平成23年 1月17日(月):初稿 |
○「民法第903条特別受益制度の基礎の基礎-具体例考察」で、「先の4500万円の生前贈与が、BではなくBの子Eの場合、このEが代襲相続人となった場合、Bが養子で、養子縁組前に贈与を受けた場合等どのように評価すべきか問題になるケースが色々あり、以降、徐々に検討していきます。 」と記載していました。 私が実際、取り扱った事例を 「シンプルな例で説明すると、例えば被相続人Aが、生前合計1億2000円の預貯金を有し、相続人としてB、C、Dの3人の子供が居た場合、Bだけに、甲銀行の定期預金4500万円を生前贈与して、A死去時の遺産は、乙銀行に対する7500万円の普通預金だけになっていたとします。」 との例に当てはめて検討します。 ○まずBではなく、Bの妻E(長男の嫁)、或いはBの子F(長男の子即ち孫)に4500万円相当の財産が生前贈与され、その後、Aが死去して、相続人B、C、D間で遺産分割協議をする場合です。この場合、C、Dにしてみれば、E、FはあくまでB側であり、B側が利益を得ているので、これも当然B自身の特別受益として、民法903条2項「遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。」の規定でBには既に相続分がなくなっている主張します。 ○しかし、Bとしては妻Eも子FもAの相続人ではなく、元々相続分はないので、E・F自身に特別受益が成立し得ないと主張します。確かに903条の文言を形式的に解釈すればBの主張の通りで、「被相続人から相続人の配偶者、子などに対して贈与がなされている場合、持戻しは直接の受贈者のみに認められるべきで、原則として否定されるべきである。」との説明もあります。但し、昭和55年5月24日福島家裁白河支部審判では以下の通り述べて持戻しを実質的に認めています。 「被相続人から共同相続人の1人の配偶者に対して贈与がなされた場合、贈与の経緯、贈与された物の価値、性質、これにより受贈者の配偶者である相続人の受けている利益などを考慮し、実質的には被相続人から相続人に直接贈与されたのと異ならないと認められるときは、たとえ相続人の配偶者に対してなされた贈与であっても、これを相続人の特別受益と見て遺産分割をすべきである。」 私は、相続人の子への贈与は、子が相続人から独立生活をしている場合は、持戻しは否定されるが、共同生活を営む相続人の妻への贈与は相続人への贈与と同視される方向に行くだろうと考えています。 ○次にA死去以前にBが死去して、EがBの代襲相続人なった場合はどうでしょうか。 Eは代襲とは言え、相続人ですから、特別受益を捉えられる可能性もあります。しかし、Eとしはて、相続人ではない時代に受けた利益であり、特別受益にはならないと主張するでしょう。 これについては昭和49年5月14日大分家裁審判があります。 「代襲相続人について、民法903条を適用して特別受益分の持戻しを行うのは、当該代襲相続人が代襲により推定相続人になった後に被相続人から直接利益を受けた場合に限られる。」 ○次にBの妻EがAから生前贈与を受け、その後、Aと養子縁組を結んで養子としての相続人になった場合があります。妻Eとしては、確かにA生前に贈与による利益を受けたが、贈与時は相続人ではないので、特別受益には該当しないと主張します。 これについては、昭和40年2月6日神戸家裁明石支部審判は、「養子縁組の合意後届出前になされた大学の学資としての贈与は、相続分算定のために相続財産に加算されなければならない」として、持戻しを認めていますが、持戻し否定説もあります。公平の観点からすれば、持戻し肯定説の方が強い様に感じます。 いずれにしてもこの持戻しに関する審判事例は結構存在するようで、ケースバイケースのところもあり、具体的事案に沿った解決がなされているようです。 以上:1,605文字
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