,Eが被相続人から払戻手続を依頼された預金について,Eや相手方がこれをほしいままに取得することは考えにくく,同居の親族間で領収書の授受などしないことが普通であること,また,被相続人宅には,申立人やCも出入りしていたことなどから,Eが払戻手続を行った預貯金について,被相続人に交付した領収書等の証拠がないからといって,直ちにこれを相手方に対する特別受益と認定することはできない。 申立人の主張(エ)の相手方を受取人とする生命共済満期金104万9425円は,相手方名義の口座に入金されてから約1か月後には現金で引き出されており(乙9号証),相手方は引き出して被相続人に交付したと述べており,これを裏付ける客観的な証拠はないものの,上記認定の被相続人の状況に鑑みると,直ちには相手方の供述を排斥できないし,また,仮に同満期金を相手方が取得していたとしても,生命共済は相手方の就職と前後して加入した契約であり(甲3号証),相手方は就職後,自己の給料を継続的に被相続人夫婦の管理のもとにおいていた経緯があることからすると,その掛金の支払には相手方自身の収入もある程度含まれている可能性が十分にあり,かかる双方の共同生活の中で積み立てられた相手方受取人名義の満期金については,直ちに相続分の前渡したる特別受益に当たると評価することはできない。申立人の主張(キ)については,Cの証言(C証人調書75,76項)に照らしても,相手方の主張のとおり被相続人から贈与を受けた100万円ではなく,母Fの保険金を原資として申立人から交付されたものと認められる。 エ 相手方の寄与分について (ア)上記のとおり,Eは,通院や入浴の介助など被相続人の世話を約13年間,主として担ってきたものであり,相手方と婚姻生活になじむ間もなく,義父の世話を担うこととなったEの苦労は相当なものであったといえるが,他方において,Eの行為は,これを相手方の履行補助者の行為であると評価して初めて寄与行為となるところ,相手方は,子らの中で唯一,成人後も継続して被相続人が所有する不動産において被相続人と同居してきたこと,被相続人は,退院後は,一日中付添いが必要な状態にあったわけではなく,自分でトイレに立ったり,食事を食べることはできたから,Eは,被相続人の昼食の支度をした上で,外出やパートに出ることもできたこと,入院期間中の付添いは一日当たりの拘束時間は長かったといえるが付添介護期間が長期にわたるとまではいえないこと等に鑑みると,同居の直系親族としての通常期待される扶養義務の範囲を超える療養看護をしたとまでは評価できず,相続分の修正要素たる特別の寄与には該当しない。 (イ)金銭援助 上記認定事実のとおり,相手方は,独身の時期は被相続人夫婦に自己の給料の管理を委ねていたことが認められるが,相手方は,給料袋ごと,母Fに渡したといっても,小遣い等必要なものはその都度出してもらい,食事はFの作ったものを食べ,日用生活品や衣類等の買い物もFが行っていたこと,Cは,Fから相手方が給料以上に持って行ってしまうと愚痴をこぼされたことが2回あり(C調書30,31,55項),相手方自身も時にはそのようなこともあったと認めていること(相手方調書142項),被相続人が相手方の給料を管理していた際の家計簿には,相手方名義で預貯金をしたことも記載されていること(相手方調書99,107,108項),被相続人は定年退職するまで○○に勤め,退職後は月額19万円から21万円の年金を取得しており,被相続人には相続取得した持ち家もあって,少なくとも子らがそれぞれ就職し独立した後は、かかる収入は夫婦あるいは被相続人の生活に十分なものであったこと,遺産として残されたのは被相続人が相続取得した不動産のほかは300万円足らずの預貯金のみであったことを総合考慮すると,相手方の給料と,被相続人の遺産の維持増加との因果関係を認めることはできないから,金銭援助による特別の寄与を認定することはできない。 4 具体的相続分 2914万6779円(不動産)+272万4959円(預貯金)+300万円(申立人特別受益)=3487万1738円 相手方の具体的相続分 3487万1738円÷2=1743万5869円 申立人の具体的相続分 1743万5869円-300万円=1443万5869円 5 分割方法 (1)本件不動産の中で,宅地としての利用が可能であるのは,目録記載第1の2及び3の土地であるが,目録記載第1の3は地盤が悪く,急傾斜地崩壊危険区域の指定を受けた目録記載第1の4の土地に隣接していることもあり,当事者はいずれも,目録記載第1の2の土地の取得を希望している。 ところで,相手方は,現在目録記載第1の3の土地上の本件建物に居住しているが築90年以上を経過して土台が腐るなど老朽化が著しいことから,当初から目録記載第1の2の土地に自宅を建てて早急に移り住むことを希望しているものである。また,本件建物は目録記載第1の4の土地にもわずかに跨っていることから,同土地が急傾斜地崩壊危険地域の指定を受けた影響で,崩壊防止工事完了まで2年程度本件建物の取壊し再築が困難となる可能性がある。 これに対し,申立人は,夫名義ではあるものの自宅はあり,本件第3回期日には,目録記載第1の2の土地の取得目的として,駐車場にすることも考えている等述べていたが,最終的には,同土地に申立人の長女夫婦の家を建てたいと述べており,結局のところ,申立人本人の近々の土地取得の必要性は乏しいことが明らかである。 (2)上記の双方の目録記載第1の2の土地取得の必要性の程度,また,相手方は,被相続人の死亡まで同人と同居し,互いの収入を元に共同生活を営み,かつ相続分の修正要素たる特別な寄与とはいえないまでも,Eを履行補助者として約13年間にわたり被相続人の身の回りの世話をしてきたこと等に鑑みると,目録記載第1の2の土地は相手方の取得とするのが相当である。 1743万5869円(相手方の具体的相続分)-1497万円(目録記載第1の2の土地の価額)=246万5869円 上記のとおり相手方には第一希望の土地を取得させることから,その余の不動産については申立人に全て取得させることとする。 上記のとおり不動産を分配した後の各人の残りの具体的相続分に従って預貯金等解約金を分配すると,相手方の取得分は246万5869円,申立人の取得分は25万9090円となる。 なお,預貯金は全て相手方において解約保管中であるから,相手方は申立人に対し,申立人の取得分25万9090円を支払うべきである。 よって,主文のとおり審判する。 別紙は省略した。 以上:7,355文字
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