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ある遺言無効確認請求事件地裁判決2

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平成21年 5月28日(木):初稿
「ある遺言無効確認請求事件地裁判決1」を続けます。
今回は、裁判所の判断の重要部分です。裁判所独自の判断を述べて、裁判所鑑定と原告鑑定の結果を否定しています。
 なお、自筆証書遺言についての重要な先例となる最高裁判所昭和58年(オ)第733号昭和62年10月8日第1小法廷判決(民集41巻7号1471頁、判タ654号128頁、判時1258号64頁)を挙げており、この判例概要と私なりの説明を後日掲載します。

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第3 当裁判所の判断
1 本件A遺言及び本件B遺言の有効性について
(1)自筆証書遺言の無効確認を求める訴訟においては,当該遺言証書の成立要件すなわちそれが民法968条の定める方式に則って作成されたものであることを,遺言が有効であると主張する側において主張・立証する責任があると解するのが相当である。これを本件についてみると,本件A遺言が遺言者であるAの自書の要件を充たすものであること本件B遺言が遺言者であるBの自書の要件を充たすものであることを被告らにおいて主張・立証すべきであり,原告らの偽造の主張は,被告らの上記主張に対する積極否認にほかならない(最高裁判所昭和58年(オ)第733号昭和62年10月8日第1小法廷判決・民集41巻7号1471頁参照)。

(2)そこで,上記(1)の前提に立って,本件A遺言及び本件B遺言の有効性について,以下検討する。
ア 本件A遺言について
(ア)当裁判所は,証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件A遺言は,遺言者であるAがその全文,日付及び氏名を自書したものと認められると判断する。その理由は,以下のとおりである。

a AとBの間の五女として生まれた証人Fの陳述(甲17)及び供述によれば,「58年度御見舞ノート」と題するノートの抜粋として提出された氏名と金額の記載部分(乙7の5。以下「本件ノート抜粋1」という。)は,Aの筆跡に近いとされる。また,Aの筆跡であることについて争いのない文書(甲15,16,乙18,20(ただし,「ご住所」と「ご芳名」部分に限る。))に記載された「柳」「生」「3」などの文字は,本件ノート抜粋1に記載された「柳」「生」「3」 などの文字と酷似している。以上の事実に照らすと本件ノート抜粋1は,Aの自書によるものと認めるのが合理的である。

b 証人Fの陳述(甲17)及び供述によれば,「58年度御見舞ノート」と題するノートの抜粋として提出された「△△医院」との記載のある部分(乙7の3。以下「本件ノート抜粋2」 という。)の数字は,Aの筆跡に近いとされる。確かに,Aの筆跡であることについて争いのない文書(甲15,16,乙18,20(ただし,「ご住所」と「ご芳名」部分に限る。))に記載された「2」「3」「4」の文字は,本件ノート抜粋2 に記載された「2」「3」「4」の文字と酷似している。また,上記a のとおり,Aの自書によるものと認められる本件ノート抜粋1に記載された「藤」「円」の文字は,本件ノート抜粋2に記載された「藤」「円」の文字と酷似している。以上の事実に照らすと本件ノート抜粋2も,全体としてAの自書によるものと認めるのが合理的である。

c 本件ノート抜粋1及び2によれば,Aは,「渡」の文字を三水ではなく二水で誤って記載していたことが認められる。そして,上記abによれば,本件ノート抜粋1及び2は,Aが生前日常使用していた文字をノートに書き付けた文書であると認められることから,Aが「渡」の文字を誤って二水で記載していた理由は,Aが「渡」の文字は二水であると誤って記憶していたがためであると推認するのが合理的である。そうすると これは,Aの筆跡上の固有の特徴ということができる(当裁判所が実施した鑑定の結果(以下「裁判所鑑定」という。)。
 一方,本件A遺言には,「渡」の文字が二水で記載されており,これはAの筆跡上の固有の特徴が現れたものであって,本件A遺言の全文,日付及び氏名がA自身によって記載されたものであることの有力な間接事実ということができる。

d 裁判所鑑定は,本件A遺言に「渡」の文字が二水で記載されている点について,固有性であって偶然の共通であるのか,作為の意図によるものであるのかは判然としないとする。

 しかし,後述のとおり,本件A遺言の筆跡と本件B遺言の筆跡は同一人の筆跡と認められるところ,本件B遺言にも「渡」の文字が二水で記載されている。仮に,第三者が,故意に,Aの筆跡の固有性を真似て「渡」の文字を二水で記載したのだとすれば,本件B遺言についてまで「渡」の文字を二水で記載するはずがない。そのようなことをすれば,本件A遺言がAの自筆によるものであることを示唆するためにわざわざ「渡」の文字を二水で記載した意味が失われてしまうばかりか,本件A遺言と本件B遺言が同一人によって記載されたものではないかとの疑いを抱かせることになりかねないからである。筆者がそのような懸念を抱くことなく,本件A遺言と本件B遺言の両方に 「渡」の文字を二水で記載したということは,その筆者自身が「渡」の文字は二水であると誤って記憶していたためにほかならない(したがって,その筆者はAである。)と推認するのが合理的である。

 甲19(以下「原告鑑定」という。)は,本件A遺言の筆跡は,筆意,執筆心理の状況,送筆画の筆継ぎの状態等から模書や偽筆等の疑いがかなり高いとする。

 しかし,本件A遺言は,A死亡後の財産の行方を決める重要な法律文書であり,Aがその筆記に当たって慎重に筆を進めたため,その筆意や執筆心理の状況が「やや慎重気味」となったとしても何ら不自然ではない。したがって,上記の筆意や執筆心理の状況等をもって模書や偽筆等の根拠とすることは不合理である。また,筆意や執筆心理の状況等において,日常生活の中で平常心の下で筆記された文書(甲15,16,乙7の5)と相違点があったとしても,これをもって同一人の筆跡ではないと結論づける根拠とすることは不合理である。

 したがって,原告鑑定が,本件A遺言の筆跡とAが日常生活の中で筆記した文書(甲15,16,乙7の5)の筆跡は,別人の筆跡と認められるとした結論を採用することはできない。


以上:2,597文字

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