平成27年 2月13日(金):初稿 |
○「遺留分減殺請求権行使後の権利についての期間制限」の続きです。 遺留分減殺請求権の法的性質の、学説は、形成権=物権的効果説、形成権=債権的効果説、請求権説の三説が対立していましたが、判例は、昭和41年7月14日最高裁判例(判タ196号110頁)が形成権説を採用し、さらに昭和51年8月30日最高裁判決(民集30巻7号768頁)が形成権=物権的効果説を採用し、遺留分減殺請求権の行使により、遺留分侵害行為である特定遺贈又は生前贈与は遺留分を侵害する限度において効力を失い、受遺者又は受贈者が取得した権利は、その右の限度で当然に遺留分権利者に移転するのが、判例・通説として確立していました。 ○形成権=物権的効果説の立場でも、遺留分減殺請求権を行使した結果生じた目的物の返還請求権等と消滅時効との関係については、以下の4説に分かれていました。 ①説;遺留分減殺請求権とその行使によって生ずる返還請求権とが一体として民法1042条の期間制限に服する(中川善之助=泉久雄・相続法〔新版〕591頁) ②説;民法1042条の期間制限に服するのは遺留分減殺請求権そのものだけであり、その行使の効果として生じた物権的請求権は消滅時効にかからないとする説(谷口知平「遺留分権利者の減殺請求権の性質」民商56巻二号295頁) ③説;民法1042条の期間制限に服するのは遺留分減殺請求権そのものだけですが、目的物の返還請求権は、本質において不当利得返還請求権の性質を有するから、10年の消滅時効にかかる(中川善之助=泉久雄・相続法〔第三版〕632頁) ④説;民法1042条の期間制限に服するのは遺留分減殺請求権そのものだけですが、その行使の効果として生じた物権的請求権は民法884条の規定する相続回復請求権の消滅時効にかかる(高木多喜男「遺留分減殺請求権の性質」中川淳編判例相続法199頁) ○この説の対立に決着をつけたのが平成7年6月9日最高裁判決(判タ885号154頁、判時1539号68頁)です。なお、昭和57年3月4日最高裁判決(判タ468号102頁)は、民法1042条の規定の文言を理由に前記①説を採用しないことを明らかにしましたが、上記②乃至④のいずれの立場に立つのかは明らかにしていませんでした。 以下、両判決全文を紹介します。 ******************************************* (昭和57年3月4日最高裁判決) 主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理 由 上告代理人○○○○の上告理由一について 民法1031条所定の遺留分減殺請求権は形成権であつて、その行使により贈与又は遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者又は受遺者が取得した権利は右の限度で当然に遺留分権利者に帰属するものと解すべきものであることは、当裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和40年(オ)第1084号同41年7月14日第一小法廷判決・民集20巻6号1183頁、最高裁昭和50年(オ)第920号同51年8月30日第二小法廷判決・民集30巻7号768頁)、したがつて、遺留分減殺請求に関する消滅時効について特別の定めをした同法1042条にいう「減殺の請求権」は、右の形成権である減殺請求権そのものを指し、右権利行使の効果として生じた法律関係に基づく目的物の返還請求権等をもこれに含ましめて同条所定の特別の消滅時効に服せしめることとしたものではない、と解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。 同二について 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、民法1040条の規定を類推適用して被上告人の本件遺贈の目的の価額弁償の請求を認めた原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。 よつて、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 (本山亨 団藤重光 藤﨑萬里 中村治朗 谷口正孝) ***************************************** (平成7年6月9最高裁判決) 主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理 由 上告代理人○○○○の上告理由について 遺留分権利者が特定の不動産の贈与につき減殺請求をした場合には、受贈者が取得した所有権は遺留分を侵害する限度で当然に右遺留分権利者に帰属することになるから(最高裁昭和50年(オ)第920号同51年8月30日第二小法廷判決・民集30巻7号768頁、最高裁昭和53年(オ)第190号同57年3月4日第一小法廷判決・民集36巻3号241頁)、遺留分権利者が減殺請求により取得した不動産の所有権又は共有持分権に基づく登記手続請求権は、時効によって消滅することはないものと解すべきである。これと同旨の原審の判断は是認することができ、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。 よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官河合伸一 裁判官中島敏次郎 裁判官大西勝也 裁判官根岸重治) 以上:2,171文字
|