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株式等資産運用利益についての寄与分を否定した大阪家裁審判紹介

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平成29年 7月24日(月):初稿
○「介護専従相続人に対し750万円の寄与分を認めた大阪家裁審判紹介」の続きです。
同じ平成19年2月26日大阪家裁審判(家庭裁判月報59巻8号47頁)では、介護専従相続人に対し750万円の寄与分を認められたBの夫で養子のAも被相続人が所有していた資産を運用し、株式や投資信託により遺産を増加させたことを理由とする寄与分の申立をしていました。

○しかし、株式、投資信託による資産運用は利益の可能性とともに常に損失のリスクを伴うことから、単に株価が偶然上昇した時期を捉えて被相続人の保有株式を売却した行為のみで特別の寄与と評価するには値しないとして、Aの寄与分申立は却下されました。以下、該当部分全文を紹介します。


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4 申立人Aの寄与分主張について
(1)申立人Aの主張


a 被相続人は,Fの遺産から取得した□□□の株式配当金を年額80万円程度受領しており,市民税を支払う必要があった。申立人Aは,税金対策として被相続人に助言の上,被相続人の□□□の株式(Fから相続したもののほか,被相続人が以前から保有していたものも含む。)を売却した。また,その売却益を原資に新たな株式や投資信託による資金運用を行って合計2941万8128円の売却益を上げ,配当金や分配金(以下「分配金等」という。)合計1105万2822円と併せて4047万0950円の利益を実現し,被相続人の生活費や親族への配分金の原資とした。詳細は,別紙2から4までに記載のとおりである。
 他方,□□□の株式を保有し続けたとすれば配当金として年間80万円,6年間で480万円の入金が見込まれたことから,これを控除した差額である約3500万円が申立人Aの寄与分である。

b 株式などにより収益を上げるには相応の注意深い市場観察を要し,その行為の無償性を考えると,民法904条の2「その他の方法による労務の提供」として寄与分に該当する。

イ あるいは,被相続人がFから相続した資産がそのままの状態で被相続人の死亡時まで保たれた場合の評価総額との比較でも,申立人Aの寄与分が認められる。つまり,被相続人がFから相続した資産のうち預貯金,有価証券など金融資産の評価総額は相続当時2億1696万6241円であったが,これらが平成14年4月22日まで存在したと仮定すると,別紙5記載のとおり,評価額は2億1988万2245円と予測される。

 平成8年から14年にかけての被相続人の家計収支は,別紙6から8までに記載のとおり,平成8年から13年までの収入合計が2010万円、生活費支出合計が3056万円,臨時支出合計が4730万円,平成14年の収支は399万円である。
 とすれば,被相続人死亡時のFから相続した資産の残額は,別紙5に記載のとおり1億5813万2245円となるはずであるが,現実には1億8210万5834円存在し,2397万3589円増加した。これは,Fから被相続人が相続した資産を申立人Aが運用した結果であり,申立人Aの寄与分に当たる。 

(2)相手方Cの反論
ア 申立人Aの主張する株式等の売却益の大半は,被相続人がFから相続した□□□株式の株価が一時期上昇したことによって得られたものに過ぎず,申立人A自身が売買した株式,公社債投資信託に限定して運用損益を見ると,入金された配当金等を考慮しても,何ら寄与とはなっていない。

イ 申立人Aは,被相続人の生活費として年間共通経費分担額188万円との前提で主張するが,被相続人と申立人らの経費を折半するのは不当である。その他の支出額にも相当でないものがある。被相続人の年間生活費はせいぜい307万円程度と見積もるべきである。

ウ Fの死亡当時,被相続人は,□□□株式5930株,○○○株式1000株,△△△株式2000株,利付国債,定期預金合計2500万円を固有資産として保有しており,これらの当時の評価額は合計で4176万5325円であった。申立人Aが運用する以前の被相続人の資産には,Fから相続した遺産にこれらを加えるべきであり,そうして計算すると,申立人Aの資産運用によって,被相続人の資産はかえって減少している。

(3)認定事実
 一件記録によれば,以下の事実が認められる。
ア 被相続人がFから相続した不動産以外の資産は,〔1〕現金及び預金合計1391万余円,〔2〕□□□の株式16万5644株(当時の株単価529円),〔3〕当時の評価額10万余円の利付国債,〔4〕当時の評価額合計9107万余円の投資信託などである。その他に,保険の満期返戻金約2571万円の支払いを受けた。

イ 被相続人は,Fの死亡当時,その固有資産として少なくとも○○○1000株,△△△2000株,□□□8500株の各株式,定期預金合計2500万円を保有していた。

ウ □□□の株単価は,Fの死亡後1000円程度まで上昇したが,被相続人の相続開始時である平成14年4月当時は541円であった。その後さらに下落し,平成16年9月時点では375円となっている。
エ 申立人Aは,平成8年4月から平成12年10月ころにかけて,被相続人の□□□の株式17万4144株を,株単価おおむね600円以上975円以下の価格で売却した。

オ 申立人Aは,□□□以外にも,別紙2記載のような株式,投資信託の取引を行った。損益状況は別紙2記載のとおりである。

カ 被相続人の平成8年から13年までの平均年収は,恩給54万余円,厚生年金200万余円,配当金73万余円の合計327万円程度であった。

キ 被相続人は,平成8年から13年にかけて,生活費以外に,別紙8に記載のとおり,親族に対する小遣い,バリアフリーその他の工事費用,法事費用,交際費,高額商品の購入などで4700万円程度を支出した。

ク 被相続人の相続開始当時の株式,有価証券の評価額は合計1億1503万5000円程度,現金預金は合計6875万円程度であった。これらの内訳は別紙9記載のとおりである。

(4)判断
ア 株式,投資信託による資産運用には利益の可能性とともに,常に損失のリスクを伴う。しかるに,一部の相続人が被相続人の資産を運用した場合,その損失によるリスクは負担せずに,たまたま利益の生じた場合には寄与と主張することは,いわば自己に都合の良い面だけをつまみ食い的に主張するものであり,そのような利益に寄与分を認めることが相続人間の衡平に資するとは,一般的にはいいがたい。

イ 申立人Aの寄与分主張のアについて見ると,株式等の運用益の大半を占めるのは,被相続人がFから相続した□□□株式の売却益2824万余円である。これ以外の取引には大幅な損失を生じた取引もあり,被相続人の相続開始時までに売買を完了した取引に限っても,損益合計で若干の利益に止まっている。被相続人の死亡時に残存した株式等の評価については,かえって大幅な評価損を生じていた可能性すら否定できない。

 申立人Aの購入した株式,投資信託によって,6年間で合計1105万余円の配当金等を得ており,□□□株式を保有し続けた場合よりも多くの配当金等を得た事実は窺われる。しかしながら,もともと被相続人の保有資産は多額であり,それと比すると死亡時に残存した株式等が評価損を生じていた可能性も否定できないことなどを考え併せると,より多くの配当金等を得たからといって,申立人Aの資産運用が被相続人の遺産に寄与したとはいまだ認められない。

 □□□の取引については,株価が上昇した時点で売却したことで,大幅な利益を生じている。しかしながら,株価の上昇自体は偶然であり,単にその時期を捉えて保有株式を売却した行為のみで,特別の寄与と評価するには値せず,この点においても,申立人Aの資産運用に寄与分は認められない。

ウ 申立人Aの寄与分主張のイは,要するに,申立人Aが資産運用した結果,そのまま被相続人の資産を維持した場合と比較して,被相続人の支出による資産の目減りを少なくした旨の主張である。

 しかしながら,この主張の中で,被相続人が6年間で支出したとされる生活費(高額商品の購入等は除く。)3056万円は,一般的な生活費と比較すると相当高額である。しかるに,被相続人がそのような高額な生活費を現に支出したことを裏付ける的確な資料は一件記録中見当たらない。また,この主張における計算方法では,Fの相続時点の被相続人の固有資産が考慮されていないが,被相続人が少なくとも(3)認定事実のイ記載の資産を保有していたことによれば,これを考慮しない計算方法は妥当でない。このように,寄与分算定の前提とする数字や計算方法の妥当性に疑問があることからすると,寄与分主張イの観点からしても,申立人Aの資産運用が被相続人の遺産に寄与したとはいまだ認められない。

エ したがって,申立人Aの寄与分に関する主張は認められない。

以上:3,652文字

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