平成29年 3月 9日(木):初稿 |
○「交通事故後の外傷性てんかんと後遺障害等級・逸失利益に関する判例紹介」の続きで、6歳女児が9級相当の外傷性てんかんを発症する事案につき、抗てんかん剤を服用するうえで日常生活に支障もなく、将来的に後遺症の制約があるとしても、それに順応した進学及び職業選択の可能性があることから逸失利益が否認しましたが、後遺障害慰謝料として、昭和62年当時の後遺障害等級第9級の赤本慰謝料基準が540万円のところその2倍近い1000万円を認めた昭和62年7月24日東京地裁判決(交民集20巻4号990頁)の判決理由部分を紹介します。 *************************************** 二 そこで次に、原告の傷害及び治療経過について判断する。 請求原因3(原告の傷害及び治療経過)の事実のうち、原告が、本件事故による受傷により、昭和57年8月28日から同年10月14日までの48日間仙台市立病院脳神経外科に入院し、同月15日から昭和58年9月5日までの間の13日間同病院において通院治療を受けたことは原告と被告国及び被告同和とのいずれの間にも争いがなく、原告が、本件事故により、急性硬膜下血腫、脳挫傷、頭蓋骨骨折の各傷害を負い、右各傷害のため、前記経過の入通院を経て昭和58年9月7日外傷性てんかんの後遺障害を残して症状が固定したこと、原告の右後遺障害は、これまでにてんかん発作の発現はないものの、脳波上明らかにてんかん性棘波が認められるほか、右大脳半球に軽度の萎縮が認められるものであり、自賠責障害等級のうち9級に該当することは原告と被告国との間に争いがない。 そして(証拠略)を総合すると、原告は、本件事故により、急性硬膜下血腫、脳挫傷、頭蓋骨骨折の各傷害を負い、昭和57年8月28日から同年10月14日までの48日間仙台市立病院脳神経外科に入院し、同月15日から昭和58年9月5日までの間の13日間同病院において通院治療を受けたが、同月7日外傷性てんかんの後遺障害を残して症状が固定し、それ以降も現在に至るまで、医師の指示に基づき、年1回の割合で同病院において脳波検査を受けているとともに、毎日3回抗けいれん剤の服用を継続しており、その受取のために月1回の割合で同病院に通院していること、原告の右後遺障害は、これまでにてんかん発作の発現はないものの、脳波検査によっててんかん波の存在が確認されているほか、CTスキャン上も右大脳半球に軽度の萎縮が認められ、平常時にしばしば頭痛と吐気を起こし、また、車酔いが激しく気持ちが悪くなることが多いなどの自覚症状を呈しており、自賠責障害等級のうち9級に該当する旨認定を受けたことがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。 三 進んで、原告の損害について判断する。 1、2 (略) 3 逸失利益 零円 原告の症状が昭和58年9月7日外傷性てんかんの後遺障害を残して固定したこと、原告はその後も毎日3回抗けいれん剤の服用を継続しているが、これが効を秦しこれまでにてんかん発作の発現は抑制されていること、脳波検査によっててんかん波の存在が確認されているほか、CTスキャン上も右大脳半球に軽度の萎縮が認められること、平常時にしばしば頭痛と吐気を起こし、また、車酔いが激しく気持ちが悪くなることが多いなどの自覚症状を呈していることは前記認定のとおりであるところ、前掲甲1及び8号証、原告法定代理人甲野花子の尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、仙台市立病院を退院した当時には目の焦点が定まらず物が二重に見えるなどの後遺症状があったものの、昭和61年12月現在では右後遺症状は軽快しつつあること、昭和62年1月6日原告法定代理人押山和子が原告の脳波検査の結果を聞きに仙台市立病院を訪れた際、原告の治療を担当する医師から、現在のところ原告の経過は良好で神経学的には異常がないが、将来についてはいつどんな発作が起きるか判らないので年1回の脳波検査は続ける必要があること、原告の後遺障害が将来にどのような影響があるか、成人した場合に就労が可能かどうか、就労が可能としても何らかの悪影響があるのかについては、右のような原告の現在の経過にかんがみると診断書は書けない旨を告げられたこと、本件事故後、原告は、事故以前に比べ饒舌になった傾向が見受けられるものの、他の精神活動においては著しい変化はなく、本を読むなどの日常活動も以前と変わりない程度に可能で、小学校における成績も同学年の生徒と変わるところがないこと、運動能力については、医師から、激しい運動は避け、入浴は誰かと同伴で行い、海やプールに入るときは必ず監視を付ける旨指示されているが、小学校における体操には過激な運動以外は他の生徒と同様に参加していることが認められ、右認定事実を履すに足りる証拠はない。 ところで、原告には右認定のとおりの後遺障害が残存し、このまま症状が変化しなければ、今後の進学・就職に影響を及ぼし、そのために将来服することができる労務の種類が相当程度制約されることも予想される。しかしながら、本件事故当時の原告の年齢、これまでに部分的ながら症状の軽快がみられること及び現在のところ原告の経過は良好で神経学的には異常がないことなどに照らすと、原告の現在の症状が更に改善される可能性もありうること、仮に、現在の症状が持続するとしても、これまでの経過から考えて、抗けいれん剤の服用を継続している限りてんかんの発作が起きることはなく、ほぼ通常人と同様の日常生活を送ることができるものと予測されること、原告のような児童の場合には、今後の教育、訓練により、前記後遺症による制約があるとしても、それに順応する可能性並びに進学及び職業選択の可能性が比較的大きいと考えられることなどを併せ考慮すると、原告の前記後遺障害が、原告が就労可能年齢に達した後においてもなおその労働能力を相当程度失わしめるものとは断じ難く、したがって、前記認定事実をもってしては、本件事故により原告が将来の就労による得べかりし利益を喪失したものと推認するに足りないといわざるを得ない。そこで、右事実は、原告に対する慰謝料を算定する際に考慮することとする。 4 慰藉料 合計1200万円 (一) 傷害慰藉料 200万円 前記認定の本件事故の態様、原告の受けた傷害の部位・程度、治療経過及び入・通院期間など諸般の事情を併せ考慮すると、原告が本件事故によつて被つた傷害に対する症状固定時までの慰藉料は、200万円とするのが相当と認められる。 (二) 後遺症慰藉料 1000万円 前記認定の原告の後遺障害の内容・程度、とりわけ、原告は、今後とも相当長期間にわたつて脳波検査を受け、薬物を服用し続ける必要性があるうえ、可能性は低いとはいうものの、なおてんかん発作の発現を恐れながら将来とも過ごさなければならないことが予想されることなどの事情を併せ考慮すると、原告が本件事故によつて被つた後遺障害に対する慰藉料は、1000万円とするのが相当と認められる。 以上:2,902文字
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