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破産事件受任弁護士財産散逸防止義務を厳しく認めた東京地裁判決紹介4

平成27年 2月28日(土):初稿
○「破産事件受任弁護士財産散逸防止義務を厳しく認めた東京地裁判決紹介3」の続きです。
Y1弁護士は、「原告が,D,E及びFに対する債務名義を有しており,同人らからの回収が不可能であることが立証されていないから,損害が発生しているとはいえない」と主張しましたが、判決は、「被告らがその注意義務に反して破産会社の財産から財産を逸失させた場合,破産管財人による回収の可否如何に関わらず,原則として,その逸失した金額が破産財団の損害となると解すべきであり,その後の回収はその損害が填補されたに過ぎないというべきである。」と厳しい回答をしていることをシッカリ自覚すべきです。

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(3) 損害の有無
 以上のとおり,被告らは,破産財団となるべき破産会社の財産から,D,E及びFに対し,前記1(1)カのとおり,合計2259万6954円を支払うことで,同額分の破産財団を毀損し,同額の損害を生ぜしめたことが認められる。このうち,前提事実(5)のとおり,本件訴え前に合計6万8217円(振込手数料合計3315円を除く。)が同人らから,本件訴え提起後に4万2394円(振込手数料840円を除く。)がDから回収されているが,これらの額については,別紙計算書記載のとおり,いずれも遅延損害金に充当される。

 なお,これに対し被告らは,原告が,D,E及びFに対する債務名義を有しており,同人らからの回収が不可能であることが立証されていないから,損害が発生しているとはいえないと主張する。しかし,被告らがその注意義務に反して破産会社の財産から財産を逸失させた場合,破産管財人による回収の可否如何に関わらず,原則として,その逸失した金額が破産財団の損害となると解すべきであり,その後の回収はその損害が填補されたに過ぎないというべきである。また,前提事実(5)のとおり,強制執行手続まで経ながら未だ元金の回収に至っていないことからすると,実質的に見ても,少なくとも回収できていない金額については,破産財団の損害は財産が逸失した時に発生したと認められる。

(4) 被告らの共同性
 被告らは,ともに,a法律事務所所属の弁護士として,共同して上記の支払を行ったものであるから,共同の不法行為であると認められることは明らかである。

(5) 結論
 以上によれば,被告らは,その過失により,破産財団を毀損し,破産会社に2259万6954円の損害を与えたと認められるから,破産会社に対し,連帯してその損害を賠償する責任を負うとともに,これに対する,不法行為たる支払の日である平成23年3月15日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。そして,本件訴え提起前に回収された合計6万8217円及び平成24年7月10日に回収された4万2394円については,別紙計算書記載のとおり,いずれも,各回収日までの確定遅延損害金に充当されるから,その結果,同日までの確定遅延損害金が138万5972円となったと認められる。したがって,被告らは,破産会社に対し,連帯して,損害金2259万6954円及びこれに対する平成23年3月15日から平成24年7月10日までの確定遅延損害金残金138万5972円の合計2398万2926円並びに損害金元金2259万6954円に対する同月11日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負っていることになる。

2 否認に基づく原状回復請求について
(1) 否認の要件

 原告は,被告Y1への報酬支払行為を詐害行為又は無償行為として否認するとするが,報酬の支払行為自体は委任契約に基づく債務の履行であることから考えれば,実質的には,被告Y1と破産会社との間の報酬合意のうち相当な報酬額を超過する部分を否認するとの趣旨であると解される。

(2) 相当な報酬額
 ア 被告らが作成した破産手続開始の申立ての際の債権者一覧表には,大要,以下の債権の記載がある(乙2)。
 一般債権 合計10億6699万6400円
 公租公課 合計 6669万3804円
 総合計11億3369万0204円

 原告が作成した破産財団の平成25年3月1日付け財産目録(乙21)には,以下の記載がある。
 資産の部
 科目 評価額
 現金 8630万2496円
 合計 8630万2496円
 敷金(簿価) 42万円
 負債の部
 科目 評価額
 普通破産債権 認否未了
 (届出額9億1274万2979円)
 公租公課(財団債権) 4947万4070円
 優先的破産債権 認否未了
 (届出額1209万4500円)
 劣後的破産債権 認否未了
 (届出額10万1000円)
 合計 4947万4070円
 (認否未了債権を除く評価額)
 (届出額9億7441万2549円)
 上記のとおり,破産手続開始の申立ての段階で被告らが把握していた債権額と届出債権額に顕著な差はなく,破産会社は,概ね債務額10億円程度のものとして債務整理事務を検討すべきである。

 イ 前提事実(2)のとおり,本件において,破産会社から被告Y1に支払われた報酬は1260万円であるが,甲20によれば,この中には,消費税60万円並びに諸経費及び実費も含まれていたと認められる。そして,甲53及び被告Y1本人尋問の結果によると,被告Y1は,平成23年2月28日の時点で,「申立費用」として1200万円を必要とすると想定していたところ,ここでいう申立費用とは,本件委任契約に基づく,被告Y1への1200万円(税抜き)の報酬を指すこと,一方,同時点で想定していた「必要とするもの」の中では,民事再生申立ての際の予納金は別途計上されていないことが認められる。

 そうすると,かかる予納金は,「申立費用」の1200万円(税別),すなわち本件委任契約に基づき被告Y1に支払われた1260万円(税込み)に含まれるものであったと認められ,これを否定する被告Y1の供述はにわかに採用できない。被告Y1本人尋問の結果によると,被告Y1は,当事者尋問の際,経験に基づき,破産会社が民事再生手続を申し立てた場合の予納金を400万円から500万円程度との予測を示していたことが認められ,そうすると,本件委任契約が締結された時点でも同様の見立てを有していたと推認される。したがって,被告Y1は,本件委任契約の時点で,同契約に定められた1260万円のうち,少なくとも400万円が裁判所に支払う予納金に充てられ,同人が報酬及び予納金以外の経費として収受できるのが最大でも860万円にとどまりうることを想定した上で,同契約を締結したものと認められる(しかし,上記400万円は予納金として被告Y1から裁判所に支払われた形跡はない。)。

 また,乙23及び被告Y1本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると,破産会社から被告Y1に支払われた報酬名下の金員中には,亡C及びHの個人としての民事再生申立て,破産手続開始の申立て等の債務整理に関する諸手続の報酬も含まれていること,亡CやHの債務の大半は破産会社の債務の保証債務や,破産会社の資金繰りのための債務と考えられ,破産会社の債務整理業務と共通の内容を有する部分が少なくないことは認められる。しかしながら,このような事情を考慮しても,各個人破産に関する固有の事務が皆無とはいえないのであり,そうすると少なくとも100万円分は亡C及びHの個人としての債務整理事務に対する報酬と認められる。

 このことから考えれば,本件委任契約中の破産会社の債務整理事務固有の報酬としては,多くとも760万円が相当であり,それを上回る部分は不相当であったと認められる。

 被告Y1は,被告らが実際に行った職務の質及び量や,日本弁護士連合会が定め,現在は廃止されている旧報酬規程などを根拠に,1260万円の報酬が相当であることを主張するが,上述のとおり,被告Y1自身が,破産会社の債務整理事務に対する報酬としては,760万円を上回る部分を最終的に収受できないことも想定していたと認められる以上,かかる主張は採用できない。

 ウ その一方で,原告は,相当な報酬が660万円であり,これを上回る部分は不相当であると主張する。しかし,乙23及び被告Y1本人尋問の結果によると,被告らは,破産会社の工場が,平成23年3月11日の東日本大震災により棚が倒れるなどの出費を要する被害を受け,事業継続の見込みがなくなり,破産手続開始の申立てを行うことを最終的に決断したことが認められ,少なくとも本件委任契約が締結された時点で,破産会社につき民事再生申立てを行うことが全く想定されていなかったとまでは認められないこと,乙19によれば,同契約の締結後,破産会社がその全株式を保有していたフィリピン子会社の全株式の譲渡を行うに際し,破産会社を代理して契約交渉を行っていることが認められ,破産会社の再生に向けた行為とも理解できる業務を一定程度行っていることなどの事実に鑑みれば,相当な報酬額が760万円を下回るとまでは認められない。

(3) その他の要件について
 証人Hの証言によれば,破産会社は,遅くとも,本件委任契約が締結されたとされる平成23年2月8日より前である同年1月28日には,同年3月の手形決済が危ぶまれ,弁護士である被告らに,債務整理や倒産処理手続について相談するに至っていたことが認められる。そうすると,破産会社は,遅くとも平成23年2月8日には,破産会社の財務状況が悪化しており,弁護士に対する過大な報酬債務を負うことによって,破産債権者を害することを認識していたことは明らかである。

 また,前提事実(2),乙23及び被告Y1本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると,被告Y1は,平成23年2月8日以前にも2回にわたり破産会社から債務整理についての相談を受け,同日には債務整理を内容とする本件委任契約を結んでいると認められるから,同日には,破産会社の財務状況についても熟知していたことは明らかであり,破産債権者を害する事実を知らなかったとは到底認められない。

(4) 結論
 以上によれば,原告は,破産会社の被告Y1への報酬の支払のうち,760万円を超える部分(500万円)については否認することができるから,原告の否認の主張は,その限度でのみ理由がある。
 したがって,被告Y1は,破産会社に対し,500万円の原状回復及びこれに対する否認権行使の意思表示の到達の日の翌日である平成24年7月4日から支払済みまで民法所定年5分の割合による法定利息の支払義務を負う。

3 結論
 以上によれば,被告らは,破産財団に対し,連帯して,損害金2259万6954円及びこれに対する平成23年3月15日から平成24年7月10日までの確定遅延損害金残金138万5972円の合計2398万2926円及び内金(損害金元金)2259万6954円に対する同月11日から支払済みに至るまで民法所定年5分の割合による金員を支払う義務を負い,被告Y1は,破産財団に対し,原状回復として,500万円及びこれに対する同月4日から支払済みに至るまで民法所定年5分の割合による金員を支払う義務を負うところ,原告は破産会社の破産管財人であるから,原告の請求は,上記と同額の限度で理由があるので認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用について民事訴訟法64条本文及び同法61条を適用して,主文のとおり判決する。
 (裁判官 足立堅太 裁判官 佐藤貴大 裁判長裁判官三角比呂は,差支えにより署名押印することができない。裁判官 足立堅太)

 〈以下省略〉
以上:4,784文字

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