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交通事故と外傷性頚髄症との因果関係を認めた地裁判決紹介2

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令和 1年 7月18日(木):初稿
○「交通事故と外傷性頚髄症との因果関係を認めた地裁判決紹介1」の続きで、外傷後頚髄症が問題になった事案で、平成20年1月7日の事故で、平成21年4月2日後遺障害診断で外傷後頚髄症と診断されるも自賠責からは否定され、平成28年に到り再度同様の診断書に基づき損害賠償請求をしたところ、消滅時効成立を理由に請求を棄却した平成30年6月6日東京地裁判決(自保ジャーナル2028号87頁)関連部分を紹介します。

○同判決は、「原告は,歩行中に被告運転の自動車に衝突されるという交通事故(本件事故)によって外傷後頚髄症ないし中心性頚髄損傷(外傷性頚髄損傷)を受傷し」と交通事故と外傷後頚髄症の因果関係を認める如く認定していますが、事故から8年経過しての請求について消滅時効の成立を認めて請求を棄却しました。

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主  文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成20年1月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,歩行中に被告運転の普通貨物自動車に衝突された交通事故(以下「本件事故」という。)によって中心性頚髄損傷を受傷し,後遺障害等級第12級13号に該当する後遺障害が残存したなどと主張して,被告に対し,民法709条及び自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条に基づき,損害賠償金4287万1353円の一部として1000万円及びこれに対する不法行為日である本件事故発生日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(認定根拠は各項末尾に記載する。)
(1) 以下の交通事故(本件事故)が発生した。 (甲1,弁論の全趣旨)
ア 日時 平成20年1月7日午後3時25分頃

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 原告の傷病及び症状固定日
(1) 前提事実(前提事実(1),同(4),同(5)),証拠(甲2,3の1・2,甲5ないし8の11,乙1,3,4)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,歩行中に被告運転の自動車に衝突されるという交通事故(本件事故)によって外傷後頚髄症ないし中心性頚髄損傷(外傷性頚髄損傷)を受傷し,平成20年1月7日(事故当日)から平成21年2月26日までa大学病院脳神経外科において入通院治療を受けたものの,左上・下肢脱力,左手巧緻運動障害,左上・下肢痺れ,つまづきやすい,めまい,階段おりにくい,後頚部痛の各症状(以下「本件残存症状」という。)を残し,同日をもって症状固定したこと(後遺障害診断日は平成21年4月2日)が認められる。

(2) これに対し,原告は,原告の残存症状の症状固定日は平成28年11月21日であると主張し,これに沿う横浜市東部病院整形外科の医師が同年12月19日にした後遺障害診断がある(前提事実(9),甲2)。
 しかし,前提事実(4),同(8)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成21年2月26日にa大学病院脳神経外科に通院してから平成28年11月21日に横浜市東部病院整形外科に通院するまで,本件残存症状の治療ないし経過観察等のために医療機関に通院したことはないことが認められるから,横浜市東部病院整形外科の医師が平成28年12月19日にした後遺障害診断は,7年以上にも及ぶ通院空白期間というべき上記期間中の原告の本件残存症状の症状経過ないし推移等を客観的に把握した上でなされたものとは認めがたい。

 また,平成28年12月19日になされた後遺障害診断における症状固定日以外の診断内容をみると,傷病名は中心性頚髄損傷(外傷性頚髄損傷),他覚的所見は左握力低下,左上肢・下肢の腱反射亢進,病的反射陽性等,残存症状は左上肢・下肢の知覚障害(痺れ),歩行時につまづきやすく,階段昇降やや難,後頚部痛ありというものであり,これらは平成21年4月2日にa大学病院脳神経外科の医師がした後遺障害診断の診断内容(前提事実(5))とほぼ共通している。

 そうであるにもかかわらず,横浜市東部病院整形外科の医師は,原告の残存症状の症状固定日が平成21年2月26日ではなく,平成28年11月21日であると診断した医学的理由ないし根拠を何ら明らかにしていない。これらによれば,横浜市東部病院整形外科の医師が原告の残存症状の症状固定日を同日であると診断したことをもって,直ちに本件残存症状の症状固定日が同日であるとは認められず,その他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 したがって,原告の残存症状の症状固定日が平成28年11月21日であるとの原告の上記主張は採用することができない。

2 消滅時効の成否
 事案の内容等に鑑みて,その余の争点に対する判断に先立ち,消滅時効の成否について判断する。
(1) 民法724条にいう「損害及び加害者を知った時」とは,被害者において,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害及び加害者を知った時を意味し,同条にいう被害者が損害を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解するのが相当である(最高裁平成14年(受)第1355号同16年12月24日第二小法廷判決参照)。

 これを本件についてみると,前記認定のとおり,原告は,歩行中に被告運転の自動車に衝突されるという交通事故(本件事故)によって外傷後頚髄症ないし中心性頚髄損傷(外傷性頚髄損傷)を受傷し,平成20年1月7日から平成21年2月26日までa大学病院脳神経外科において入通院治療を受けたものの,平成21年4月2日において,原告が本件事故により受傷した外傷後頚髄症は,左上・下肢脱力,左手巧緻運動障害,左上・下肢痺れ,つまづきやすい,めまい,階段おりにくい,後頚部痛の各症状(本件残存症状)を残して平成21年2月26日に症状固定したとの後遺障害診断を受けた。

 そうすると,原告は,遅くとも上記後遺障害診断を受けた平成21年4月2日には,後遺障害である本件残存症状の存在を現実に認識し,加害者に対する損害賠償をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害の発生を知ったというべきである。
 したがって,原告の本件損害賠償請求権の消滅時効は,遅くとも平成21年4月2日から進行すると解されるから,被告が自認するように,平成22年3月25日に被告側がした賠償額提示(前提事実(7))を時効中断事由としての承認(民法147条3号)とみたとしても,本件訴訟の提起日である平成29年12月23日(前提事実(10))には原告の本件損害賠償請求権について3年の消滅時効期間が経過していることは明らかであって,被告が同請求権について消滅時効を援用したこと(前提事実(10))によって,同請求権は時効により消滅したというべきである。


(2)
ア これに対し,原告は,消滅時効の起算点は損害を正確に覚知した時と解すべきであることを前提とした上で,原告は平成21年2月26日に症状固定診断を一度受けてはいるものの,原告の傷害について同日の段階では判明していなかった脊髄損傷の存在が明らかになったことによって原告が真の損害を覚知し得るに至ったと考えるべきであるから,原告が損害を正確に覚知した時は症状固定日である平成28年11月21日であって,消滅時効の起算点は同日であると主張する。

イ しかし,消滅時効の起算点である被害者が損害を知った時をいかに解すべきかについては,前記(1)で説示したとおりであり,また,損害の認識については必ずしも損害の程度又は数額を了知する必要はないと解するのが相当であって(大審院大正8年(オ)第830号同9年3月10日第三民事部判決・民録26輯280頁参照),原告の上記主張はこれと異なる見解を前提としており,採用することができない。

ウ 次に,原告の上記アの主張のうち平成21年2月26日には判明していなかった脊髄損傷の存在が平成28年11月21日になって初めて明らかになったとする点を検討する。
 この点,前提事実(前提事実(5),同(6)),証拠(甲5ないし7,乙1ないし6)及び弁論の全趣旨によれば,原告の外傷後脊髄症ないし中心性頚髄損傷(外傷性頚髄損傷)による本件残存症状については,平成21年4月2日の後遺障害診断では,左上肢・下肢の腱反射亢進,病的反射等といった他覚的所見は得られていたものの,当時の頚部MRI画像(平成20年1月23日及び同年6月9日撮影)上,本件事故に起因する外傷性の異常所見や明らかな脊髄,神経根への圧迫所見は認められず,自賠法上の後遺障害等級認定手続においてもこれと同様の画像所見を理由として後遺障害には該当しないと判断されたこと,これに対し,平成28年12月19日の後遺障害診断では,上記同様の他覚的所見が得られたことに加え,同月12日撮影の頚部MRIでは,C3/4レベルの脊髄内に比較的境界明瞭なT2延長域があり,不可逆的な脊髄症を認めると診断され,この診断医の他にも,a大学病院放射線科の医師2名が同様の画像所見を示していることが認められる。

 しかし,原告が,平成21年4月2日に,本件事故により受傷した外傷後頚髄症は本件残存症状を残して平成21年2月26日に症状固定したとの後遺障害診断を受けたこと,原告が,遅くとも上記後遺障害診断を受けた平成21年4月2日には,後遺障害である本件残存症状の存在を現実に認識し,加害者に対する損害賠償をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害の発生を知ったというべきであることは,これまで認定,説示したとおりである。

 平成21年4月2日の後遺障害診断がなされた後に,その当時には通常予想し得なかったような新たな後遺障害としての症状が顕在化したような場合であればともかく,上記のように,原告の外傷後脊髄症ないし中心性頚髄損傷(外傷性頚髄損傷)による本件残存症状について,これを裏付けるような画像所見が平成21年4月2日の後遺障害診断後に得られたとしても,同日には被告に対する請求が可能であった原告の本件損害賠償請求権のうち後遺障害損害分の損害の立証が容易になったというにすぎない。そうであれば,これをもって直ちに原告が平成21年4月2日の後遺障害診断時に損害を知ったといえないということはできず,消滅時効は遅くとも同日から進行するという前記(1)の判断を何ら左右しない。

エ したがって,いずれにせよ,消滅時効の起算点が平成28年11月21日であるとの原告の上記主張は採用することができない。

(3) また,原告は,実際に放射線診断専門医として稼働することが可能であると確定した平成27年9月1日まではどの程度の減収があるかを通常人において推測することはできなかったから,原告は同日になって初めて損害を知ったというべきであると主張する。
 しかし,前記(2)イで説示したとおり,損害の認識については必ずしも損害の程度又は数額を了知する必要はないと解するのが相当である。そして,原告が主張するような事情があったとしても,これにより平成21年4月2日には被告に対する請求が可能であった原告の本件損害賠償請求権には,後遺障害損害分の逸失利益の算定における基礎収入の主張立証に一定の支障があった,つまり事実上の障害があったというにすぎないから,これをもって消滅時効が遅くとも同日から進行することを妨げるものではない。

 したがって,消滅時効の起算点が平成27年9月1日であるとの原告の上記主張は採用することができない。

3 結論
 よって,その余の争点について判断するまでもなく原告の本訴請求には理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第27部
 (裁判官 吉岡透)
以上:4,903文字

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