平成22年 7月28日(水):初稿 |
○「預貯金は原則として遺産分割の対象の範囲外」で、「預貯金などの可分債権は共同相続人の遺産分割協議を待つまでもなく、相続開始と同時に、当然に相続分に従って分割され(最高裁昭和29.4.8民集8-4-819)ますが、現金は可分債権ではなく動産と同様に扱われ(最高裁平成4.4.10月報44-8-16)、当然に遺産分割の対象になります。」と説明していました。 。 ○この現金は、遺産分割の対象になるとの意味は、遺産分割協議が成立しない限り、現金を保管している相続人に対し、他の相続人が相続分相当の現金を支払えと請求出来ないと言うことです。このことを明確にした最高裁平成4年4月10日判決の事案は以下の通りです。 事案の概要 ①被相続人Aが昭和57年5月21日死去。相続人はYとX1~X4の5名で、YはAの相続開始時から預っていた遺産である現金7533万8737円をA遺産管理人Y名義の通知預金として保管していた。 ②X1~X2はYに対し、この現金7533万8737円の内自分たちの相続分相当額である金6191万9155円とこれに対する預金利息、遅延損害金の支払を請求したところ、第一審の東京地裁昭和62年5月27日判決は、これを認容した。 ③ところが、第2審の東京高裁昭和63年12月21日判決(判タ705号254頁)は、現金は被非相続人の死亡により相続人らの共有財産となり、相続人らは遺産の上に法定相続分に応じた持分を取得するだけで、金銭債権のように相続分に応じて分割された額を当然に承継するものではないとして、原判決を取り消し、請求を棄却した。 ④X1らは、金銭を共有とするのは金銭債権と均衡を失する、調停においては金銭は相続分に応じて分割されることが多い、金銭はすぐに役立つし分割も容易であること等を根拠に金銭も当然に分割されると解すべきであるとして、東京高裁判決には法令解釈の誤りがある旨主張して上告した。 ○この上告に対する最高裁判決全文は以下の通りです。 主文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人らの負担とする。 被上告人の民訴法198条2項の裁判を求める申立てを却下する。 理由 上告代理人Mの上告理由について 相続人は、遺産の分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできないと解するのが相当である。上告人らは、上告人ら及び被上告人がいずれも亡Aの相続人であるとして、その遺産分割前に、相続開始時にあった相続財産たる金銭を相続財産として保管中の被上告人に対し、右金銭のうち自己の相続分に相当する金銭の支払を求めているところ、上告人らの本訴請求を失当であるとした原審の判断は正当であって、その過程に所論の違法はない。論旨は採用することができない。 被上告人の民訴法198条2項の裁判を求める申立てについて 第一審において仮執行宣言付給付判決の言渡しを受けた者が、控訴審で民訴法198条2項の裁判を求める申立てをすることなく、第一審の本案判決変更の判決の言渡しを受け、これに対して相手方が上告した場合には、被上告人は、上告裁判所に対して右申立てをすることができない(最高裁昭和54年(オ)第698号、第770号同55年1月24日第一小法廷判決・民集34巻1号102頁)。したがって、本件申立ては不適法として却下すべきである。 よって、民訴法401条、95条、89条、93条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官大西勝也 裁判官藤島昭 裁判官中島敏次郎 裁判官木崎良平) 以上:1,501文字
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