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虚偽説明で子を引き取った実父から実母に子の引渡を命じた高裁判決紹介

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平成31年 2月26日(火):初稿
○離婚時に未成年者の親権者を相手方父と定めたが、監護者について協議が調わない状況で、離婚後も抗告人母が未成年者の監護を継続していたところ、相手方父が、未成年者を数日後に抗告人母のもとに返すとの虚偽の説明をして抗告人母から未成年者の引き渡しを受け、その後監護養育を継続している状況で、抗告人母がが相手方父に対して未成年者の監護者を抗告人と指定すること及び未成年者を抗告人に引き渡すことを求めましたが、原審判は、おそらく相手方父の監護状況に問題がないとの理由で、抗告人母の申立てを却下しました。

○しかし、離婚の際に一方を親権者と定めた場合でも、その時点において子の監護者に関する協議が調わない状況にあった場合には、家庭裁判所において子の監護者を定めることができるとした上で、未成年者の従前の主たる監護者は抗告人母であり、その監護に問題がなく、未成年者の年齢に照らせば抗告人を監護者に指定するのが相当として、抗告人母の申立を認容し、原審判を取り消した平成30年3月9日大阪高裁決定(ウエストロージャパン、家庭の法と裁判18号○頁)全文を紹介します。

○相手方父は,未成年者の引渡しから10か月余りの間,現在の妻を介して未成年者を監護し,現在の監護状況に特段の問題は認められず,未成年者と現在の妻やその連れ子との関係も良好で,新たに転入した幼稚園にもよく順応していると認定しながらも、未成年者は,親子交流場面調査において,抗告人母と接触するや抗告人母に抱き付くなど身体的接触を求めており,面会中も抗告人母に楽しそうに会話するなど,抗告人に親和的な様子が観察されているとも認定し、実の母に軍配を上げました。

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主  文
1 原審判を取り消す。
2 未成年者の監護者を抗告人と指定する。
3 相手方は,抗告人に対し,未成年者を引き渡せ。
4 手続費用は,原審及び抗告審とも各自の負担とする。

理  由
第1 抗告の趣旨及び理由

 別紙即時抗告申立書及び抗告理由書(各写し)のとおり

第2 当裁判所の判断
1 当裁判所は,原審判を取り消し,未成年者の監護者を抗告人と指定し,相手方に対し,未成年者を抗告人に引き渡すよう命ずるのが相当と判断する。
 その理由は,次のとおり補正するほかは,原審判の理由に説示のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原審判3頁6行目から7行目にかけての「審理終結日(平成29年○○月○○日)までの間,」を削り,24行目の「月額8万円」の次に「(相手方が支給されていた住宅手当に相当する金額である。)」を加える。

(2) 同6頁20行目末尾に「その際,相手方は,抗告人に対し,平成29年のゴールデンウィークまでに生活基盤を整えて経済的に自立するよう求め,それまでの間,相手方において,未成年者を一時的に引き取ることを提案している(原審における相手方の審問結果)。」を加える。

(3) 同11頁6行目末尾に「抗告人は,平成29年○○月○○日及び平成30年○○月○○日,未成年者と面会交流をした。」を加え,9行目の「会えなくなるなどと伝えた。」を「会えなくなるとか,未成年者が小学校に入学する平成30年○○月ころまでに抗告人が生活基盤を整えれば,抗告人の元に未成年者を返還するなどと伝えた(甲17の1ないし4。相手方は,平成29年○○月○○日に「200万円貯めたら○○月から任せようと思ってるって前から話してるよ。」,「○○月にCが卒園するから,タイミングがいいでしょ?」などと記載したメール(甲17の2)を送信している。)。なお,相手方は,本件引渡し直後の同月○○日に「小学校上るまでこっちで預かるから,それまで絶対に間違えないって生活基盤を作って。」などと記載したメール(甲10の6)を送信していた。」に改める。

(4) 同13頁9行目の「これらの」から11行目末尾までを削り,24行目の「本件記録」を「一件記録」に改め,末行の「そして」から14頁4行目末尾までを「したがって,本件離婚に際し,抗告人と相手方との間において,離婚後,非親権者である抗告人において引き続き未成年者を監護養育することを内容とする合意が成立していたとまでは認めることはできない。」に改める。

(5) 同14頁16行目から15頁24行目までを次のとおり改める。
 「 相手方は,抗告人に対し,平成29年○○月○○日以前は未成年者の引取りを主張することがあったが,同日以降は,離婚を最優先し,未成年者の引取りを明確には主張していない。むしろ,相手方は,未成年者の引取りを提案しているものの,それは,抗告人が生活基盤を整えて経済的に自立するまでの一時的なものに止まるし,その具体的な期間についても,本件離婚前には平成29年のゴールデンウィークまでとか,本件離婚後には未成年者が小学校に入学する平成30年○○月までなどと提示し,抗告人による監護をそのまま継続させるかのような態度を示している。

 これに対し,抗告人は,本件離婚の前後を通じて,未成年者の監護を相手方に委ねることを容認しない態度を一貫して取っている。また,抗告人は,平成29年○○月○○日に未成年者をD市内の幼稚園に転入させることを容認するかのようなやり取りをしているが,当時,相手方との復縁を強く望んでおり,同月○○日に本件自宅を引き払った後の未成年者の監護態勢が確定していなかったことからすれば,上記やり取りが未成年者の監護を相手方に委ねる趣旨であったと認めることはできない。

 以上のとおり,抗告人と相手方が協議により本件離婚をした時点では,未成年者の親権者を相手方とする合意に至ったものの,抗告人が引き続き監護するか,いつから監護を再開するかについて協議していた状況にあったといえるのであり,未成年者の監護者について協議が調わない状況にあったということができる。

 そして,本件のように,父母が協議上の離婚をするとき,その協議でその一方を親権者と定めた場合でも,その時点において,子の監護者に関する協議が調わない状況にあった場合には,家庭裁判所において,子の監護者を定めることができるというべきである(この場合,親権者の権能は監護の範囲以外で変更が生じない(民法766条1項,2項及び4項,同法819条1項参照))

3 未成年者の監護者指定について
 そこで,未成年者の監護者を抗告人と相手方のいずれに指定すべきか検討する。
(1) 従前の監護状況
ア 抗告人は,相手方と同居中は専業主婦であり,本件単身赴任後は契約社員として稼働しながら,未成年者の監護を主として行い,本件離婚後も本件引渡しまで監護を継続したものであり,未成年者の出生時から本件引渡しまでの5年2か月余りの間,主たる監護者であったことは明らかである。

 なお,抗告人は,未成年者の親権者を相手方と定めて本件離婚をしたが,一貫して未成年者の監護を相手方に委ねることを容認しておらず,実際にも本件引渡しまで従前の監護を継続していることからすれば,相手方を親権者と指定したことによって,抗告人の監護者として適格性が失われたということにもならない。

イ 相手方は,抗告人に対し,未成年者の就寝や帰宅の時間,部屋の衛生状態等について配慮を求めたことがあったが,抗告人による監護そのものは問題視しておらず,一件記録によっても,抗告人の監護状況に特段の問題は認められない。

(2) 現在の監護状況
ア 相手方は,平成29年○○月○○日の本件引渡しから10か月余りの間,相手方の妻を介して未成年者を監護しており,現在の監護状況に特段の問題は認められず,未成年者と相手方の妻やその子との関係も良好であり,新たに転入した幼稚園にもよく順応している。

イ しかし,本件引渡しは,監護者について協議が調っていなかった状況の下,相手方が,抗告人に対し,未成年者を引き取って監護する意図を秘し,ゴールデンウィーク期間中には返還する旨の虚偽の説明をして行われたものであり,その態様は著しく相当性を欠いている。未成年者は,本件引渡しにより,一方的に従前の主たる監護者と切り離されており,未成年者の福祉の見地からも問題が大きい。本件引渡しを契機として開始された相手方の監護は是認することができないというべきである。

(3) その他の事情
ア 未成年者は学齢期(6歳)を迎えたばかりの児童であり,主たる監護者による監護を再開し,その間の精神的つながりを維持,継続することが子の福祉に適う年齢にある。

イ 未成年者は,親子交流場面調査において,抗告人と接触するや抗告人に抱き付くなど身体的接触を求めており,面会中も抗告人に楽しそうに会話するなど,抗告人に親和的な様子が観察されている。
 当事者間で任意に実施されている面会交流においても,未成年者が抗告人に拒否的な態度を示した形跡はない。

ウ 抗告人は,実父母(母方祖父母)の自宅で生活しているところ,未成年者を同宅に引き取って,小学校入学まではかつて在籍したE園に通園させる予定である。実父母は抗告人の監護を補助する意向を示しており,その健康状態や経済状況に問題はない。

(4) 検討
 以上のとおり,未成年者の従前の主たる監護者は抗告人であり,その監護に問題がなかったところ,未成年者の年齢に照らせば,監護者を抗告人と指定するのが相当であり,未成年者の福祉に資するといえる。
 未成年者は,10か月余りの間,相手方の下で安定的に監護されているけれども,相手方による監護は,著しく相当性を欠く本件引渡しを契機に開始されており,未成年者が抗告人に親和していることや,抗告人の予定する監護態勢に問題がないことからすれば,監護の現状が安定的であるとしても,未成年者の監護者を抗告人と指定すべきであるとの上記結論を左右するものではない。

4 未成年者の引渡しについて
 以上のほか,未成年者が間もなく小学校に入学することも考慮すれば,現時点で未成年者を抗告人の監護の下に置くことが未成年者の福祉に資するといえるから,相手方に対し,未成年者を抗告人に引き渡すよう命ずるのが相当である。

5 まとめ
 よって,抗告人の本件各申立てはいずれも理由がある。」

6 結論
 そうすると,抗告人の本件各申立てをいずれも却下した原審判は相当ではないから,原審判を取り消し,主文のとおり決定する。
 大阪高等裁判所第9民事部
 (裁判長裁判官 松田亨 裁判官 檜皮高弘 裁判官 大淵茂樹)
 
以上:4,257文字

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