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相続不動産取得時効成立関係昭和47年9月8日最高裁判決第一審判決紹介

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平成30年12月 9日(日):初稿
○「相続不動産取得時効成立について判断の分かれた地裁・高裁判決説明」で、共同相続人の中の1人が、不動産の時効取得に必要な自主占有となるための「新たな権限」と評価されるための要件として昭和47年9月8日最高裁判決は
①単独に相続したと信じて疑わず
②相続開始とともに相続財産を現実に占有
③公租公課も自己の名でその負担において納付
④他の相続人がなんらの関心をもたず、異議も述べなかった等の事情

とされたことを紹介しました。

○この最高裁判決は、共同相続と不動産時効取得の指導的判例です。事案は、Aの死亡によって、遺産相続が開始され、原告の父Bと被告らが本件不動産を共同相続したが、Bが単独で本件不動産全部の占有を始め、その後、Bから原告に本件不動産が譲渡され、引渡しをうけてその占有を承継したという状況で、原告が、時効によって本件不動産の単独所有権を取得したと主張し、被告らに対し、所有権移転登記手続を求め、これに対し、反訴で、被告らが、原告に対し、本件土地についての共有持分権の確認を求めたものです。

○この原告の時効取得による所有権取得を主張した本訴請求を棄却し、相続による共有持分権の確認と主張した反訴請求を認容した第一審の昭和43年12月16日浦和地裁判決(最高裁判所民事判例集26巻7号1356頁)全文を紹介します。残念ながら当事者の主張までで判決理由の記載がありません。

○原告の父Bについて「右Bは被告らのために本件不動産の3分の2を占有していたものであり、かつ、占有開始後、前記C、D若しくは被告らに対し、自己が本件不動産を単独で相続した旨の通知をするなどして、その所有の意思あることを表示したことはなく、また、新権原により更に所有の意思をもつて占有を始めたことはない。したがつて、仮に原告が、右Bより本件不動産の引渡しをうけて、その占有を承継したとしても、原告が右Bの占有をも併せて主張する以上、原告の占有もまた所有の意思をもつてするものではない。」との被告らの抗弁を認めたものと思われます。

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主   文
原告(反訴被告)の本訴請求はいずれもこれを棄却する。
反訴原告らと反訴被告間において反訴原告らが別紙目録記載の土地につきそれぞれ45分の5の持分を有することを確認する。
訴訟費用は本訴、反訴を通じて、全部原告(反訴被告)の負担とする。

事   実
(本訴請求)
第一、請求の趣旨およびこれに対する答弁

原告は、「被告らは、原告に対し別紙目録記載の不動産について、昭和35年12月28日取得時効を原因とする所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、被告らは、いずれも「原告の請求はこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二、原告主張の請求原因
一、訴外亡Aは、別紙目録記載の不動産(以下本件不動産と称する)を所有していたが、昭和15年12月28日死亡し、遺産相続が開始した。その遺産相続人は訴外亡B、同亡C、同亡Dの3名であつたところ、右Dは本件遺産相続開始前の大正13年12月9日死亡し、その直系卑属は二女被告Y1および継子のY2、同家治が代襲相続し、結局亡Aの遺産相続人はB、C、被告Y1、被告Y2、被告Y3の5名で、その相続分はB、Cが各9分の3、その余の相続人が各9分の1であつた。

ところが、Cは相続開始後の昭和18年2月1日死亡し、同人につき遺産相続が開始し、その遺産相続人は二女の被告Y3のほか、継子であるY4、Y5、Y6、Y7、Y8の5名で被相続人Cの亡Aの遺産に対する9分の3の各5分の1を相続した。従つて、亡Aの遺産は別紙遺産相続による共有持分表のごとき持分の共有となつたものであるところ、右Bは単独で同日より本件不動産全部の占有を始めた。

二、その後、原告は、昭和30年初頭、右Bより本件不動産を譲渡され、引渡しをうけてその占有を承継し、以来現在に至るまで、これを占有している。

三,そこで、原告は、右Bが占有を開始した日の翌日から20年を経過した昭和35年12月28日をもつて、本件不動産の所有権を時効によつて取得したものである。

四 よつて、原告は前記亡Dの相続人である被告Y1、同Y2、同Y3並びに前記亡Cの相続人である被告Y4、同Y5、同Y6、同Y7、同Y8に対し、本件不動産について昭和35年12月28日取得時効を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める。
第三、請求原因に対する被告らの答弁
訴外亡Aは本件不動産を所有していたところ、昭和15年12月28日死亡し、遺産相続が開始したこと、亡B、亡C、亡Dの3名が亡Aの相続人で本件不動産を共同相続したこと、原告主張のように、被告らがそれぞれ、亡C、亡Dの相続人で亡Aの遺産に対する持分が別紙共有持分表のとおりであることはいずれもこれを認めるが、その余の事実はすべて争う。

第四、被告らの抗弁
原告の本件不動産に対する占有は、所有の意思をもつてするものではない。即ち、訴外亡Aは昭和15年12月28日死亡したが、その相続人は訴外B、訴外亡C、同亡Dの3名であつたのであるから、本件不動産は、右3名の共有(持分各3分の1)となつたものであつて、仮に右Bが本件不動産を同日より占有していたとしても、それは、自己の相続分(3分の1)を除いては権原の性質上所有の意思をもつてなされたものではない。

その後、右C、Dの両名は前後して死亡したため、本件不動産に対する各持分は、Dの相続人である被告Y1、同Y2、同Y3並びにCの相続人であるその余の被告らが、それぞれ、これを相続したものであり、爾後、右Bは被告らのために本件不動産の3分の2を占有していたものであり、かつ、占有開始後、前記C、D若しくは被告らに対し、自己が本件不動産を単独で相続した旨の通知をするなどして、その所有の意思あることを表示したことはなく、また、新権原により更に所有の意思をもつて占有を始めたことはない。したがつて、仮に原告が、右Bより本件不動産の引渡しをうけて、その占有を承継したとしても、原告が右Bの占有をも併せて主張する以上、原告の占有もまた所有の意思をもつてするものではない。

第五、抗弁に対する原告の答弁
Bの占有が所有の意思をもつてなされたものではないとの事実は否認する。
Bは、前記Aの死後直ちに、本件不動産のうち別紙目録記載(イ)の山林を開墾して宅地に造成し、自らこれを使用していたが、昭和37年以降訴外Eに賃貸し、別紙目録記載(ロ)の宅地はAの死亡後自ら使用していたが、昭和20年3月1日以降訴外小峯はるに賃貸し、それぞれ現在に至つている。また、別紙目録記載(ハ)、(ニ)の各不動産は、A死亡後、Bが、下草刈、間伐、伐採、植樹等をして、山林として自ら使用収益して現在に至つている。そして、本件不動産の租税、公課は、A死亡後、Bに対するものと合算され、以後、Bが自児名義をもつて納入している。

また、Bは、A死亡後、その旨およびその葬儀の通知をC、F(Dの夫)に対し発し、右両名が、右Aの葬儀に出席したのであり、さらに、昭和16年8月13日のAおよびその妻であつたむまの新盆には、右Fおよび被告Y1が香奠を供えているのである。したがつて、被告らは、右Aの死亡ならびに、その死後、Bが本件不動産を自己の所有のようにして占有していたことを知つていたはずであるあるから、Bの占有は、所有の意思をもつてなされたものであり、原告はその占有を承継したのである。

(反訴請求)
第一、請求の趣旨およびこれに対する答弁

反訴原告らは主文第二項同旨並びに訴訟費用は反訴被告の負担とする。との判決を求め、反訴被告は、「反訴原告の請求を棄却する。訴訟費用は反訴原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二、反訴請求原因
一、訴外亡Aは、本件不動産を所有していたが、昭和15年12月28日死亡し遺産相続が開始した。

二、右Aの死亡による相続人は前記本訴請求原因一記載のとおり、反訴被告の父亡Bおよび長女C(当時訴外永倉惣兵衛に婚嫁)、二女D(当時訴外Fに婚嫁)の3名でその相続分は各3分の1で、その後、右Cは相続開始後死亡し、同人につき遺産相続が開始し、右Dは亡Aの相続開始前の大正13年12月9日死亡し、本件不動産に対する同人の持分は、同人の二女である被告Y1および継子である被告Y2、同Y3がこれを均等に相続し、亡Aの相続人の各相続分は別紙遺産相続による共有持分表のとおりである。

三、ところが、反訴被告は、本件不動産は自己の所有に属すると主張し本訴請求において、反訴原告らに対してその所有権移転登記手続を求めて、反訴原告らの持分権を争つているから、反訴原告らは反訴被告に対して本件不動産についてそれぞれ45分の5の持分権を有することの確認を求める。

第三、反訴請求原因に対する反訴被告の答弁と抗弁
反訴請求原因事実は認めるが本訴請求原因として主張するとおり、反訴被告は本件不動産の所有権を時効によつて取得したものである。

第四、抗弁に対する答弁
本訴請求原因に対する答弁と同様である。

第五、反訴原告の再抗弁とこれに対する答弁
本訴請求に対する被告ら抗弁およびこれに対する原告の答弁と同様である。

(証拠関係)(省略)
(昭和43年12月6日 浦和地方裁判所第二民事部)
別紙
     物件目録
(イ)○○市○○一丁目、1、361番
1、山林 333、88平方メートル(3畝11歩)
(ロ)同所 1、365番
1、宅地 333、88平方メートル(101坪)
(ハ)同所二丁目182番
1、山林 1、061、15平方メートル(1反21歩)
(ニ)同所二丁目187番
1、山林 727、27平方メートル(7畝10歩)
(図表一)遺産相続に因る共有持分表
以上:4,023文字

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