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弁護士法72条に関する昭和46年7月14日最高裁判決全文紹介

平成25年 3月 8日(金):初稿
○弁護士業務は、弁護士法によって規制されていますが、その中の最重要条文は第72条で以下の通りです。

第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。


○この規定の第1の趣旨は、弁護士による法律業務独占で、最大・最重要な弁護士特権であり、長年、司法書士・行政書士等他の士業から目の敵にされてきたものです。他士業界の政治運動はこれを崩すことが最大の目的でした。多重債務事件・過払金返還請求事件などは、弁護士でなくても少し勉強すれば簡単に処理できる事件です。弁護士資格が無いと出来ないのが原則ですが、事件事務処理の殆どを事務局に丸投げしてお金になるその業務実態を知れば、弁護士以外の方々から何と甘い美味しい商売かと妬まれることは確実な事件でした。

○平成5年に司法書士業界の長年の悲願が実り、認定司法書士制度が出来ました。認定司法書士も簡裁事件、争いの額が140万円以下の法律事務を取り扱うことが出来るようになり、弁護士法律事務独占の一角が崩されたのです。この制度によって殆どの過払金請求事件を取り扱うことが出来、この甘い・美味しい商売である多重債務・過払金返還事件に弁護士と同様に群がりました。中には平均的弁護士を遙かに超える巨利を得て、脱税をして摘発された例も相当数ありました。

○この弁護士法第72条は、条解弁護士法第2版によると「本条の目的は弁護士制度の維持・確立であると説くものがあるが(福原・282頁)、そのように弁護士制度に限定するのではなく、国民の法律生活の面も考慮して、弁護士制度を包含した法律秩序全般の維持、確立と解するのが妥当であろう。」と解説されています。要するに弁護士に法律事務を独占させることで法律秩序全般が維持・確立され、延いては国民の法律生活のためになるのだとの解説ですが、実に弁護士よりの解釈で、「弁護士と闘う」さん当たりに言わせたら「ふざけるな!」も良いところでしょう(^^;)。

○この弁護士法第72条の解釈についてのリーディング判例が昭和46年7月14日最高裁大法廷判決(判タ265号92頁、判時636号26頁)です。以下、全文を掲載し、熟読してその趣旨を噛み締めます。

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主  文

 原判決および第一審判決を破棄する。
 本件を名古屋地方裁判所に差し戻す。

理  由

 被告人本人の上告趣意のうち、違憲をいう点は、実質は単なる法令違反の主張に帰し、その余は、事実誤認、単なる法令違反の主張であり、弁護人深井正男の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、いずれも適法な上告理由にあたらない。

 しかし、職権をもって調査すると、第一審判決およびこれを支持する原判決は、以下に述べるところにより、刑訴法411条1号により破棄を免れない。

 第一審判決は、大要、被告人が、弁護士でなく、かつ、法定の除外事由がないのにかかわらず、(甲)報酬を得る目的で、4回にわたり、他人の法律事件に関して法律事務を取り扱い、(乙)業として、5回にわたり、法律事務取扱いの周旋をした事実を認定判示し、これにつき、(甲)の各所為はいずれも弁護士法72条本文前段、77条に、(乙)の所為は包括して同法72条本文後段、77条に、それぞれ該当するものとし、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上を刑法45条前段の併合罪として同法47条、10条による加重をした刑期範囲内で被告人を懲役6月、執行猶予1年の刑に処し、原判決はこれを是認したのである。

 そして、各判文によれば、第1、2審裁判所はいずれも、弁護士法72条本文は、弁護士でない者が、「報酬を得る目的で、法律事件に関し、法律事務を取り扱うこと」および「これらの周旋をすることを業とすること」を、それぞれ禁止するもので、前者については業とすることを要せず、後者については報酬を得る目的のあることを要しないと解し、これに基づいて各判決をしたことが明らかである。

 ところで、同条制定の趣旨について考えると、弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行なうことをその職務とするものであって、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講ぜられているのであるが、世上には、このような資格もなく、なんらの規律にも服しない者が、みずからの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とするような例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、同条は、かかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられるのである。

 しかし、右のような弊害の防止のためには、私利をはかってみだりに他人の法律事件に介入することを反復するような行為を取り締まれば足りるのであって、同条は、たまたま、縁故者が紛争解決に関与するとか、知人のため好意で弁護士を紹介するとか、社会生活上当然の相互扶助的協力をもって目すべき行為までも取締りの対象とするものではない。

 このような立法趣旨に徴すると、同条本文は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、業として、同条本文所定の法律事務を取り扱いまたはこれらの周旋をすることを禁止する規定であると解するのが相当である。換言すれば、具体的行為が法律事務の取扱いであるか、その周旋であるかにかかわりなく、弁護士でない者が、報酬を得る目的でかかる行為を業とした場合に同条本文に違反することとなるのであって、同条本文を、「報酬を得る目的でなす法律事務取扱い」についての前段と、「その周旋を業とすること」についての後段からなるものとし、前者については業とすることを要せず、後者については報酬目的を要しないものと解すべきではない。この見解に反する当裁判所従来の判例(昭和37年(オ)第1460号同38年6月13日第一小法廷判決、民集17巻五号744頁、同37年(あ)第673号同39年2月28日第二小法廷決定、刑集18巻二号73頁等)はこれを変更する。

 そうすると、右見解にそわない解釈を前提とした本件第一審判決および原判決には、法令の解釈適用を誤り、ひいて審理を尽くさなかった違法があり、その違法は判決に影響を及ぼし、破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
 よって、刑訴法411条1号により原判決および第一審判決を破棄し、同法413条本文により事件を第一審裁判所である名古屋地方裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石田和外 裁判官 下村三郎 裁判官 色川幸太郎 裁判官 大隅健一郎 裁判官 松本正雄 裁判官 村上朝一 裁判官 関根小郷 裁判官 藤林益三 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 下田武三)


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