平成23年 9月15日(木):初稿 |
○「民法第903条特別受益制度の基礎の基礎-具体例考察」で特別受益制度の概観をしましたが、特別受益があり、これが相続分を超えると、その受益者は、相続分を受けることが出来なくなります。そこで何とか相続分を受けたいと主張する場合、特別受益があっても持戻しが免除されていると主張するのが常套手段です。そこで持戻し免除制度について概観します。 第903条(特別受益者の相続分) 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前3条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。 2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。 3 被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。 持戻免除の意思表示とは、上記民法903条3項の「被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したとき」の意思表示を言います。 ○特別受益財産が持ち戻されるのは、共同相続人間の衡平をはかるとともに、それが被相続人の通常の意思に合致していると推測されるからであり、従って、被相続人がこれと異なる意思、すなわち持戻免除の意思を表示したときには、遺留分の規定に反しない限り、これに従うことになります。通常生前贈与は、遺産の前渡しであり、前渡しである以上は、前渡された財産即ち特別受益財産は、取得済み遺産であり遺産分割の際控除されるます。しかし被相続人がその相続人に特別に多く財産を分けてやるので取得済み遺産として考慮する必要はないと意思表示していればそれに従うというのが持戻免除制度です。但し、上記の通りその効力は、遺留分の規定に反しない範囲内に留まることはもちろんです。 ○特別受益が、遺贈でなされる場合は、持戻免除の意思表示も遺言でなされるのが普通ですが、持戻免除の直接的文言がなくても、諸般の事情より持戻免除の意思が窺われる事情があれば、持戻免除意思表示があったと認めるべきとされています。特別受益が、生前贈与でなされた場合には、特に直接的に持戻免除の意思表示がなされていなくても、黙示の持戻免除意思表示がなされたとの主張がなされるのが一般的です。 ○この生前贈与について持戻免除の意思表示があったかどうかは、被相続人が「特定の相続人に対して相続分以外に財産を相続させる意思を有していたことを推測させる事情」があるか否かがポイントになります。この事情としては、以下のような例が挙げられます(片岡武・管野眞一著「家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務」190頁参照)。 ・家業承継のため、特定の相続人に対して、相続分以外に農地などの財産を相続させる必要がある場合 ・被相続人が生前贈与の見返りに利益を受けている場合-同居建物建築等 ・相続人に相続分以上の財産を必要とする特別事情がある場合-老衰・病気・障害等で生活保障が必要な場合 ・相続人全員に贈与したり遺贈したりしている場合-全体について持戻免除意思が認められる ○黙示の持戻免除意思表示があったかどうかは、贈与の内容・価額、贈与された動機、被相続人と受贈者である相続人及びその他の相続人との生活関係、相続人及び被相続人の職業、経済状態・健康状態、他の相続人が受けた贈与の内容・価額等を総合考慮して判定されます。別コンテンツで具体的審判例を紹介します。 以上:1,513文字
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