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会社従業員死傷交通事故企業損害を一部認めた地裁判決紹介

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令和 2年 8月15日(土):初稿
○会社の従業員が交通事故に遭って働けなくなり、その結果、会社が被った損害は企業損害(間接損害)と呼ばれ、加害者が間接被害者に損害を与える目的で加害行為を行った場合や個人会社で一定の要件を満たす場合といった特段の事情がない限りは、原則として交通事故との因果関係は認められないとして、賠償責任は認められません。

○被告会社の従業員である被告Y1が運転する大型貨物自動車が、高速道路において、トンネル照明設備更新工事に伴う交通規制を行っていた原告会社の車列に突っ込み、原告の車両を損壊し、原告の従業員のうち、1名を死亡、1名を重傷、3名を傷害の被害に遭わせました。

○この事故について、原告が、本件事故の現場での警備業務の提供等が不可能になり、得られるはずの利益(原告が本件事故当時受注していた本件事故の現場を含む3件の高速道路警備業務の継続により得られる請負代金報酬の5割)を失ったと主張して、被告Y1に対しては不法行為責任に基づき、被告会社に対しては使用者責任に基づき、4160万円の損害賠償金(遅延損害金を含む)の連帯支払を求めました。

○これに対し、相当因果関係のある原告の損害について、高速道路警備業務を請け負っていた企業が、一定の中断期間をおいても、死傷事故の現場での高速道路警備業務をおよそ行うことができなくなり、契約期間全部につき利益喪失が生じるといったことは、交通事故の加害者においては、一般に予見可能な損害とは認めがたいとしながら、本件事故から合意解除までの2箇月間で原告請負報酬の利益を損害とみとめて、原告の請求一部500万円認容した平成31年3月26日京都地裁判決(判時2423号89頁)関連部分を紹介します。

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主   文
1 被告らは、原告に対し、連帯して、500万円及びこれに対する平成26年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを8分し、その1を被告らの連帯負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請

 被告らは、原告に対し、連帯して、4160万0896円及びこれに対する平成26年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、被告会社の従業員である被告Y1が運転する大型貨物自動車が、平成26年10月16日、名神高速道路において、トンネル照明設備更新工事に伴う交通規制を行っていた原告の車列に突っ込み、原告の車両を損壊し、原告の従業員のうち、1名を死亡、1名を重傷、3名を傷害の被害に遭わせた事故(以下「本件事故」という。)について、原告が、本件事故の現場での警備業務の提供等が不可能になり、得られるはずの利益(原告が本件事故当時受注していた本件事故の現場を含む3件の高速道路警備業務の継続により得られる請負代金報酬の5割)を失ったと主張して、被告Y1に対しては不法行為責任に基づき、被告会社に対しては使用者責任に基づき、損害賠償金(本件事故の日からの民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む。)の連帯支払を求めた事案である。


         (中略)

第3 争点に対する判断
1 認定事実

 前記前提事実、証拠《略》及び弁論の全趣旨によれば、判断の前提となる事実は、以下のとおりである。
(1)高速道路警備業務
 高速道路警備業務とは、高速道路で行われる工事についての交通誘導・交通規制の業務であり、工事場所の作業員・工事用車両及び一般車両の安全な誘導を行うための警備業務であるが、高速道路上に工事業者が入れるスペースを確保するために高速道路本線の車線規制を行う点に特徴がある。

 高速道路の本線を規制するには、一般に、5人の警備員が必要であり、これに加えて、「この先工事中」などの標識を掲げる後尾警戒車を配備する必要があり、後尾警戒車には1台につき2名の作業員を乗せる必要があるから(何台必要かは規制内容による。)、その合計員数で高速道路の車線規制をすることになる。警備員になるには、法定の新任教育を受講する必要があり、その後、一般道での警備業務に慣れてから、高速道路警備業務を担当するようになることが多い。また、高速道路の規制においては、交通誘導警備業務検定の2級検定資格者を入れる必要があり、高速道路会社と適正に無線連絡ができる人員の確保も求められる。

 大まかな手順としては、〔1〕高速道路会社との協議で決定した箇所に、「この先工事中」などの標識を掲げる後尾警戒車を配置し、配置後、管制センター等に無線で配置完了報告を行う(発報連絡)、〔2〕高速道路会社は、車線規制開始前に交通量を計測し、交通規制が可能と判断できる状況になった場合に、無線で規制開始の指示を行う、〔3〕警備会社は、規制現場に規制の標識を立てる工事を行い(立標)、その後、ターンして規制現場に戻り、本線規制を開始する、〔4〕本線規制は、事故を誘発しないように走行車線を緩やかに縮めていくために、矢印板を適切な距離で斜めに置いておくことで、車線規制をはっていく(テーパー)、〔5〕本線規制が完成すると工事業者を規制範囲に乗り込ませ、工事作業が始まる、〔6〕当日の工事作業が終了すると、規制の撤去作業を行い、これらを定まった規制時間内に終了させるといったことが必要となる。

 信号機がなく、完全な通行止めを実施できず、高速で車両が走行し続ける高速道路上で、安全確実に車線を規制するには、特有のノウハウが必要であり、細かな手順を定める高速道路会社との間で適切な連携が必要となる。

         (中略)


2 争点について
(1)相当因果関係のある原告の損害について

 前記前提事実及び前記認定事実によれば、
〔1〕原告は、本件事故当時、本件事故現場で、P3ら従業員5名を使用して、Q2から請け負っていた高速道路警備業務を行っていたこと、
〔2〕被告Y1は、進路前方で高速道路警備業務がされているにも関わらず、進路前方を見ないで走行し、約9・2メートル手前に至って工事のための車線規制を認識したが、急制動の措置を講じる間もなく被告車をそのまま直進走行させ、本件事故を惹起したこと、
〔3〕本件事故により原告が借り受けていた原告標識車、原告が所有していた原告資材車が全損したこと、
〔4〕本件事故により本件事故現場にいたP3ら原告従業員5名全員が死傷したこと、
〔5〕そのため、本件事故現場でのQ2の本体工事及び原告の高速道路警備業務が中断したこと、
〔6〕原告とQ2は、本件事故現場での工事を中断したまま、平成26年12月15日、本件契約について合意解除をしたこと、
〔7〕その後、Q2は、他の警備会社に高速道路警備業務を依頼し、本件事故現場での作業が再開されたこと
が認められるから、以上の事実関係のもとでは、原告が本件契約に基づく高速道路警備業務を本件事故から合意解除までの2箇月間にわたって実施できなかったことによる利益の喪失については、本件事故との間に相当因果関係があるものと認められる。

 そして、
〔1〕原告は、本件契約により、平成26年8月20日(本件契約の作業開始日)から同年9月20日までの間の作業に関し、Q2から455万2761円(高速・燃料代といった実費を除いた額は397万6830円)の支払を受けたこと、
〔2〕Q2は、合意解除時に、契約額5065万2000円(税込み)から1113万1907円を差し引いた3952万0093円(税込み)について減工事の注文書を作成しており、同年8月20日から同年10月16日までの間の作業について、全体として1113万1907円の支払が原告にされたことが認められるから、
本件事故がなければ、控え目に見ても、原告は本件事故から合意解除までの2箇月間で請負報酬(ただし高速・燃料代といった実費を除いた額)として1000万円をQ2から取得できたものと推認できる。その上で、証拠《略》及び弁論の全趣旨によれば、原告の本件契約での利益率は5割と認めるのが相当であるから、結局、本件事故と相当因果関係のある原告の損害額は500万円と認めることができる。
 他方で、原告主張の損害のうち、上記金額を超える部分については、本件全証拠によっても本件事故との間に相当因果関係を認めることはできない。

 以上の認定判断に反する原告及び被告らの主張は、いずれも採用しない。以下補足する。

(2)被告らの主張について
 被告らは、大要、原告は、交通事故の間接被害者としての企業損害の賠償を求めているにすぎず、請求は認められない、加害者が間接被害者に損害を与える目的で加害行為を行った場合や個人会社で一定の要件を満たす場合といった特段の事情がない限りは、それらは予見可能な損害ではなく、賠償の対象とならず、これが判例実務である旨を主張している。

 しかしながら、被告らが指摘する昭和43年判決は、間接被害者であっても損害賠償請求が認められる事例の一つとして個人会社の場合を挙げたものであって、このような事例以外の事例における企業損害の損害賠償請求を否定したものではないと解される。

 また、被告らが指摘する昭和54年判決は、医薬品販売業者の従業員が交通事故により負傷して、営業に従事することができなくなったため、販売業者が加害者に対して、民法709条に基づき、これによる売上減少(ひいては利益の減少)を損害とする損害賠償を請求した事案において、交通事故の加害者においては、一般にそれら事業上の損害は、通常予見可能な損害とは認めがたいとの判断がされた裁判例である。

 これに対し、本件は、企業が請負業務の履行中に、雇用していた従業員と保有していた車両に対して、それらを進路前方に認識しながら制動措置を講じられなかった自動車が衝突してきたという事案であり、従業員と保有車両を侵害されることで請負契約の履行自体に関しても侵害を受けた企業が、加害者に対して、当該請負業務の停止に伴う事業損害を請求している事案であって、全く事案を異にしている。

 前記のとおり、被告Y1は、高速道路の規制がされていることを認識し、その作業車両に対し、大型のトラックをもって時速約90ないし100キロメートルの高速で衝突していったのであるから、被告Y1においては、原告標識車、原告資材車に乗っていた作業員4名が負傷し、原告標識車と原告資材車の間で作業していた作業員1名が両車両に挟まれて死亡し、原告が所有ないし借り受けた車両が損傷するに至るとの結果は十分に予見可能であり、その結果、本件事故現場での工事ないし高速道路警備業務が2箇月間にわたって中断されることも予見することができるものというべきであって、中断期間における高速道路警備業者の利益喪失は、本件事故と相当因果関係のある損害ということができる。

 そして、前記の2箇月という期間については、本件事故現場を担当していた責任者(P3)が死亡し、その他に現場にいた4名全員が負傷したこと、死傷事故であるために原因究明と再発防止、円滑な業務再開には相応の期間を要すること、被告らの任意保険会社も原告資材車の代車費用2箇月分を原告に支払っていること(前記前提事実(4))を踏まえても、相当な期間と認められ、2箇月間が不相当に長いとは評価し得ない。
 以上の認定判断に反する被告らの主張は、採用しない。

(3)原告の主張について
 原告は、本件事故当時原告が受注していた本件事故現場での警備業務を含む3件の高速道路警備業務について、約定の契約期間内に得られた利益全額の喪失が、本件事故と相当因果関係のある損害であるなどを主張し、その理由として、大要、高速道路警備業務の特殊性、その警備員の養成の困難さ、従業員P3らの重要性、非代替性などを指摘する。

ア Q2との本件契約について
 この点、前記1(6)のとおり、本件事故現場での高速道路警備業務は、原告とQ2が本件契約を解除することを合意したことで終了しているのであるから、合意解除後の契約残期間の利益の喪失を被告Y1に請求するためには、合意解除時に原告は本件契約について本件事故により履行不能に陥っていたなどの特段の事情があることが必要であると解される。

 しかしながら、前記のとおり、原告は15億円を超える売上げを有する警備会社であり、本件事故現場以外の本件事故当時に作業をしていた高速道路警備は継続できたというのであるから、高速道路警備業務の特殊性(前記1(1))等を最大限考慮しても、本件全証拠によっても、原告の本件事故現場での高速道路警備業務の履行が、本件事故から2箇月が経過した時点でも、契約に関する諸事情や取引上の社会通念に照らして、事実上不可能になっていたとまでいえるかは疑問が残るといわざるを得ず、原告が心理的な抵抗感等から契約を辞退した可能性も否定しきれない。

 加えて、高速道路警備業務を請け負っていた企業が、一定の中断期間をおいても、死傷事故の現場での高速道路警備業務をおよそ行うことができなくなり、契約期間全部につき利益喪失が生じるといったことは、交通事故の加害者においては、一般に予見可能な損害とは認めがたいし、本件全証拠によっても、予見可能との証明には至っていない。

イ Q3、Q4との契約について
 また、原告は、Q3との高速道路警備業務の契約、Q4との高速道路警備業務の契約についても、本件事故後合意解除をしているが、その利益の喪失を被告Y1に請求するためには、前記のとおり、合意解除時に原告が各契約について履行不能に陥っていたなどの特段の事情や被告Y1における予見可能性が必要なところ、前記アで述べたのと同様に、本件全証拠によってもこれらを肯定できない。

ウ まとめ
 以上によれば、前記(1)の認定判断に反する原告の主張は、採用できない。なお、原告の企業としての存在(組織)及びその活動という法律上保護された利益に対して直接の侵害行為を行ったとの法的主張については、仮にその主張が認められたとしても、通常は、その組織及び活動は一定期間後に回復するものと評価されるべきであって、前記2箇月間の中断期間の損害を超える損害の発生については、本件全証拠によっても相当因果関係を肯定できないといわざるを得ない。

3 結語
 以上に認定したところによれば、原告の請求は、主文の限度で理由があり、その余の請求は排斥を免れない。(裁判官 大野祐輔)
以上:5,972文字

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