平成24年 6月19日(火):初稿 |
○「持戻免除の意思表示概観」で「持戻免除の意思表示」制度を概観し、「黙示の持戻免除意思表示があったかどうかは、贈与の内容・価額、贈与された動機、被相続人と受贈者である相続人及びその他の相続人との生活関係、相続人及び被相続人の職業、経済状態・健康状態、他の相続人が受けた贈与の内容・価額等を総合考慮して判定されます。別コンテンツで具体的審判例を紹介します。 」と記載しておりました。 ○具体例としては以下の例があります。 ・被相続人Aが時価3000万円の自宅土地建物と預貯金6000万円の財産を有していた。 ・相続人として長男B、二男C、三男Dの3人がいたが、Aが3000万円の自宅を長男Bに生前贈与していた。 ・この3000万円相当土地建物贈与が特別受益に該当し、相続財産にこの土地建物を加えた9000万円が相続財産となる。 ・法定相続分はB、C、D各3分の1なので、全相続財産9000万円に対する相続分金額は各3000万円になる。 ・Bは3000万円の生前贈与を受けているので、残り6000万円の預貯金に相続分は存在しないのが原則で、残り6000万円はC、Dが各3000万円ずつ取得する。 ・AがBに対する3000万円相当土地建物生前贈与について持戻免除意思表示をしていれば、相続財産は残された6000万円に限定され、B、C、D各2000万円ずつ取得する。 ・Bの合計5000万円の取得は、全相続財産9000万円としても、C,D各2000万円取得で遺留分侵害はないので有効である。 ○上記の通り、Aが持戻免除意思表示をしたかどうかで、残り6000万円の預貯金について、Bが2000万円を請求出来るかどうかが決まりますので、Bにとっては、Aの持戻免除意思表示の有無が重要問題になり、残り6000万円の遺産分割協議においては、BはAが持戻免除意思表示をしていたと主張するのが一般です。 ○Aとしては、長男Bに土地建物を生前贈与したときに、同時に持戻免除意思表示まですることは、先ずありません。その後、遺言書で残りの預貯金は、長男Bも加えたC、D3人が各3分の1ずつ相続させるとした場合は、Bに対する持戻免除意思表示があったと評価して宜しいでしょう。この遺言は前記の通りC、Dの遺留分も侵害していませんで全部有効です。 ○問題はこのような遺言がなかった場合です。Bに対する土地建物生前贈与について、Aが黙示の持戻免除意思表示をしていたかどうかは、贈与の内容・価額、贈与された動機、被相続人と受贈者である相続人及びその他の相続人との生活関係、相続人及び被相続人の職業、経済状態・健康状態、他の相続人が受けた贈与の内容・価額等を総合考慮して判定されますので、Bとしては、Aが黙示の持戻免除意思表示をしていた事情として、Aと同居して専らAの世話をしてきた事情等を主張することになります。 ○この問題を考える参考例としては、昭和57年3月16日東京高裁決定(家月35巻7号55頁)があり、以下、黙示の持戻免除意思表示をしたと認定した部分を紹介します。 同第二点は、被相続人Aが相手方Bに対し特別受益の持戻の免除をした事実を認定したことが違法である旨主張するところ、右に引用した原審判認定の事実によれば、被相続人が、妻である相手方Bに対し、本件土地のうち原審判別紙図面記載(甲)部分について建物所有の目的による使用貸借権を設定し、かつ、同相手方Bが右土地部分に建物を建築するにつき、建築費約46万円のうち約20万円を贈与したことは、民法第903条第1項の特別受益に該当するが、被相続人は、その後死亡までの約9年間、右相手方Bの建築した地上建物に同人と夫婦として同居生活を送り、主として同人が右建物で営む飲屋の収入によつて生活を維持していたものであつて、このように、右相手方Bが贈与を受けた財産を基礎として、被相続人自身の生活に寄与してきた事情からすれば、被相続人としては、遅くとも相続開始の前頃には、右生前贈与をもつて、相続分の前渡しとして相続財産に算入すべきものとする意思は有していなかつたものとみることができ、したがつて、特段の反証のないかぎり、被相続人は、相手方Bに対し黙示に右特別受益の持戻の免除の意思表示をしたものと推認するのが相当であつて、これを覆えすに足る証拠はない。したがつて、右主張は採用することができない。 以上:1,788文字
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