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事故日から判決まで14年間の遅延損害金について判断した判例紹介

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令和 1年 9月 4日(水):初稿
○交通事故の損害賠償金は、事故日から年5%の割合による遅延損害金が発生し、事故日から解決までの時間がかかるとこの遅延損害金の額が結構な金額になります。平成16年の事故で判決が平成30年7月で、被告側で、原告が後遺障害等級に固執し,被害者請求にて異議申立てを繰り返すなどしたことで,徒に長期間が経過したためであるから,遅延損害金に対して50パーセントの過失相殺を主張した事案についての判断した平成30年7月10日大阪地裁判決(交民51巻第4号)を紹介します。

○判決で認められた金額が364万円ですが、事故日平成16年5月から判決日平成30年7月まで14年かかっていますので、大雑把には0.05×14=0.7で、346万円の7割相当額255万円が損害金になります。この案件で気になるのは14級の損害金全体526万円から既払金195万円をそのまま差し引いた364万円を損害とされていることです。

○既払金は、任意保険会社から120万円,自賠責保険会社から75万円が支払われたとありますが、任意保険会社からの120万円、自賠責保険金75万円いずれも事故日支払われたのではなく、特に自賠責保険金75万円は等級を争ったということで事故日の数年後に支払われている可能性があります。事故日から年5%の遅延損害金が発生していますので、既払金は先ず損害額全体526万円の遅延損害金に充当し残金を元本に充当する計算方式をとれば既払金控除額は、100万円程度で済んだ可能性もあります。そうすると元本は464万円になりこれに遅延損害金7割相当額325万円が加わりますので、実際回収額は相当増加します。

○判決は、被告の遅延損害金50%過失相殺の主張に対しては、「自賠責保険の後遺障害等級認定に不服のある原告が異議を申し立てることが,原告の過失になるとは考えられないし,被告は,支払うべき損害金を供託したり,より早期に債務不存在確認請求訴訟を提起したりする(なお,被告が債務不存在確認請求本訴事件を提起したのは,平成28年4月18日である。)ことも可能であったことからすると,被告の主張は採用することができない。」として退けました。当然の結論です。

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主  文
1 被告は,原告に対し,364万1271円及びこれに対する平成16年5月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを25分し,その3を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

 被告は,原告に対し,2862万2124円及びこれに対する平成16年5月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は,被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)が,前方で停止中の訴外車両に追突し,さらに同車が前方で停止中の原告運転の普通乗用自動車(以下「原告車」という。)に追突した事故(以下「本件事故」という。)に関し,原告が,被告に対し,民法709条に基づき,損害金2862万2124円及びこれに対する本件事故日である平成16年5月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 なお,被告が原告に対し,本件事故に基づく損害賠償債務が170万0066円を超えては存在しないことの確認を求めた本訴は,取下げにより終了した。
2 前提事実
 各項目の末尾に証拠等の記載のないものは,争いのない事実である。なお,枝番のある書証で個別に枝番を掲げていないものは,全ての枝番を含む趣旨である(以下同じ)。
(1) 本件事故の概要
ア 日時 平成16年5月14日午後7時50分頃
イ 場所 伊丹市〈以下省略〉先路上
ウ 関係車両
(ア) 原告車:原告が運転する普通乗用自動車(神戸○○○せ○○○)
(イ) 被告車:被告が運転する普通乗用自動車(神戸○○○ふ○○○)
エ 事故態様 上記場所付近の交差点において,被告車が,前方で赤信号のため停止中の訴外車両に追突し,さらに同車が前方で停止中の原告車に追突した。

         (中略)
(被告の主張)

         (中略)


キ 遅延損害金につき,本件で原告の反訴提起までに長期間を要したのは,原告が後遺障害等級に固執し,被害者請求にて異議申立てを繰り返すなどしたことで,徒に長期間が経過したためであるから,過失のある債権者にも損害を公平に分担すべきという過失相殺制度の趣旨に鑑み,遅延損害金に対して過失相殺されるのが適切である。したがって,被告は,遅延損害金に対して50パーセントの過失相殺を主張する。

第3 争点に対する判断
1 争点(1)(後遺障害の程度)について

(1) 原告は,本件事故により,胸郭出口症候群の傷害を負い,これによる頸部・肩部から上肢にかけての痛み・放散痛,痺れの症状が,12級13号の後遺障害に該当する旨を主張する。

         (中略)

(4) 以上によれば,原告の上記(1)の主張は採用することができず,本件事故と相当因果関係のある原告の後遺障害は,本件事故の態様,頸椎捻挫による頸部痛等の症状の内容・程度,治療経過等に鑑み,自賠責保険で認定された頸肩部痛の神経症状による14級10号にとどまるものと認められる。

2 争点(2)(損害額)について
 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件事故により原告が被った損害は,以下のとおりと認められる。
(1) 治療費等 82万4103円
 相当治療期間につき争いがあるが,原告の症状の内容・程度,治療経過,特に大村整形外科における診断内容(前記2(2)ウ),被告の主張その他諸事情を考慮の上,本件事故と相当因果関係のある治療期間は,本件事故から約1年後であり,大村整形外科の最終通院日である平成17年5月6日までと認めるのが相当である。
 そうすると,証拠により認められる同日までの治療費等として,以下のとおり合計82万4103円を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。なお,リラクゼーションを目的とするハングルースの施術費については,本件事故と相当因果関係のある治療費とは認められない。
 ア みやそう病院 3万2404円
 治療費2万9254円(甲2の14頁)+診断書代3150円(乙17)
 イ 大村整形外科 77万8179円
 治療費77万2179円(乙4)+診断書代6000円(乙4,18,弁論の全趣旨)
 ウ 牧病院 1万2110円(乙5の1ないし3)
 エ サラエ薬局 1410円(乙19の1)
 オ 合計 82万4103円

(2) 交通費 9万1820円
 ア みやそう病院 2320円(弁論の全趣旨)
 イ 大村整形外科 8万4400円(弁論の全趣旨)
 ウ 牧病院 5100円(弁論の全趣旨)
 (200円+180円+270円+200円)×2×3日(乙5の1ないし3)=5100円
 エ 合計 9万1820円

(3) 休業損害 140万0880円
 証拠(乙31,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件事故の半年ほど前に開業したパン屋の経営及びソフトウェア開発の仕事を行いながら,会社員として勤務する夫と同居する主婦として家事労働にも従事していたことが認められるところ,原告は,本件事故により負った傷害により通院を余儀なくされるなどしたことで,パン屋の仕事は一切できず,家事労働にも支障が生じたことが認められる。そこで,原告の休業損害は,基礎収入を平成16年女性学歴計全年齢賃金センサスの350万2200円とし,相当治療期間1年間につき,本件事故後初めの4箇月間につき60パーセント,次の4箇月間につき40パーセント,残りの4箇月間につき20パーセントの労働能力が制限されたものとして,140万0880円と認めるのが相当である。

(4) 後遺障害逸失利益 74万3444円
 原告の後遺障害は,上記2のとおり,神経症状による14級10号と認められるところ,原告の後遺障害逸失利益は,労働能力喪失率を5パーセント,労働能力喪失期間を5年(ライプニッツ係数4.3294)とし,基礎収入を平成17年女性学歴計全年齢賃金センサスの343万4400円として計算した額である74万3444円(=343万4400円×5%×4.3294)と認めるのが相当である。

(5) 傷害慰謝料 110万円
 原告の受傷の内容,程度,通院期間等に照らすと,原告の傷害慰謝料は,同額と認めるのが相当である。

(6) 後遺障害慰謝料 110万円
 原告の後遺障害の内容,程度等に照らすと,原告の後遺障害慰謝料は,同額と認めるのが相当である。

(7) 小計 526万0247円

(8) 既払い金 △195万円

(9) 小計 331万0247円

(10) 弁護士費用 33万1024円
 本件事案の内容,審理経過,認容額等に照らし,原告に生じた弁護士費用のうち同額を,被告の不法行為と相当因果関係のある損害として認めるのが相当である。

(11) 合計 364万1271円

3 以上によれば,原告は,被告に対し,民法709条に基づき,364万1271円及びこれに対する本件事故日である平成16年5月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
 なお,被告は,遅延損害金につき,原告が異議申立てを繰り返すなどしたことで反訴提起までに長期間を要したことをもって,50パーセントの過失相殺をすべきと主張するが,自賠責保険の後遺障害等級認定に不服のある原告が異議を申し立てることが,原告の過失になるとは考えられないし,被告は,支払うべき損害金を供託したり,より早期に債務不存在確認請求訴訟を提起したりする(なお,被告が債務不存在確認請求本訴事件を提起したのは,平成28年4月18日である。)ことも可能であったことからすると,被告の主張は採用することができない。

4 よって,原告の請求は,主文の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。なお,被告が求める仮執行免脱宣言は,相当でないからこれを付さないこととする。
 大阪地方裁判所第15民事部 (裁判官 山﨑隆介)
以上:4,232文字

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