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他車運転危険補償特約に基づく保険金請求を棄却した地裁判決紹介

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令和 5年 6月 8日(木):初稿
○原告は、被告の保険会社との総合自動車保険契約で他車運転危険補償特約をつけていたところ、契約車両が縁石接触事故で使えなくなり、別車両を購入するまでの期間、訴外Aから中古車を無償で借り受け、借り受けた中古車で、バイクとの接触事故を起こし、同事故によって発生した原告の損害(車両修理費23万円)及び被害者の損害(車両修理費11万8333円及び代車費用6万3360円)について、同契約の他車運転危険補償特約に基づく保険金41万1693円を被告の保険会社に請求しました。

○これに対し、自動車保険の被保険者が、保険契約車両の修理を依頼中、当該保険契約車両とは異なる自動車(他車)を運転中に交通事故を起こした場合において、当該他車を、当該保険契約車両とは別の自動車を購入するまでの間という約束の下、特に確定的な返還期限を定めることなく借り受け、現に継続的かつ日常的に使用していたときは、当該他車は自動車保険の他車運転危険補償特約にいう「常時使用する自動車」に当たり、他車運転危険補償特約の適用がなく、本件事故によって生じた損害に関し、本件契約に基づく保険金支払請求権は発生しないとした令和4年4月15日甲府地裁判決(判時2550号34頁)関連部分を紹介します。

○原告は控訴しましたが、控訴審令和4年10月13日東京高裁判決(判時2550号30頁)も同じ結論で、控訴は棄却されました。

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主   文
原告の請求を棄却する
訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、41万1693円及びこれに対する令和2年1月10日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、保険会社である被告との間で総合自動車保険契約(以下「本件契約」という。)を締結していた原告が、契約車両とは異なる自動車(以下「本件車両」という。)を運転中に交通事故(以下「本件事故」という。)を起こし、同事故によって発生した原告の損害(車両修理費23万円)及び被害者の損害(車両修理費11万8333円及び代車費用6万3360円)について、同契約の他車運転危険補償特約に基づく保険金41万1693円及びこれに対する保険金請求の翌日である令和2年1月10日から支払済みまで商事法定利率年6パーセント(平成29年法律第45号による改正前の商法514条に基づく)の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 争いのない事実等
(1)当事者
 被告は、損害保険業を目的とする株式会社であり、原告は、被告との間で後記(2)のとおり、総合自動車保険の契約を締結した者である。

(2)本件契約

         (中略)

第3 争点に対する判断
1 認定事実

 各掲記の証拠《略》及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)本件契約上、原告の契約車両の主な使用目的は日常レジャー用であり、予想走行距離は年間5000km未満とされていた。
 契約車両は、キッチンカーに改造されたものを原告が中古車として購入し、使用していたものであるが、原告は、これを飲食業のために使用しておらず、日常生活における乗用として、1週間に2、3回の頻度で、買い物や実母の送迎などに使用していた。

(2)
ア 原告は、令和元年11月23日、契約車両を運転中、長野県c郡d町の××IC付近の一般道路において、縁石に接触する事故(別件事故)を起こし、これによって、契約車両はハンドル操作が効かない状態となった。

イ 原告は、別件事故直後、Eというグループの知り合いであった訴外Aに架電し、契約車両をBショップまで搬送するよう依頼した。
 訴外Aは、原告からの依頼を受けてレッカー車で契約車両を取りに行こうとしたものの、レッカー車がオーバーヒートしたことにより、結局、原告が別の知人に搬送を依頼し、契約車両は、別件事故から約6日後にBショップに持ち込まれた。

(3)原告は、契約車両が、軽四トラックを改造したキッチンカーであり、実母の通院等の送迎に不向きであるとの理由により、令和元年12月26日の時点で、中古車を購入すべくこれを探しており、同日、訴外Aに対し、中古車を探している間、自動車を貸して欲しいと申し出た。これに対し、訴外Aは、手ごろな中古車が見つかって原告がこれを購入するまでを借用期間として、原告に、自己の所有する本件車両を鍵と共に引渡し、同車両を無償で貸した。借用中の本件車両のガソリン代やメンテナンス費用等は、原告がこれを負担するものとされたが、これらの合意はいずれも口頭でなされ、書面の取り交わしはなされなかった。
 なお、本件車両は、乗車定員4名の軽自動車である。

(4)
ア 原告は、令和2年1月5日、本件車両を運転中、住宅敷地からバックで道路に出る際に、道路上のバイクと接触する事故を起こした。
 同月6日、原告は被告の担当者に上記事故に関して電話連絡したところ、その際、本件車両を借りた経緯について、契約車両が「キッチンカーのため人を乗せられない。年末年始人を乗せていろいろと用事があったので借りた」などと説明した。

イ 原告は、令和2年1月9日、本件事故を起こした直後、被告の担当者に電話連絡したところ、その際、本件車両を借りた経緯について、契約車両が「古いため買い替えをしようと友人に相談していた」、契約車両の「助手席が使用できない」「母の介護でちゃんとした車両が必要で友人から借りた、友人の販売店で気に入った車両があれば購入しようと思った」などと説明した。

(5)被告は、本件車両の借用の経緯等について、調査会社に調査を依頼し、これを受けて調査会社の担当者が、令和2年1月15日、原告を訪れて、本件車両の借用理由等を聴取した際、原告は、借用理由について、契約車両が「改造軽四トラック「キッチンカー」であるため、母親の送迎には不向きである」「中古の乗用車の購入を知り合いの中古車屋の「A」に相談し、探してもらっている」「手ごろな車が見つかるまで、年末から正月にかけ無料で借りた」などと説明した。

(6)原告は、本件車両の借用中、令和2年1月5日にレギュラーガソリン27・54リットル、同月18日に同じくレギュラーガソリン25・38リットルを給油し、それらのガソリン代を自身で負担していた。

(7)被告から調査の依頼を受けた調査会社の担当者が、令和2年2月3日、Bショップを訪れて、訴外Aに対し、本件車両を原告に貸した経緯等を尋ねた。これに対し、訴外Aは、契約車両がキッチンカー仕様のため、原告が実母の病院の送迎等の目的で中古車を探しており、中古車を探している間、車両を貸して欲しいとの申出を受けたことから、原告が中古車をいずれかで購入するまでの間、ガソリン代等を原告が負担する前提で、地域おこしの仲間である原告に貸した、板金修理の仕事上の貸借ではないなどと説明した上、それらの説明内容を記載した同日付の「自動車の貸借に関する確認書」及び「確認書」に署名・押印した。

(8)契約車両は、令和2年2月29日頃までに、Bショップで別件事故に関する修理がなされ、原告に対して引き渡された。

(9)
ア 本件車両は、平成10年式のホンダライフであるところ、同年式・同車種の時価額(平均)は23万円である。

イ 本件事故によって、訴外C運転車両に関し、修理費用11万8333円、代車費用(18日間のレンタカー代金)6万3360円の損害が生じた。

2 争点(1)(本件車両が「常時使用する自動車」に当たるか)について
(1)他車運転危険補償特約は、被保険者やその家族等が、被保険自動車以外の自動車を臨時に他人から借りて運転中に起こした事故について、当該自動車を被保険自動車とみなして補償の対象とするものである。
 かかる特約は、本来は車両ごとに付保されるべき自動車保険について、その例外として、被保険者や交通事故被害者の保護等の観点から、一定の合理的範囲に補償の対象を拡張する趣旨のものであると解されるところ、「常時使用する自動車」が同特約の対象外とされたのは、常時使用する自動車については、車両ごとに付保するとの自動車保険の原則に立ち返り、別途、当該車両についての保険契約を締結することによってその危険を担保すべきであるとの理由に基づくものと解される。

 これらのことからすると、他車運転危険補償特約における「常時使用する自動車」に当たるかについては、当該車両の使用期間、使用回数、使用目的、使用場所、使用についての裁量の程度等を総合的に考慮し、当該自動車の使用が、被保険自動車の使用について予想される危険の範囲を逸脱したものと評価されるか否かにより判断すべきものと解される。

(2)これを本件についてみると、認定事実(3)のとおり、原告の本件車両の借用目的は、実母の送迎に向いた中古車を購入すべく、これを探している間、実母の送迎等、普段利用するために借用したものであり、その借用期間も、原告が中古車を購入するまでとされ、返却時期につき確定的な期限は設けられていなかったものである。

また、借用期間中の使用回数について、認定事実(4)のとおり、本件車両を運転中に2度にわたって事故を起こしていることや、認定事実(6)のとおり、借用後、1か月弱の間に2度にわたって相当量の給油を行っていることなどからすると、原告は、借用期間中、本件車両を継続的かつ日常的に使用していたものと認められる。その上、認定事実(3)のとおり、原告は本件車両を訴外Aから本件車両の鍵を受領し、自身がガソリン代等を負担するという前提のもと、自由にこれを使用することができたものと認められる。

 このように、本件車両は、訴外Aから借用していたものではあるものの、返却時期に確定的な期限は設けられておらず、その間、原告が特段の制約もなく自由に利用することができ、現に継続的かつ日常的に使用していたものであることからすると、契約車両との関係において、一時的・臨時的に使用していたものとは言えず、本件車両の使用は、被保険自動車である契約車両の使用について予想される危険の範囲を逸脱したものと評価されるというべきである。

 したがって、本件車両は他車運転危険補償特約における「常時使用する自動車」に当たると認められる。


(3)
ア これに対し、原告は、遅くとも令和元年12月24日までに、Bショップに対して契約車両の修理を依頼しており、原告は訴外Aから、同車両を修理するまでの間、契約車両の代車として借用したものであって、「常時使用する自動車」には該当しない旨主張する。

イ この点、確かに、訴外Aは、契約車両がBショップに搬送された後、原告に対し大まかな見積額を伝え、遅くとも令和元年12月20日前後には、原告から正式な修理依頼を受け、修理が終わるまでの代車として本件車両を貸した旨証言する。
 しかし,かかる訴外Aの証言は、認定事実(7)のとおり、訴外Aが、令和2年2月3日の調査会社の調査において、原告が中古車を探しており、これを購入するまでの間、貸して欲しいとの申出があったことを受けて、原告に本件車両を貸した旨説明したことと矛盾しており、信用することができない。 

 これに対し、訴外Aは、調査会社の担当者に対して、上記の説明を行ったことはなく、あくまで修理の代車であると説明したなどと証言するが、一方で、令和2年2月3日付けの「確認書」の署名・押印が自身のものであることは認めているところ、調査会社の担当者において、訴外Aの説明内容と全く異なる内容を記載し、これを看過して訴外Aが同確認書に署名・押印することは、およそ考え難いことからすると、同確認書の記載内容通りの説明が訴外Aからなされたと考えるのが自然であり、訴外Aの証言は信用することができない。

ウ また、原告も、令和元年12月には、訴外Aから契約車両の修理について、大体の見積金額を聞き、同月中に修理依頼をしており、本件車両はその修理期間中の代車として借用したものであると供述する。
 しかし、認定事実(4)のとおり、原告が本件車両を借用中に起こした2度の交通事故における電話の中で、原告が被告の担当者に対して、本件車両を借用した経緯につき、契約車両の修理の事実に何ら触れていないことや、認定事実(5)のとおり、調査会社による調査における説明の際にも、契約車両の修理の事実に言及していないことと矛盾しており、信用することができない。

エ したがって、原告が、遅くとも令和元年12月24日までに契約車両の修理を依頼し、修理するまでの間、契約車両の代車として本件車両を借用したことを認めるに足りる的確な証拠はなく、原告の主張は採用できない。

(4)よって、本件車両は「常時使用する自動車」に当たり、他車運転危険補償特約の適用がなく、本件事故によって生じた損害に関し、本件契約に基づく保険金支払請求権は発生しない。

3 結論
 以上より、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。(裁判官 八槇朋博)
以上:5,389文字

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