○自転車同士の接触転倒事故について、右図の通り、追い抜き後右折の被告自転車(加害自転車)に接触され転倒した原告自転車(被害自転車)に過失は認められないとした平成29年1月27日名古屋地裁判決(自保ジャーナル・第1996号)の過失認定部分を紹介します。
○「いきなりかなりの勢いで,左から原告の左大腿付近に追突されて,その衝撃で左の方へ宙を飛ぶようにして転倒した」とする原告の主張する事故態様を「原告自転車と被告自転車のいずれにも,原告の前記供述と整合する損傷は認められない。また,原告が左から追突されて,左の方へ宙を飛ぶようにして転倒するのも通常考え難い。したがって,原告の前記主張及び供述は,いずれも採用できない。」としながら、原告の過失をゼロと評価しています。
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主 文
1 被告は,原告に対し,232万2486円及びこれに対する平成25年7月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
被告は,原告に対し,1220万9029円及びこれに対する平成25年7月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は,原告運転の自転車(以下「原告自転車」という。)と被告運転の自転車(以下「被告自転車」という。)との間で発生した交通事故について,原告が,被告に対し,民法709条に基づき,人的損害に係る損害金1220万9029円及びこれに対する平成25年7月17日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1)交通事故の発生
次のとおり,交通事故が発生した(以下「本件事故」という。)。
〔1〕日時 平成25年7月17日午後4時15分頃
〔2〕場所 愛知県犬山市<以下略>路線上(その他市道)
〔3〕態様 原告自転車は,交通事故に遭遇して転倒した。
(2)治療経過等
原告は,治療のため,a病院,b整形外科等に通院した。原告は,本件事故当時,c株式会社(以下「c会社」という。)にパート勤務していた。
2 争点及び当事者の主張
(1)事故態様・過失割合
(原告の主張)
原告は,原告自転車に乗って見通しの良い直線道路を左端に寄って走行していたところ,原告の背後から被告が被告自転車に乗って原告と同方向に走行してきて原告自転車を追い越そうとして,原告自転車に接触して,原告自転車を転倒させた。本件事故は,見通しの良い直線道路での被告による無理な追い越しの際の不注意による接触・転倒事故であり,被告の著しい前方・左方等の不注視が原因であるから,被告に10割の責任がある。
(被告の主張)
被告は,被告自転車を運転して原告自転車を左側から追越してその先の道路を右折する際,右折しても大丈夫と思って原告自転車の動向を確認することなく右折したところ,予想以上に原告自転車の進行が速く,被告自転車が原告自転車の進行をふさぐ格好になり,その結果,原告自転車は被告自転車の右側側面に衝突あるいは衝突寸前の状況で進行方向左側に転倒し,それに伴い原告も左側に転倒した。なお,自転車が衝突したとしても,各自転車には衝突の痕跡が明確には残らない程度の軽微なものであった。
本件事故は,被告が原告の進路を塞ぐような結果になる右折をし,また,想定に反してスムーズな右折ができなかったことから,原告自転車が被告自転車の右側面に衝突したのである。したがって,被告に非があるが,側面衝突の程度が軽微で,被告自転車が左側に転倒あるいは,ずれたりすることがない程度の軽い衝撃で,また,衝突痕もはっきりしない程度の衝撃であったから,原告自身も前方を注視して走行し,被告の動静を注視していれば,急ブレーキなどの処置によって,本件事故を回避することができ,あるいは転倒を避け得た。原告が前方を注視していなかったことは,原告が本件事故発生時の状況を的確に供述できないことから明らかである。この点から,原告には少なくとも3割の過失がある。
(中略)
第三 争点に対する判断
1 事故態様・過失割合
(1)認定事実
当事者間に争いのない事実に加え,証拠によれば,次の事実が認められる。
ア 事故態様
被告は,被告自転車を運転し,原告自転車を進行方向左側から追い抜き,さらに,その先の交差点を鋭角に右折するため,少し直進して,右折先の道路の真ん中辺りで深くハンドルを切って右折を開始したが,右折先の家の塀に当たりそうになったため,さらに深くハンドルを切ったところ,被告自転車が原告自転車の進行を塞ぐ格好になり,その結果,原告自転車は,その前輪が被告自転車の後輪の右側側面に衝突して,原告及び原告自転車は進行方向左側に転倒した。その際,被告は,転倒することなく,被告自転車の後輪部分が進行方向左にずれることもなく,そのまま停止した(被告本人)。
イ 各自転車の損傷状況
被告自転車は,本件事故により,目立った損傷は生じなかった(被告本人)。原告自転車は,本件事故により,左ハンドルのグリップ先端部分や籠の左側部分に擦過による軽微な損傷が生じ,後部荷台が右に少し歪んだ(被告本人)。
(2)原告の主張に対する判断
以上の認定に対し,原告は,背後から被告が被告自転車に乗って原告と同方向に走行してきて原告自転車を追い越そうとして,原告自転車に接触して,原告自転車を転倒させた旨主張し,原告本人も,いきなりかなりの勢いで,左から原告の左大腿付近に追突されて,その衝撃で左の方へ宙を飛ぶようにして転倒したと供述する。しかし,原告自転車と被告自転車のいずれにも,原告の前記供述と整合する損傷は認められない。また,原告が左から追突されて,左の方へ宙を飛ぶようにして転倒するのも通常考え難い。したがって,原告の前記主張及び供述は,いずれも採用できない。
(3)過失割合
被告は,側面衝突の程度が軽微で,被告自転車が左側に転倒あるいは,ずれたりすることがない程度の軽い衝撃で,衝突痕もはっきりしない程度の衝撃であったから,原告自身も前方を注視して走行し,被告の動静を注視していれば,急ブレーキなどの処置によって,本件事故を回避することができ,あるいは転倒を避け得たもので,原告には少なくとも3割の過失がある旨主張する。
しかし,前記認定のとおり,被告は,原告自転車を追い抜き,さらに,その先の交差点を鋭角に右折するため,少し直進して,右折先の道路の真ん中辺りで深くハンドルを切って右折を開始したが,右折先の家の塀に当たりそうになったため,さらに深くハンドルを切ったところ,被告自転車が原告自転車の進行を塞ぐ格好になったことが認められる。したがって,被告は,原告自転車の進路前方でハンドル操作を誤り,進路を妨害することとなったものであるから,本件事故発生の主要な原因は,被告にあるものというべきである。一方,原告自転車の速度,追い抜き地点から右折開始地点までの正確な距離等は明らかではなく,原告がわき見運転をするなどの過失があったことを認めるに足りる証拠はない(前記のとおり,原告は,事故の状況を正確に供述できていないが,衝突時の瞬間的な出来事であり,そのことから直ちに前方不注視であったとはいえない。)。したがって,被告の前記主張は採用できない。
(後略)
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