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令和 5年11月 2日(木):初稿 |
○判例時報令和5年10月11日号に掲載された令和5年4月28日静岡地裁判決での自動車保険の契約者が初回保険料の支払を怠っている状況で、示談代行を行う保険会社が被害者との間で成立させた交通事故の示談につき、同保険会社が被害者に対し初回保険料の不払いを理由とする保険金支払免責の主張をすることが信義則に反するとはいえないとした事例についての、第一審令和4年7月5日清水簡裁判決(判時2564号31頁)を紹介します。 ○事案概要は以下の通りです。金額は概算です。 令和元年9月25日;原告X1所有車両に訴外A所有B運転車両が追突事故でX1所有車両に約60万円の損害発生 原告保険会社X2はX1との保険契約に基づき約50万円の保険金X1に支払、10万円は免責金額 訴外Aは被告保険会社と保険契約締結するも訴外Aは保険料支払遅滞 被告保険会社担当EはX1と示談交渉を行い、被告保険会社が保険金63万円を支払うとの示談書作成 X1はAはX1に11万円を、X2はAはX2に50万円支払うとの各確定判決取得済み 被告保険会社に対し、X1は11万円、X2は50万円の各支払を求めて提訴 被告保険会社は、Aと被告保険会社の保険契約は、Aの保険料支払遅滞により失効しているので保険金支払義務は無いと主張 ○物損交通事故の被害者X1は、損害額60万円の内自分の保険会社から支払を受けた50万円を差し引いた10万円と弁護士費用1万円の請求、保険会社X2は、X1に支払った保険金50万円の保険代位請求について、加害者Aに確定判決をとってもAに支払能力が無いためAの保険会社に支払を求めて提訴しました。静岡簡裁は、Aの保険会社担当者が示談代行をして支払を約束したことを根拠にX1の請求は認めましたが、X2の請求は、示談契約不成立を理由に棄却しました。 ******************************************** 主 文 1 被告は、原告X1に対し、11万円及びこれに対する令和元年9月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告X2株式会社の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、原告X1と被告との間においては、被告の負担とし、原告X2株式会社と被告との間においては、原告X2株式会社の負担とする。 4 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 主文1項と同旨 2 被告は、原告X2株式会社に対し、49万5573円及びこれに対する令和2年4月3日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 請求 (1)主位的請求 原告X1と訴外Bとの間の交通事故について、訴外Bの使用者訴外株式会社A株式会社(以下「訴外A」という。)と被告間の保険契約が定める損害賠償請求権者の直接請求権の定めに基づき、 ア 原告X1の被告に対する、民法709条及び715条に基づく損害賠償請求及び遅延損害金請求 イ 原告X2株式会社(以下「原告保険会社」という。)の被告に対する、民法709条及び715条に基づく損害賠償請求(保険代位)及び保険金支払日の翌日からの遅延損害金請求 (2)予備的請求 原告X1と訴外Bとの間の交通事故について、原告X1と訴外Bの使用者訴外A及び被告間の示談成立に基づき、 ア 原告X1の被告に対する、民法709条及び715条に基づく損害賠償請求及び遅延損害金請求 イ 原告保険会社の被告に対する、民法709条及び715条に基づく損害賠償請求(保険代位)及び保険金支払日の翌日からの遅延損害金請求 2 争いのない事実等 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 本件自動車保険契約の失効、解除 《証拠略》によれば、本件自動車保険契約には、約款上、その3条3項により保険料領収前の事故については保険金を支払わないという特約が認められるところ、訴外Aが本件事故日である令和元年9月25日までに保険料を支払っていないのであるから、保険契約の失効に当たるかどうかにかかわらず、被告において、本件事故に関して、特段の事由のない限り、本件自動車保険契約に基づく保険金支払義務がない。 2 信義則違反 しかしながら、《証拠略》及び弁論の全趣旨によれば、令和元年11月11日、被告は、被告の担当者Eを介して原告X1に対して、架電し、原告X1が被告の指定工場である訴外Cで原告車を修理し、納車されたこと、その修理の仕上がり状態を確認したこと、その上で被告がその修理代を訴外Cに対し、直接支払うこと、「この電話をもって示談とさせていただく」と明言していること、それに原告X1が同意したことが認められる。また、同月13日には、その内容をハガキにて知らせてきたこと、そのハガキには、甲(訴外A)は乙(原告X1)に対する損害賠償金として575、573円を支払うこと、上記内容により、乙(原告X1)は甲(訴外A)および甲(訴外A)の保険会社である被告に対し、今後物件損害およびこれに伴う一切の請求を行わないことを確認すること、被告が訴外Cに対し、保険金として463、573円を、訴外Dに対し、保険金として162、000円を各支払うことが記載されていることが認められる。 また、被告は、口頭・電話等により合意に至った段階で、書面による示談書を作成せずに、保険金を支払うことが行われていた趣旨の主張をしているのであり、被告において、敢えて正式な示談書を作成せずに保険金を支払うことが常態化していたといえること、前記のとおり、本件自動車保険契約の初回保険料を払い込むべき保険料の払込期日の属する月の末日は令和元年10月31日であるから、被告が示談の電話連絡をしてきた同年11月11日の時点では、被告としては、保険料未払の事実の調査が容易に可能であったといえる。 加えて、損害賠償に関して専門的な知識を有する国内でも有数の損害保険会社である被告が、原告X1に対し、積極的に示談の話を持ち掛けて、口頭での示談の合意をさせて、ハガキまで送付している一方、訴外Aの保険料の支払の有無について知る由もなく、保険料の支払の賠償に関して特に知識があるともいえない原告X1において、保険金が支払われ、損害の填補がなされるとの強い期待をもったとしても無理からぬものがある。 以上の経緯によれば、少なくとも、原告X1との関係においては、被告が上記の保険料領収前の事故については保険金を支払わないという特約を主張するのは信義則に反し、許されず、その点で特段の事由が原告X1にはあるというべきである。 したがって、原告X1の主張は、理由がある。 他方、原告保険会社との関係においては、被告と直接示談交渉した当事者ではなく、支払った保険金の填補がなされるとの強い期待をもったという関係にないのであるから,被告の信義則違反は認められない。 3 口頭での示談の成立 前記2のとおり、本件においては、被告の担当者Eが電話示談を行い、更に、示談内容を確認する旨のハガキを送付しているものの、上記ハガキの記載内容は、訴外Dに関しては、証拠上13万2000円の代車費用であるところ、16万2000円を支払うとの記載があり、損害額を超える保険金を支払うという理解し難い不自然なものである。 また、《証拠略》によれば、本件自動車保険契約には、対物賠償に免責金額5万円の定めが認められるところ、上記ハガキの記載上、免責金額5万円の処理方法等内容も不明確である上、関係者の署名・押印等もなされておらず、実質的にも形式的にも不完全なものである。そして、一般に自動車保険契約の約款には、「被保険者と損害賠償請求権者との間で、書面による合意が成立した場合に損害賠償額を支払う。」との定めがあるのが当裁判所に顕著な事実である。 以上によれば、原告X1と被告との間に、原告らが主張する内容の本件の修理費及びレンタカー代の支払について、書面による合意が成立したと認めるには無理があり、示談成立とは認められない。 そうすると、示談が成立しないので、被告において、無権代理人としての責任も認められない。 したがって、原告保険会社の予備的請求は、理由がない。 4 弁護士費用 原告X1の損害として、弁護士費用1万円を認めるのが相当である。 第4 結論 よって、原告X1の請求は理由があるが、原告保険会社の請求は理由がない。 (裁判官 輿石武裕) 以上:3,429文字
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