平成29年 3月27日(月):初稿 |
○「みなし単純承認解釈ミスで弁護士に損害賠償義務を認めた判例紹介2」を続けます。 事案復習です。 当事者の関係は次の通りです。 F | B(被相続人)______妻C h24.2.23死去 __|__ | | D X(原告) | E ・平成24年2月23日に死去したBは、生前の平成21年1月30日頃に山口市内の自宅土地建物(本件不動産)をEに贈与する贈与契約書を作成していた ・Bは、A株式会社に対し、求償金債務として828万4206円及びこれに対する平成12年6月28日から支払済みまで年14%の割合による遅延損害金の支払義務を負っていた ・Y弁護士の調査では、Bはその他にも債務があり、数千万円の債務を抱えて債務超過の状態と判明 ・X(原告)・C・D(米国居住)は、Y弁護士(被告)に対し、平成24年4月、Bの相続放棄放棄期間伸長申立を委任し、Yの申立により同年11月まで伸長の審判を得た ・同年7月、Y弁護士は、米国居住のDの相続放棄の申述手続 ・XとCはY弁護士にB(の相続人)・E間の贈与による所有権移転登記手続を委任し平成24年7月17日、所有権移転登記手続完了 ・Y弁護士は、Xらに所有権移転登記手続で単純承認になるかどうかは裁判例が存在せず、法的には半々の可能性ありと説明 ・同年8月31日、Y弁護士は、XとBの相続放棄の申述手続 ・A株式会社は、X・Bに前記約828万円の求償権債権の支払を求めて訴え提起、YがXらの代理人となり訴訟追行するも平成26年3月、請求認容判決、控訴せず確定 ○Y弁護士は、事務員Hの「贈与登記をすることが単純承認にならないか,要検討。裁判例とコンメンタールを調査しましたが,登記義務者として登記に応じることが単純承認とみなされる,という明確な記述は見つかっていません。」との報告で、「所有権移転登記手続で単純承認になるかどうかは裁判例が存在せず、法的には半々の可能性」との説明をしたようです。しかし、「民法第921条で単純承認とみなされる”処分”概観」で説明しているとおり、「明確な記述は見つかっていません。」は明らかな調査・勉強不足です。 ○所有権移転登記手続は、裁判例やコンメンタールを調査するまでもなく正に「処分」に該当すると考えるのが、普通の法律専門家の感覚です。判決理由の「被告において,単純承認とみなされる可能性は半々程度であると考えたこと自体,見通しを誤ったものといわざるを得ず,そのような見通しの下に原告に対してされた説明もリスクの大きさという点で不十分なものであったというべきである。」は当然です。 ○本件では、Y弁護士の調査では、Bは、本件不動産を所有していたとしても、数千万円の債務を抱えて債務超過状態が明白だった訳で、数千万円の債務を承継しないためには単純承認と見なされる行為は絶対にすべきではないとアドバイスすべきでした。その意味では単純ミスと評価されてもやむを得ないと思われます。 ○なんとしても本件不動産を確保したい場合、例えばX以外の相続人は放棄して、唯一の相続人になったXが限定承認をして、債権者に対し、本件不動産は既に贈与契約済みと報告して配当財産には加えず、その他の財産処分で得た金員を配当して終了するという手段もあります。この場合、平成21年1月30日贈与契約を詐害行為として取消の訴えが提起された場合、できるだけ低額での売却の了解を取る和解を試みるべきでしょう。 ○詐害行為取消訴訟は、その事実を知ったときから2年間の期間制限があります。さりげなく贈与契約と配当予想を報告して期間経過を期待するのも手ですが、いずれにしても、対価無しで本件不動産を確保するのは難しいとの説明をしておくべきでしょう。 ○もっとオーソドックな方法は、第2次・3次相続人含めて相続人全員が相続放棄して相続財産管理人を選任し、Eがその相続財産管理人に対し、本件不動産についての平成21年1月30日贈与契約の履行即ち所有権移転登記請求をするものです。この場合、就任した相続財産管理人の判断如何によりますが、最終的には時価の一定割合の金員を支払って移転登記を受けられるよう働きかけることになります。 以上:1,743文字
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