平成25年 2月25日(月):初稿 |
○「遺産として預貯金しかない場合の特別受益控除は5」に、遺産として預貯金しかない場合の特別受益控除について、「先の事案では、家事審判においては、CがBに対し清算金として1500万円を返還せよとの命令を下すことが出来ると思われます。もし、出来ないとすれば、預貯金債権に関して民法903条特別受益の制度が適用されないとの不合理な結果になるからです。平成7年3月7日最高裁判決(民集49巻3号893頁、判タ905号124頁、判時1562号50頁)や平成12年2月24日最高裁判決(判時1703号137頁、判タ1025号125頁、民集54巻2号523頁)で最高裁は、具体的相続分に関して遺産分割の基準にすぎないとみる遺産分割分説(審判事項説)を取ることを明らかにしています。従って、家裁審判で具体的相続分について審理できることは当然です。」と記載していました。 ○しかし、その下に「※と希望的観測で記載していましたが、このように単純には割り切れない様です。別コンテンツで説明します。」と付け加えました(^^;)。探しても探してもこの論点について明言した審判例・判決例は見当たらず、また相続法解説書・論文等でも明言した文献が見つけることが出来ないままだったところ、判例タイムズ1355号52頁以下に当時高知地方裁判所判事安西二郎氏の論考「相続預貯金払戻請求訴訟の論点」(以下、安西判事論文と言います)を発見してその内容を確認したからです。 ○安西判事論文では、「預金債権が唯一の遺産である場合に、遺産分割手続をとることができるのであろうか」、「また預金以外の未分割遺産がある場合であっても、当該未分割遺産全部をある相続人に取得させても、これと当該相続人が法定相続分に従い分割取得した預金との合計額が、預金を含む遺産全体に対する当該相続人の具体的相続分に足りないとき、不足額を取り戻すことが、遺産分割手続で可能なのか。」と疑問を呈され、更に「遺産分割手続における具体的相続分の算定に当たって分割対象外の遺産まで考慮されるのか、仮に考慮されるとして分割対象遺産の分配という枠を超えた代償金の支払まで命じうるのか、という疑問がある。これらはいずれも家裁実務では行われていないと思われる。」と疑問を呈されています。 ○そして安西判事論文では、最終的には、「特別受益については、寄与分と同様、預金以外の未分割遺産がない場合には家裁が判断する手続がないのではないか、民法904条の2第2項のような規定がなく審判事項にも列挙されていないが、家裁の認定に不当利得返還請求の受訴裁判所たる地裁(又は簡裁)が拘束される根拠があるのか、他方、地裁(又は簡裁)が自ら認定できるとするならばはじめから具体的相続分説(ただし、特別受益のみを考慮するもの)に立ち得るのではないか、という疑問である。」との疑問を述べて、最終的には「結論を留保」しています。流石に判事さんは、私と違って慎重です(^^;)。 ○私が「遺産として預貯金しかない場合の特別受益控除は」以下で提示した設例は、「被相続人Aの財産は合計1億円あったところ、長男Bに3000万円を生前贈与し(特別受益)、残7000万円の預貯金のみを遺産として残して死去し、Bは7000万円の2分の1相当3500万円をZ銀行から払い戻し、Cも同様に3500万円を払い戻したが、特別受益持戻によってB、Cは各5000万円ずつ取得することになるべきところ、Cは3500万円しか所得出来ず1500万円不足しています。預貯金等可分債権は遺産分割の対象にならないとされており、この場合、分割対象遺産がないので遺産分割調停・審判ができないのかと言う問題」で安西論文で「結論を保留」したものです。 ○本件問題に関しての直接の審判例が存在しないのは、遺産分割当事者が、預貯金債権も遺産分割の対象として調停・審判を行っているからで、これが遺産分割における常識です。実際、私も32年の弁護士稼業で相当数の遺産分割事件を扱ってきましたが、預貯金債権は遺産分割対象に含めないと主張された例はありませんでした。 ○ところが、弁護士稼業33年目で、初めて、この主張に出くわし、面食らっています。結構多額の預貯金が遺産として残り、且つ、相手方に相当の生前贈与がなされていた事案であり、この生前贈与を特別受益として考慮しながら調停が進行していたところ、相手方は、突如、各金融機関に訴えを提起して法定相続分を全て払い戻し、預貯金は分配済みであり特別受益考慮は不要と主張して、審判手続に移行し、現在、審判官にこの問題についての英断を促す準備書面作成に勤しんでいます。 以上:1,906文字
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