平成22年 7月29日(木):初稿 |
○被相続人Aさんが、遺産として1億円の金銭があった場合、これを銀行預金にするなど第3者に預けて第3者に対する債権として持っていた場合、その債権は相続開始によって当然に相続分に従って分割されます。例えば1億円をY銀行に預金しており、相続人が妻Bと子供C、Dの場合、この1億円の預金債権は、妻Bさんが2分の1の5000万円、C、Dさんは、各4分の1の2500万円のY銀行に対する預金債権を取得します。ですから遺産分割が成立しなくても、BさんはY銀行に5000万円の払戻請求が出来ます。但し、Y銀行はBさん単独の請求に対し、相続人全員の同意書等提出を要求しますので、Bさんが単独で払戻を実現するにはY銀行に対する訴えの提起が必要になるのが普通です。 ○ところが、Aさんがこの1億円を相続人の1人であるCさんに預け、CさんがこれをそっくりCさん名義でY銀行に預けていた場合、最高裁平成4年4月10日判決の考え方では、当然に分割されず、相続人のB、C、Dさん全員で遺産分割協議が成立するまでは、B、Dさんはその支払を請求出来ないことになります。 ○上記被相続人Aさんの財産は、原則として遺産分割協議成立までは、各相続人が法定相続分で共有しますが、この遺産についての共有は、合有と解する説と通常の共有に変わりないとする説とがあります。金銭債権については、合有説では金銭債権も他の遺産と同様当然に分割されるとの結論は採りにくく、共有説では民法427条により当然に分割されることとなるとの結論を導き易いと解説されていますが、判例は大審院当時より共有説で確定しており(最判昭30.5.31民集九巻六号七九三頁等)、金銭債権についても、相続開始により相続分に応じて当然に分割されるとの結論を採っています(最判昭29.4.8民集8巻4号819頁等)。 ○預金等第三者に対する債権となっていた場合、当然分割なのに第三者ではない相続人の1人に預けていた金銭については、現金として、当然分割にならないとの結論は、どうしてなのでしょうか。判例では、最高裁平成4年4月10日判決の第一審である昭和62年5月27日東京地裁判決、神戸家尼崎支審昭48年7月31日審判は、金銭を金銭債権とともに当然分割され原則として遺産分割の対象とならないとしています。現金と言っても、文字通り現金で保管していることは殆どなく、相続人の1人が被相続人名義ではなく相続人名義で預金している場合が多く、殆どの場合は預貯金となっており、被相続人名義の場合は預金、相続人名義の場合は現金とされるだけです。 ○この実態からすれば、遺産である金銭を被相続人名義で預金されていた場合であろうと相続人の1人の名義で預金されていた場合であろうと当然法定相続分で分割されると考えた方が合理的なような気もします。しかし、特定の1人の相続人が遺産たる金銭をその相続人名義で預金していた場合は、争いの殆どは、この金銭を管理あるいは消費した相続人と他の相続人との間に起きているものであり、不動産等他の遺産の分割の結果生ずる不均衡を金銭により調整するため金銭を含めて遺産分割する方が妥当な結論を得易いとの考えで金銭たる遺産は遺産分割協議成立までは当然に分割されないとされていると思われます。 ○しかし前記の例でAの遺産である金銭1億円を預かっているCが事業で失敗し多額の負債を抱えているような場合、時間をかけて遺産分割協議をしている間に1億円の預金がCの債権者から差押えされてCが無一文になる危険性がある場合など、C名義の預金を保全する必要性があります。その保全方法を検討していきたいと思っております。 以上:1,500文字
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