平成30年10月 6日(土):初稿 |
○追突事故でのむち打ち症後遺障害は、治療期間が1年近く、且つ、治療日数が100日近くなると、自賠責保険では、「局部に神経症状を残すもの」として、自賠法施行令別表第二第14級9号該当を認める場合が多くあります。後遺障害等級第14級の労働能力喪失率は5%ですが、骨折等外傷もなく、且つ、他覚所見のない神経症状後遺障害の場合、症状は自覚症状だけとの理由で、労働能力喪失期間は、任意保険会社基準では3年、裁判になってもせいぜい5年が普通です。 ○「原告の後遺障害は、外傷性の異常所見は認められない神経症状であることに鑑みれば、労働能力喪失率は5%とする」とし、労働能力喪失期間については、「原告の美容師という職業…櫛やハサミを自在に使えず、意識していないと道具を落としてしまうような状況であること等に鑑みれば、外傷性の異常所見は認められない神経症状ではあるが、労働能力喪失期間は、原告の主張するとおり、10年とする」として、事故前の実収入を基礎収入に10年間5%の労働能力喪失を認定した平成29年6月29日横浜地裁判決(自保ジャーナル・第2005号)の該当部分を紹介します。 ********************************************* 主 文 1 被告は、原告に対し、415万0264円及びこれに対する平成26年8月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを20分し、その11を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第一 請求 1 被告は、原告に対し、772万6993円及びこれに対する平成26年8月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 仮執行宣言 第二 事案の概要 本件は、平成26年8月18日、神奈川県横浜市内において被告の運転する自家用普通乗用自動車が、原告の運転する自家用普通乗用自動車に追突するという交通事故が発生したところ、原告が、被告に対し、民法709条に基づき、人的損害及び弁護士費用並びに交通事故発生日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 (中略) 第三 当裁判所の判断 1 原告の本件事故による損害は次のとおりであると認められる。 (中略) (3) 後遺障害逸失利益 121万6168円 ア 後遺障害の内容程度について 原告は、自賠責保険に対する事前認定結果を踏まえ、自賠責保険会社から頸部受傷後の頸部痛、頭痛、頸部~右上肢のシビレ、右手脱力感等の症状について、「局部に神経症状を残すもの」として、自賠法施行令別表第二第14級9号に該当する、右肩関節の機能障害については、自賠責保険における後遺障害には該当しないとの判断の通知を受け、異議申立てをしたが、その判断は変わらなかったところ、本件事故に起因する骨折等の外傷性の異常所見は認められないこと、受傷当初の診断書等には右肩部の傷病名は認められないこと等に鑑みれば、前記判断は相当であり、原告の本件事故による後遺障害は自賠法施行令別表第二第14級9号に該当すると認められる。 イ 労働能力喪失率について 原告は、繊細に手先を利用して稼働する美容師であること等から14%とすべきであると主張するが、手先を利用する職業は、パソコンのキーボード操作を必須とする職業など他にも多数ある上、家事従事者であっても包丁の使用等手先の利用する作業が必要となること、原告の後遺障害は、外傷性の異常所見は認められない神経症状であることに鑑みれば、労働能力喪失率は5%とするのが相当である。 ウ 労働能力喪失期間について 原告の美容師という職業、平成29年2月21日の証拠(略)の陳述書作成時点での原告の症状は、櫛やハサミを自在に使えず、意識していないと道具を落としてしまうような状況であること等に鑑みれば、外傷性の異常所見は認められない神経症状ではあるが、労働能力喪失期間は、原告の主張するとおり、10年とするのが相当である。 エ 基礎収入について 基礎収入は事故前年の平成25年の収入315万円とするのが相当である。 オ そうすると、後遺障害逸失利益は次のとおり、121万6168円(円未満四捨五入)となる。 315万円×0.05×7.7217=121万6167円 (4) 慰謝料 200万6000円 ア 傷害慰謝料 90万6000円 原告の本件事故による受傷内容、治療期間を考慮すれば、90万6000円とするのが相当である。 イ 後遺障害慰謝料 110万円 原告に自賠法施行令別表第二第14級9号に該当する後遺障害が残ったことに鑑みれば、116万円とするのが相当である。 (5) (1)ないし(4)の合計額 377万2968円 以上:1,997文字
|