平成23年 3月 4日(金):初稿 |
○ここ数年、信託銀行の遺言書作成業務への参入が増えており、弁護士業界との競争になっています。この分野は、弁護士だけでなく、行政書士・司法書士・税理士等も積極的に参入しており、弁護士はむしろ遅れているのではとも感じます。信託銀行の場合は、報酬が高額であり、第一東京弁護士会司法研究委員会編「新版遺言執行の法律と実務」93頁に<参考2>として、A乃至E銀行の例を挙げ、いずれも最低報酬額が105万円で、遺言書保管料が年間5250円乃至1万0500円、預金払戻が当行預け入れ信託・預金財産が0.3乃至0.5%、その他の財産換価が、5000万円以下の部分で、1.7乃至2%、5000万円超1億円以下の部分1.5乃至1.7%になっています。 ○この信託銀行遺言執行基準で言うと、遺言執行対象財産として3000万円相当の不動産しか無く、これを長男に相続させるという遺言の執行手数料が最低の105万円となります。また遺言執行対象財産として、5000万円相当の不動産と5000万円の他行への預貯金があった場合に、これを長男に不動産を相続させ、二男に5000万円の預貯金を相続させるとの遺言を執行する場合、5000万円以下の部分が2%で金100万円、5000万円から1億円までの部分が75万円の175万円+消費税が執行手数料になりそうです。 ○しかし、不動産の遺言執行は相続を原因とする所有権移転登記手続をすることですが、「相続させる」との遺言であれば、公正証書遺言或いは家庭裁判所検認手続確認済み遺言書があれば、その不動産を取得した相続人が単独で所有権移転登記手続が可能であり、遺言執行者が手続を行う必要はありません。もし何らかの手続をするとすれば、司法書士宛の相続人本人の委任状を作成させるだけです。仮に5000万円相当の不動産の所有権移転登記手続をする場合単に司法書士へ手続を仲介するだけか、或いは、信託銀行担当者が本人名義でその手続を行うだけで105万円もの手数料を取ることになります。こんな手続で105万円もの手数料を取っているとしたら甚だ問題の気もしますが、実際のところは、不明です。 ○また、銀行預金払戻ですが、銀行によってはいまだに公正証書遺言書だけでは払戻に応じず、相続人全員の印鑑証明書付き実印での預貯金についての遺産分割協議書添付するか或いは相続人本人の法定相続分での払戻請求でないと払戻に応じないところもあります。この場合遺言執行者は,相続人全員から印鑑証明書と所定書類への実印での押印を求め、結局遺言執行者だけでの払戻が出来ません。 ○このような場合、遺言執行者の役割は殆どありません。このことに気付いた私は、手数料をもらうのは気が引けて、10年以上前から遺言執行者の仕事はしないことを原則にしています。しかし、信託銀行等は遺言執行業務に積極的に参入して収益を上げているようですが、このように敢えて必要のないところに仕事を作るのは如何なものかと思っていたところ、先般、信託銀行に依頼して公正証書遺言を作成した父が死亡したところ、死後、数日の内に信託銀行担当者が家督の長男宅を訪れ遺言執行業務に入りたいと伝えてきたが、せめて49日過ぎてからにして欲しいと追い返したとの相談がありました。 ○そして信託銀行の執行手数料が高すぎるの自分たちで相続手続をしたいが、いったん、遺言書に遺言執行者が記載されている以上、ダメなのでしょうかとの相談です。遺言書に手数料説明があり、基本料金31万5000円に換価した財産相当額の1%相当額と記載されています。先の「新版遺言執行の法律と実務」紹介例よりは安くなっているようですが、この事案での重要遺産は不動産で,その不動産価額からすると手数料総額は100万円近くなり、この不景気の時勢、そんなお金を支払いたくないとの相談でした。その回答は別コンテンツで行います(^^)。 以上:1,593文字
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