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日弁連”民事裁判手続のIT化における本人サポートに関する基本方針”紹介

令和 1年 9月18日(水):初稿
○「”裁判手続等のIT化検討会”第9回会議配付資料-最新資料紹介」で、「仙台地裁でも2020年2月からウエブ会議等のITツールを活用した争点整理の運用が開始されるようです。」と記載していました。

○「”アジアの司法IT化進む ネットで裁判完結も ”紹介」記載の通り、日本の司法IT化は、中国や韓国よりも相当後れを取っており、差し迫った課題です。しかし、専門家を依頼しない本人訴訟での本人保護を如何にすべきかの課題もあり、日弁連では、「民事裁判手続のIT化における本人サポートに関する基本方針」を公表したとのことで、以下に紹介します。

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民事裁判手続のIT化における本人サポートに関する基本方針
2019年(令和元年)9月12日 日本弁護士連合会


第1 基本方針
1 当連合会は,地方裁判所における民事裁判手続のIT化導入に向けて,本人訴訟でIT技術の利用が困難な当事者本人(以下「本人」という。)に対して,裁判を受ける権利を実質的に保障して必要な法律サービスを提供することを可能とするため,IT面についても必要なサポートを提供する。

2 そのサポートの内容は,裁判所・日本司法支援センター(以下「法テラス」という。)等の公的機関によるサポート体制の充実度との調整を図り,また各弁護士会の実情に応じて人的・物的体制等も含めて,IT化の実施時までに具体的に検討を進める。

3 民事裁判手続のIT化は,新たな司法システムの構築を目指すものであり,それに伴い裁判を受ける権利に支障が生じる場合は,国がその責任において支障を除去することは当然である。当連合会は,市民の権利を擁護する使命に基づき,地方裁判所における本人訴訟のIT面のサポート(以下「本人サポート」という。)を提供するものであるが,併せて国に十全なサポート体制の構築や支援を求めるとともに,最高裁判所,法務省,法テラスなど関係機関と緊密に連携協議していく。

第2 基本方針提案の理由
1 民事裁判手続のIT化

2019年(平成31年)4月12日,関係行政機関等の連携・協力の下,民事司法制度改革に向けた喫緊の課題を整理し,その対応を検討するため,「民事司法制度改革推進に関する関係府省庁連絡会議」(以下「連絡会議」という。)が開催された。ここでは,グローバル化,デジタル化が急速に進展する日本社会において,これに対応する民事司法制度を見据え,喫緊の課題の一つとして,民事裁判手続のIT化が取り上げられている。
民事裁判手続のIT化については,本人訴訟について,当事者の裁判を受ける権利にも十分配慮しつつ,当事者のおかれた立場や訴訟の各進行段階等に応じ,適切な担い手による充実したIT面のサポート(ITリテラシー支援策)が必要である(1)。

連絡会議の下に設けられている幹事会における有識者ヒアリングにおいても,本人訴訟のサポート体制の整備として官民の既存の基盤(地方公共団体,法テラス,弁護士会,司法書士会等)の活用と必要な予算の投入の必要性等が指摘され(2),当連合会の態度決定が迫られている。
他方で,民事裁判手続のIT化に伴う懸念として,IT面のサポートに便乗するなどした非弁活動の増加が指摘されている。

したがって,当連合会は,非弁活動による国民の不利益を防止しつつ,民事裁判手続のIT化が導入されても,年齢,職業,地域などの当事者の置かれた立場を踏まえ,本人訴訟でIT技術の利用が困難な当事者本人の裁判を受ける権利が十分に保障されるよう積極的な取組をする必要がある。

2 本人サポートの必要性
裁判申立てのオンライン化(3)の導入については,当事者の裁判を受ける権利を阻害することがないよう十分な対応が講じられることが不可欠であるところ,これが導入される前提としては,
①裁判所による適切なウェブ上の利用システム・環境の構築や,
②適切な担い手による充実したIT面のサポート
が必要である。

②の本人サポートについては,本人訴訟でIT技術の利用が困難な者,すなわち現行法の下であれば,手書きの書面を作成し,それを裁判所に持参・郵送で提出することしかできない者が,IT化が導入された後においても,少なくとも現行法と同等程度には適切に裁判を受けられるようなサポート体制の整備が求められている(4)。

3 本人サポートの内容と支援体制
地方裁判所における本人サポートには,連絡会議において,①IT機器の提供や利用方法の教示などの純粋な電子化支援サービス(ITリテラシー支援策)である形式サポートと,②①に加え法的助言などを伴う法律サービスとセットとなったサポート業務(実質サポート)があると指摘されている(5)。

①の形式サポートについては,例えば本人が作成した紙の訴状をPDF化してオンラインで裁判所に提出することが想定されるが,かかる本人サポートについては,裁判手続に特化することなく,多数のアクセスポイントがあり費用も低廉な民間サービス(コピーセンターや,コンビニエンスストアなど)で相当の機能を担うことが可能である。もっとも,純粋に形式サポートに限定されない場合には,非弁の問題が生じる(6)。

この点については,司法機関としての中立性を前提としつつ,従来の裁判所における窓口相談(手続教示)に準じた,裁判所における必要な形式サポートの実施が十分に検討されるべきである。
さらに,刑事施設被収容者などについては,刑務所などの公的機関による形式サポートが必要になる。これに対して,②の法的助言などを伴う法律サービスとセットになったサポート業務(実質サポート)は,弁護士のみがなしうることであり,弁護士又は弁護士会が担う必要がある。

以上の形式サポート及び実質サポートのいずれについても,資力の乏しい本人には,法テラスによる十分な情報提供と相談対応が不可欠である。また,本人サポートに限っては,代理援助を基本とする法テラスの既存の枠を超えて,法テラスが本人に対してより幅広いIT支援を可能とする枠組みやIT機器の整備等が十分に検討されるべきである。

4 弁護士・弁護士会において検討を要する本人サポートの内容
民事裁判手続のIT化は,新たな司法システムの構築を目指すものであり,それに伴い,裁判を受ける権利に支障が生じる場合は,国がその責任において支障を除去することは当然であるから,国に対し,十分なサポート体制の構築や必要な支援を求めるとともに,最高裁判所,法務省,法テラスなど関係機関と緊密に連携協議していく。

その一方で,当連合会は,前記2のとおり,民事訴訟手続のIT化導入の前提として,年齢や職業,地域的特性にも配慮した上で国民の裁判を受ける権利が阻害されることのないよう十分な対策を講じるべきであるし,司法アクセスの充実や非弁活動の防止の点からも,この段階で基本方針を明らかにすることが必要であると考える。

本人サポートについて,弁護士又は弁護士会によるサポートの具体的な内容は,IT化に伴う法制度の見直しの方向性が明確になった段階で公的機関によるサポート体制の充実度との調整を図りつつ改めて検討すべきことであるが,以下の内容が,例として想定される。

(1) 弁護士によるサポート
弁護士会に相談に来た本人に対し,弁護士会にあらかじめ届け出た弁護士を紹介し,同弁護士は,自らの事務所において,必要に応じて対価を得て(7),民事裁判遂行に必要な本人サポートを実施するとともに,本人の依頼に応じ,法的助言などの法律サービス(事件の受任を含む)の提供を行う。

(2) 弁護士会によるサポート
弁護士会は,(1)の弁護士紹介サービスのほか,各弁護士会の実情に応じて会内施設に,民事裁判手続のIT化に対応した機器を設置するなどしてサポートする。なお,裁判所の協力を得て裁判所のスペースを使用して実施することも考えられる。また,弁護士又は弁護士会による本人サポートが適切に機能するためには,本人がいったんアクセスした裁判所窓口・各種の相談機関等から弁護士会等に適切につなぐための連携枠組みを十分に確保する必要がある。

(3) 当連合会のサポート支援
 (2)のサービスの提供を可能とするために,当連合会が弁護士会に対して相応の援助を行うことが必要となる。

(注釈)
1 裁判手続等のIT化検討会「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ―『3つのe』の実現に向けて―」(平成30年3月30日)16頁。
2 内閣官房「民事司法制度改革推進に関する関係府省庁連絡会議」ウェブサイト(幹事会)第2回会合令和元年6月25日配布資料2等。
3 オンライン申立ての一本化については,商事法務研究会の民事裁判手続等IT化研究会において検討されており,未だ具体的方向性が固まっているわけではない。また,オンライン申立てのための民事訴訟法改正が成立するのは2022年(令和4年)頃であり,必要なシステムが構築されて実際に運用が開始するのは,早くて2024年(令和6年)頃と見込まれる。以下においては,オンライン申立てや書面による申立てが併存する場合においての本人サポートの必要性も含めて検討するものである。
4 商事法務研究会「民事裁判手続等IT化研究会」資料2,第1総論1「オンライン申立ての一本化について」など同研究会の資料9-1では,資料2における体制整備の必要性に関する説明は維持されたまま,オンライン申立ての一本化について,甲案(オンライン申立ての一本化),乙案(本人訴訟には例外を認める案),丙案(書面併用型)の3案が示されている。このうち,甲案とする場合は,手厚いサポート体制が不可欠であり,丙案としても,必要最小限度のサポート体制が必要とされ,いずれの案でもサポート体制が不要ということにはならない
5 簡易裁判所に関しても同様の本人サポートが問題となるが,民事裁判手続等IT化研究会では地方裁判所の手続を前提とした検討がなされており,簡易裁判所における本人サポートについては簡易裁判所におけるIT化の内容が明らかになった時点で改めて検討する。
6 したがって,その旨の十分な周知とともに,罰則など適切な予防手当てが必要になる。
7 実費のほか一定額の手数料が考えられる。現行法における本人訴訟でも紙の印刷代,副本のコピー代その他の実費が必要となる。

                                             以上
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