平成26年 1月30日(木):初稿 |
○「相続財産管理人実務-共有者の一人が相続人なくして死亡したとき」の続きでその説明です。 平成元年11月24日最高裁判決の事案と問題点を説明します。 先ず関係条文です。 第255条(持分の放棄及び共有者の死亡) 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。 第958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与) 前条(※958条の2)の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。 ○不動産共有持分権者の一人が死亡して相続人がいないとき、民法第255条によればその持分権は他の共有者に帰属するはずですが、民法第958条の3によれば特別縁故者の請求によって全部又は一部を特別縁故者に与えることもできます。特別縁故者から請求があった場合、255条と985条の3のいずれを優先すべきかという問題が発生します。 ○本件事案は、次の通りです。 ・A所有の甲土地が、Aの死亡で、同人の妻であるB(持分3分の2)とAの兄弟姉妹合計(代襲相続人込み)28名(持分合計3分の1)の合計29名の共有となった ・Bが死亡して相続人がいなかったため、C・D(AB夫妻の事実上の養子で老後の面倒を見た)がBの特別縁故者として大阪家裁岸和田支部へ相続財産分与の申立てをした ・同支部は、甲土地のBの持分の各2分の1をC・Dに分与する旨の審判をした-Bの持分全部がC・Dに分与 ・C・Dは大阪法務局佐野出張所登記官にこの審判を原因とする本件土地のBの持分の全部移転登記手続申請したところ、不動産登記法49条2号に基づき事件が登記すべきものでないとの理由でこれを却下され、C・Dが、大阪法務局長に対する審査請求手続を経て、本件却下処分の取消を求めた ・第1審昭和62年7月28日大阪地裁判決(判タ653号92頁)は、958条の3優先説に立ち、C・Dの請求を認容して本件却下処分を取消 ・第2審昭和62年12月22日大阪高裁判決(判タ660号87頁)は、255条優先説に立ち、一審判決を取り消して、C・Dの訴求を棄却したのでC・Dが上告 ○共有者の一人が相続人なくして死亡したときの考え方は、学説・判例とも255条優先説と958条の3優先説の真っ二つに分かれ、数の上では判例は両説が拮抗し、学説は255条優先説が多数説になり、登記先例では255条優先説にたっており、大阪法務局佐野出張所登記官も先例に従っただけでした。 ○この争いに決着を付けたのが平成元年11月24日最高裁判決(判タ714号77頁、判時1332号30頁)で、958条の3優先説を明言しました。 本判決の多数意見は、以下の理由により、958条の3優先説を採るべきことを明らかにし、原判決を破棄し、乙の控訴を棄却しました。 ①他の共有者と特別縁故者との利益衡量により特別縁故者を保護する必要性あり ②255条により相続人なくして死亡した者の共有持分が他の共有者に帰属する時期は、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了した後、なお当該持分が承継すべき者のないまま残存することが確定した時で、それは相続財産一般が国庫に帰属する時期と時点を同じ ③958条の3による特別縁故者への財産分与の制度が設けられた結果、相続人なくして死亡した者の相続財産の国庫帰属の時期が特別縁故者に対する財産分与手続の終了後とされ、255条による共有持分の他の共有者への帰属時期もこの財産分与手続の終了後とされる ④958条の3による特別縁故者への財産分与の制度は、相続財産一般が国庫に帰属する時期したがって共有持分が他の共有者に帰属する時期よりも前段階の手続として設けられたものである 本判決は、従来、下級審の裁判例や学説において見解が分かれていた問題につき、最高裁として初めて958条の3優先説を採るべきことを明らかにした重要な意義を有するものです。 以上:1,694文字
|