平成21年 4月29日(水):初稿 |
○「私の自覚-弁護士は基本的にサービス業、世の指導者に非ず2」の話を続けます。 「私は、弁護士と言う職業は世の指導者たる特別の存在だとの思いは払拭すべきと常に自分に言い聞かせるようにしております」が、時にこの自覚を忘れます。ある損害賠償請求事件の和解時のことです。私は損害賠償請求をする方の代理人でしたが、相手方が予想より高額の賠償額を提示し、和解条項に「心から陳謝する」との謝罪条項も入れて和解が成立しました。 ○私としては,当初予想より少しでも大きな金額を取得することが出来、且つ、和解調書に「心より謝罪する」との強い謝罪文言を入れることが出来たので、お客様にとっても十分に満足できる結果になったはずで、お客様は、大いに満足され、このような和解に漕ぎ着けた私はお客様に感謝されるだろうと確信して居ました。 ○ところがお客様も同席しての和解が成立した直後、お客様は怪訝な顔をされ、更に和解が終了して和解席を出た後は大変不機嫌な顔をされています。そこでお客様に、何か問題がありましたかとお伺いすると,大いに問題がある、相手方は和解の席で肝心の謝罪をしなかった、何のための和解だったのかと強く不満を述べられました。 ○私は,一瞬、「弁護士の世界では、謝罪は,和解条項に記載すればそれで謝罪したことになるのであり、何より損害賠償義務を認めて、その損害金を支払うことが最も重要な謝罪の表れであり、実際に頭を下げて謝罪することは,問題ではありません。」と言いかけて口をつぐみました。 ○この「弁護士の世界では」と言う考え方が大問題でした。そのお客様にとってわざわざ弁護士に費用を支払って相手方に対する損害賠償請求手続を取ったのは、不誠実な憎っくき相手方からキチンと謝罪して貰うことが最も重要なことだったのです。それが和解成立時、和解条項を裁判官が淡々と読み上げるだけで、相手方が謝罪条項に従って被害を受けたお客様に頭を下げて謝罪文言を口に出すこともなく平然と立ち去ったことに憤っていたのです。 ○この話をある弁護士にしたらそんな我が儘な依頼者には、和解条項の意味をキッチリ指導すべきと言われました。しかし弁護士のこのような指導者面が、弁護士に対する反感を堆積させ、今の司法改革、弁護士特権剥奪の道を開いたと確信する私は、和解時に配慮が足りなかったことをお客様に率直にお詫びしました。 ○そして相手方の弁護士に連絡を取って事情を説明し、幸い理解ある弁護士で、その協力を取り付け、裁判外で再度和解儀式を持ち、今度は,相手方自身が、その席でお客様に頭を下げ謝罪文言を述べ、ようやくお客様の納得を得ました。謝罪文言を受けたお客様は、相手方に対し、お世話になりましたと謝辞を述べてくれました。 お客様のご満足を頂けるよう最大限の努力を積み重ねる姿勢だけは忘れないよう自戒していきます。 以上:1,168文字
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