仙台,弁護士,小松亀一,法律事務所,宮城県,交通事故,債務整理,離婚,相続

旧TOPホーム > 交通事故 > 交通事故重要判例 >    

交通事故被害治療照会回答は個人情報に該当しないとした地裁判決紹介

   交通事故無料相談ご希望の方は、「交通事故相談フォーム」に記入してお申込み下さい。
令和 3年 1月21日(木):初稿
○交通事故被害者が傷害治療のため通院した医院へ加害者側保険会社が治療費を支払うために被害者の症状や治療に関する医療照会を行い、医院が被害者の同意を得て、その回答を保険会社に交付します。この医院の保険会社への回答書について、交通事故被害者が医院と保険会社に開示を求め、いずれも拒否されたため個人情報保護法28条に基づく開示義務違反を理由に各自金80万円の損害賠償請求を求めるとの珍しい事案があります。

○これについて個人情報保護法28条に基づく開示義務違反はないとした令和2年3月6日静岡地裁判決(自保ジャーナル2074号168頁)関連部分を紹介します。

個人情報保護法第28条(開示)
 本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データの開示を請求することができる。
2 個人情報取扱事業者は、前項の規定による請求を受けたときは、本人に対し、政令で定める方法により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない。ただし、開示することにより次の各号のいずれかに該当する場合は、その全部又は一部を開示しないことができる。
一 本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
二 当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
三 他の法令に違反することとなる場合
3 個人情報取扱事業者は、第1項の規定による請求に係る保有個人データの全部又は一部について開示しない旨の決定をしたとき又は当該保有個人データが存在しないときは、本人に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。
4 他の法令の規定により、本人に対し第2項本文に規定する方法に相当する方法により当該本人が識別される保有個人データの全部又は一部を開示することとされている場合には、当該全部又は一部の保有個人データについては、第1項及び第2項の規定は、適用しない。


○判決は個人情報保護法には違反しないとしましたが、被告医院が,原告の本件回答書の開示の求めを拒否したことは,診療契約に付随する信義則上の開示義務に違反したものとして,原告に対する債務不履行に当たり,かつ,不法行為を構成するというべきであるとして、5万円と弁護士費用5000円の支払を命じています。

*********************************************

主   文
1 被告医院は,原告に対し,5万5000円及びこれに対する平成30年1月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告医院に対するその余の請求及び被告損保に対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告と被告損保との間で生じたものは原告の負担とし,原告と被告医院との間で生じたものはこれを15分し,その1を被告医院の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は主文第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求の趣旨

 被告らは,原告に対し,各自80万円及びこれに対する平成30年1月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
1 原告は,平成29年2月17日発生の交通事故(以下「本件交通事故」という。)により傷害を負い,被告医院の運営する医院(以下,同医院を「c医院」という。)に通院した。被告損保(本件交通事故の加害者が加入する任意保険の保険者)は,同年4月頃,原告の同意を得て,被告医院に対し,原告の病状や治療等に関する医療照会を行い(以下「本件照会」という。),被告医院は,その回答書(以下「本件回答書」という。別紙1(略))を作成して被告損保に交付し,その写しを保管した。原告は,被告らに対し,本件回答書ないしその写し(以下,その写しを含めて「本件回答書」ともいう。)の開示を求めたが(以下「本件開示請求」という。),被告らは,いずれもこれを拒否した。

 本件は,原告が,本件回答書について,被告らには,個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」又は単に「法」という。)28条に基づく開示義務があったほか,被告損保には信義則上の開示義務が,被告医院には診療契約に付随する信義則上の開示義務が,それぞれあったにも関わらず,いずれも正当な理由なく本件開示請求を拒否したため,精神的苦痛を被ったとして,被告損保に対し,不法行為に基づき,被告医院に対し,債務不履行又は不法行為に基づき(選択的請求),各自損害金80万円(慰謝料60万円,弁護士費用相当損害金20万円)及びこれに対する平成30年1月26日(不法行為後である訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を原告に支払うよう求めるのに対し、被告らが,いずれも争う事案である。

 なお,原告は,本件訴訟提起時は,本件訴えにおいて,上記各請求とともに,被告らに対し,それぞれ本件回答書を原告に開示するよう求めていたが,被告医院が本件回答書の写しを書証として提出したことを理由として,平成30年6月18日,上記各開示請求に係る訴えを取り下げた。

2 前提事実

         (中略)

第三 当裁判所の判断
1 (争点1)個人情報保護法28条に基づく開示義務違反について

(1)被告損保について

         (中略)

したがって,本件回答書に係る原告の個人情報は,「個人情報を含む情報の集合物であって,特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの」を構成するとも,「これに含まれる個人情報を一定の規則に従って整理することにより特定の個人情報を容易に検索することができるように体系的に構成した情報の集合物であって,目次,索引その他検索を容易にするためのものを有するもの」を構成するとも認められないから,「個人データ」に該当しない。

エ 以上によれば,原告の上記イの主張は採用することができないから,本件回答書の「保有個人データ」該当性を検討するまでもなく,被告損保において,本件回答書について,原告に対する法28条に基づく開示義務違反があったとは認められない。

(2)被告医院について

         (中略)

それ故,本件回答書は,証人Fの上記供述のとおり,診療録とは別に,他の自賠責保険関係書類とともに時系列で綴ってあるものと認められるところ,その管理状態に照らせば,「個人情報を含む情報の集合物であって,特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの」を構成するとも,「これに含まれる個人情報を一定の規則に従って整理することにより特定の個人情報を容易に検索することができるように体系的に構成した情報の集合物であって,目次,索引その他検索を容易にするためのものを有するもの」を構成するとも認められないから,法2条6項の「個人データ」には該当しない。

ウ 以上によれば,原告の上記アの主張は採用することができないから,本件回答書の「保有個人データ」該当性を検討するまでもなく,被告医院において,本件回答書について,原告に対し,法28条に基づく開示義務違反があったとは認められない。

2 (争点2)信義則上の開示義務違反について
(被告損保関係)

         (中略)


エ 上記アないしウに照らせば,被告損保において,原告から本件回答書の開示を求められた場合に,原則としてこれを開示すべき信義則上の義務があるとはいえず,また,開示拒否の理由等を説明すべき信義則上の義務があるともいえないのであって,被告医院が開示に同意していたとしても,これを原告に開示すべき信義則上の義務を生じさせることにはならないというべきである。

(3)以上によれば,原告の上記(1)の主張は採用することができないから,被告損保において,信義則上,本件回答書について,原告に対する開示義務があったとはいえない。

3 (争点3)診療契約に付随する信義則上の開示義務違反について(被告医院関係)
(1)
ア 原告は,被告医院が,患者である原告に対して診療契約上の報告・説明義務を負うから,これに基づき,原告の求めに応じて診療記録を開示すべき義務がある旨主張する。

イ しかし,原告が,信義則上の開示義務の発生根拠として挙げる,厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」及び日本医師会の「診療情報の提供に関する指針」が,医療機関に開示義務を課しているとしても,その違反が,直ちに不法行為法上の違法を生じさせるとはいえない。また,本件回答書は,前記2(2)のとおり,原告の診療のために作成されたものでも,原告の求めに応じて作成されたものでもなく,原告も,自らの治療に関する決定をするためではなく,本件交通事故に係る損害賠償請求のために本件回答書の開示を求めたものである。そうすると,本件回答書は,原告との診療契約に基づいて作成されたとはいい難いから,被告医院が原告に対する診療契約上の報告・説明義務を負うことをもって,直ちに本件回答書開示義務が生ずるということはできない。

ウ 以上によれば,原告の上記アの主張は採用することができない。

(2)
ア 次に,原告は,被告医院において,原告代理人のE弁護士に対し,電話で原告本人に意思確認することを条件として本件回答書の開示に応じることを約束したところ,原告に電話で意思確認をしたのに,開示を拒否したから,信義則上の開示義務違反がある旨主張する。

イ 検討するに,前提事実(5)のとおり,要旨,次の各事実が認められる。
(ア)E弁護士は,平成29年10月7日付けで,被告医院に対し,本件回答書の写しの交付,本件回答書の写しがない場合は本件同意書の交付を求める書面及び原告の委任状を送付した。
(イ)被告医院は,同月9日頃,E弁護士に対し,本件同意書の作成及び本件回答書の写しの交付に要する費用を記載し,原告本人から直接電話をもらい口頭の回答で済めば費用がかからずに済むかもしれないので,原告本人から電話をするよう求める旨の書面を送付した。
(ウ)その後も,被告医院は,E弁護士に対し,確認したいことがあるため,原告本人から電話をするよう求める内容の書面を送付し,E弁護士との電話でも,原告本人から電話連絡をするよう求めた。
(エ)被告医院事務担当のFは,同年12月2日,原告方に電話をかけたが,不在であった。原告は,被告医院に電話をかけ,Fに対し,E弁護士を依頼していること,依頼している書類を早く出してもらいたいことを述べた。
(オ)被告医院は,同月中旬頃,e弁護士会に対し,弁護士照会に応じられるのは,カルテの写しと画像データであり,本件回答書と本件同意書は原本が被告損保にあるので,被告損保に依頼いただきたく,被告医院では用意できない旨を書面で回答した。
(カ)被告医院は,同月18日,E弁護士に対し,電話で,本件回答書写しについては,原本のある被告損保から開示を受けてほしい,被告医院から出すことはしない旨述べた。
(キ)被告医院は,本件回答書の写しを本件訴訟の書証として提出するため,平成30年4月5日頃,これを原告に直送した。

ウ 上記イ(ア)ないし(ウ)の各事実によれば,被告医院は,電話により原告の意思確認ができたことを条件として,本件同意書の作成ないし本件回答書の写しの交付をすることを了承していたものと認められ,この了承は,原告との診療契約関係を前提としてなされたものと評価できる。そうすると,被告医院は,電話により原告の意思確認ができた場合には,原告に対し,本件同意書の作成ないし本件回答書の写しの交付をすべき診療契約に付随する信義則上の義務を負ったというべきである。

エ しかし,被告医院は,上記イ(エ)ないし(カ)のとおり,平成29年12月2日,電話により,原告がE弁護士を依頼していること及び依頼している書類を早く出してもらいたいとの意思を確認し,原告本人に対する電話での意思確認ができたにも関わらず,本件回答書と本件同意書は原本が被告損保にあるので,被告損保に依頼してほしい,被告医院が出すことはしないなどとして,原告に対する本件同意書の作成ないし本件回答書の写しの交付を拒否したというのである。これは,原告に対する本件回答書の開示義務に違反したものとして,その債務不履行に当たるとともに不法行為を構成すると評価すべきである。

(3)
ア これに対し,被告医院は,原告本人との電話により,原告が本件回答書の開示を求める意思を確認することはできなかった旨主張し,証人Fはこれに沿う供述をする。

イ しかし,証人Fが証言するところは,原告がE弁護士を依頼したとの言葉を聞くことはできなかったというに過ぎず,原告がE弁護士を依頼していること,E弁護士の要求が原告の意思に基づくものであること自体は,会話の文脈から確認できたのであるから,同証言により,上記(2)エの認定は左右されず,被告医院の上記アの主張は採用することができない。

(4)
ア さらに,被告医院は,被告損保の開示拒否を認識しておらず,原告が本件回答書の開示を必要とする理由を把握していなかった旨主張し,証人Fは,これに沿う供述をする。

イ しかし,被告医院は,本件回答書開示を拒否しただけではなく,被告損保への開示請求に必要な本件同意書作成も拒否している。このことに照らせば,これらの拒否が,被告損保の開示拒否を認識していなかったためとは考え難いから,被告医院の上記アの主張は,本件回答書の開示を拒否する正当な理由とはいえず,上記(2)の判断を左右するものではない。

(5)以上によれば,被告医院が,原告の本件回答書の開示の求めを拒否したことは,診療契約に付随する信義則上の開示義務に違反したものとして,原告に対する債務不履行に当たり,かつ,不法行為を構成するというべきである(なお,本件同意書の作成拒否についても同様にいうことができる。)

4 (争点4)損害額
(1)原告は,被告医院開示拒否の経緯から,患者の個人情報に対する権利を理解せず,開示請求への悪感情を募らせて開示を拒否したと推認でき,違法の程度は大きく,開示拒否による精神的苦痛を慰謝するには60万円を,弁護士費用相当損害額は20万円を下らない旨主張する。

(2)前提事実(5)によれば,被告医院は,本件回答書の開示及び本件同意書の作成について,電話による本人の意思確認の条件付きで,費用まで具体的に示して了承していたのに,電話で原告本人の意思確認をした後には,原本を保有する被告損保に開示を求めるべきなどと当初述べていなかった理由により本件回答書の開示及び本件同意書の作成を拒否したことが認められる。

被告医院がそのような不合理かつ不誠実な対応をしたのは,原告代理人と被告医院の開示拒否に係る交渉経緯に照らせば,原告が主張するとおり,原告ないしE弁護士に対する悪感情が影響した可能性も否定できない。他方で,原告代理人のE弁護士は,弁護士が代理人である場合には相手方は本人と直接応対すべきではないという自らの考えに基づき,被告医院が求めた電話による原告への本人の意思確認の要請に頑として応じなかったばかりか,被告医院に対し,本件回答書の写しは原告の個人情報であり被告医院はこれを開示する義務があるなどと必ずしも正確とはいえないことを述べたり,また,対応がない場合は法的手続によらざるを得ない旨を記載した書面を送付したり,d医療安全支援センターに被告医院が開示しないことの苦情の申出をするなどいささか強硬な手段をとっており,そのような原告代理人の交渉方法が,被告医院の上記不誠実な対応を生む一要因となった側面があるとの評価も可能である。

(3)上記(2)の事情に加え,本件回答書の開示ないし本件同意書の作成がなされなかったことにより,原告が本件交通事故訴訟を提起するための検討が滞った可能性が否定できないことに照らせば,被告医院が,本件訴訟において,本件回答書を書証として提出したことにより,これを開示したといえることを踏まえても,被告医院の開示拒否による原告の精神的苦痛を慰謝する額として5万円,本件訴訟提起に係る弁護士費用相当損害額(不法行為に基づく損害賠償請求に限る。)を5000円と認めるのが相当である(なお,予備的請求に基づく損害額も同額である。)

5 よって,原告の被告らに対する各請求は,被告医院に対し,不法行為に基づき,損害金5万5000円及びこれに対する平成30年1月26日(不法行為後である訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を原告に支払うよう求める限度で理由があるから,その限度で認容し,原告の被告医院に対するその余の請求及び被告損保に対する請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
静岡地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官 増田吉則 裁判官 丹下将克 裁判官 澤口舜
以上:6,933文字

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック

(注)このフォームはホームページ感想用です。
交通事故無料相談ご希望の方は、「交通事故相談フォーム」に記入してお申込み下さい。


 


旧TOPホーム > 交通事故 > 交通事故重要判例 > 交通事故被害治療照会回答は個人情報に該当しないとした地裁判決紹介