平成26年 2月12日(水):初稿 |
○「遺産不動産の共有登記と共有物分割訴訟の注意点」で、不動産についての遺産共有持分権を第三者に譲渡すると第三者は、昭和50年11月7日最高裁判決(判時799号18頁、判タ329号115頁)によって民法第258条の共有物分割訴訟を提起することが出来ると説明していました。 ○この最高裁判決に関連して、共有物について遺産共有持分と他の共有持分とが併存する場合,共有者が遺産共有持分と他の共有持分との間の共有関係の解消を求める方法は民法258条に基づく共有物分割訴訟であり,共有物分割判決によって遺産共有持分を有していた者に分与された財産は遺産分割の対象となり,この財産の共有関係の解消については民法907条に基づく遺産分割によるべきとした平成25年11月29日最高裁判決(裁時1593号2頁、裁判所ウェブサイト)全文を紹介します。事案と説明は別コンテンツで行います。 ********************************* 主 文 1 原判決中共有物分割請求に関する部分についての本件上告を棄却する。 2 その余の本件上告を却下する。 3 上告費用は上告人らの負担とする。 理 由 上告代理人○○○○の上告受理申立て理由について 1 本件の本訴は,被上告人らが,上告人らに対し,被上告人らと上告人らとの共有に属する土地(以下「本件土地」という。)の共有物分割を求める事案である。 2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。 (1) 本件土地は,平成18年9月当時,被上告人X1(以下「被上告会社」という。),被上告人X2及びAが共有しており,その共有持分は,被上告会社が72分の30,被上告人X2が72分の39,Aが72分の3であった。 Aは,平成18年9月に死亡したが,その遺産分割は未了であり,Aが有していた上記共有持分(以下「本件持分」という。)は,Aの夫である被上告人X2並びにAと被上告人X2との間の長男である被上告人X3,長女である上告人Y1及び二男である上告人Y2の4名による遺産共有の状態にある。 被上告会社は,被上告人X3が代表者を務める会社である。 (2) 本件土地は地積約240㎡の宅地であり,本件土地上には被上告会社及び被上告人X2が所有する建物が存在する上,本件持分に相当する面積は約10㎡にすぎず,本件土地を現物で分割することは不可能である。 (3) 被上告人らは,本件土地上にマンションを新築することを計画しているが,上告人らとの間で,本件土地の分割に関する協議が調わないため,本件訴えを提起した。被上告人らは,本件土地の分割方法として,本件持分を被上告会社が取得し,被上告会社がAの共同相続人らに対し本件持分の価格の賠償として466万4660円を支払うという全面的価格賠償の方法による分割を希望している。被上告会社は,その支払能力を有している。 3 原審は,共有物分割請求に関し,本件持分について全面的価格賠償の方法が採用された場合には,賠償金がAの共同相続人らの共有とされた上で,その後に他のAの遺産と共に遺産分割に供されることになるから,全面的価格賠償の方法によってもAの共同相続人らの遺産分割に関する利益は保護されるとして,被上告人らの希望するとおりの全面的価格賠償の方法を採用するのが相当であると判断し,本件土地を被上告会社持分72分の33,被上告人X2持分72分の39の割合による共有とし,被上告会社に対し,Aの共同相続人らに466万4660円を支払うことを命じた。 4 所論は,本件持分について全面的価格賠償の方法による共有物分割がされると,賠償金が確定的に各相続人に支払われてしまい,遺産分割の対象として確保されなくなるから,本件において全面的価格賠償の方法を採用することは許されないというのである。 5 (1) 共有物について,遺産分割前の遺産共有の状態にある共有持分(以下「遺産共有持分」といい,これを有する者を「遺産共有持分権者」という。)と他の共有持分とが併存する場合,共有者(遺産共有持分権者を含む。)が遺産共有持分と他の共有持分との間の共有関係の解消を求める方法として裁判上採るべき手続は民法258条に基づく共有物分割訴訟であり,共有物分割の判決によって遺産共有持分権者に分与された財産は遺産分割の対象となり,この財産の共有関係の解消については同法907条に基づく遺産分割によるべきものと解するのが相当である(最高裁昭和47年(オ)第121号同50年11月7日第二小法廷判決・民集29巻10号1525頁参照)。 そうすると,遺産共有持分と他の共有持分とが併存する共有物について,遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ,その者に遺産共有持分の価格を賠償させる方法による分割の判決がされた場合には,遺産共有持分権者に支払われる賠償金は,遺産分割によりその帰属が確定されるべきものであるから,賠償金の支払を受けた遺産共有持分権者は,これをその時点で確定的に取得するものではなく,遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負うというべきである。 そして,民法258条に基づく共有物分割訴訟は,その本質において非訟事件であって,法は,裁判所の適切な裁量権の行使により,共有者間の公平を保ちつつ,当該共有物の性質や共有状態の実情に適合した妥当な分割が実現されることを期したものと考えられることに照らすと,裁判所は,遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ,その者に遺産共有持分の価格を賠償させてその賠償金を遺産分割の対象とする価格賠償の方法による分割の判決をする場合には,その判決において,各遺産共有持分権者において遺産分割がされるまで保管すべき賠償金の範囲を定めた上で,遺産共有持分を取得する者に対し,各遺産共有持分権者にその保管すべき範囲に応じた額の賠償金を支払うことを命ずることができるものと解するのが相当である。 (2) 原審は,上記と同旨の見解に立って,本件土地の分割方法として,本件持分を被上告会社に取得させ,被上告会社に本件持分の価格を賠償させてその賠償金を遺産分割の対象とする全面的価格賠償の方法を採用したものと解することができ,その判断は是認することができる。もっとも,原判決中賠償金の支払を命ずる主文は,「被上告会社は,被上告人X2,被上告人X3及び上告人らに対し,466万4660円を支払え。」というものであって,被上告会社に対し,Aの共同相続人ら4名に466万4660円の4分の1ずつの額の支払を命ずるものと解するほかはない。 原審は,理由中でAの共同相続人らに支払われる賠償金が遺産分割の対象となる旨を説示するものの,各相続人がこれをその時点で確定的に取得するものではなく,遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負うことを判決中に明記していない。また,Aの共同相続人らの法定相続分によるのではなく,これとは異なる上記のような割合での賠償金の支払を命ずることを相当とする根拠についても何ら説示していない。しかしながら,原審は,共同相続人間の関係,紛争の実情等に鑑み,Aの遺産分割がされるまでの間,対立する当事者の双方に単純に平等の割合で賠償金の保管をさせておくのが相当であるとの考慮に基づき,その趣旨で被上告会社にその割合に従った賠償金の支払を命じたものと解し得ないこともないのであり,結局,原審の判断にその裁量の範囲を逸脱した違法があるとまではいえない。 6 以上によれば,共有物分割請求に関する原審の判断は,是認し得ないものではない。論旨は採用することができない。 なお,上告人らは,遺産確認請求の反訴を提起し,同請求に関する部分についても上告受理の申立てをしたが,その理由を記載した書面を提出しないから,同部分に関する上告は却下することとする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸) 以上:3,287文字
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