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平成29年 1月24日(火):初稿 |
○「好意(無償)同乗のみの理由では減額されないのが原則-裁判例紹介2」の続きで、今回は、好意同乗減額がなされた典型例で、亡Xは,自ら交通事故発生の危険性が高い状況を招来し,そのような状況を認識した上で同乗したものと認められ,また,事故の際,シートベルトを装着せずに,脳挫傷,頭蓋底骨折,等の傷害を被り死亡したのであるから,損害の公平の分担の見地から,民法722条2項を類推適用して、好意同乗減額及びシートベルト装着義務違反を併せて25パーセントの損害の減額を行った平成19年3月30日東京地裁判決(交民40巻2号502頁)の好意同乗主張と判断部分を紹介します。 ******************************************** (被告側主張) 4 被告Y1,被告Y2及び被告Y3の抗弁-好意同乗減額及びシートベルト装着義務違反 亡Aは,B(以下「B」という。)と飲食していた際,自ら被告Y1を呼び出して,いわゆるキャバクラで約4時間もの間一緒に飲酒した後,3人で行き先について話し合った上,被告Y1が飲酒していることを承知しながら,同人が運転する被告Y1車に同乗しているから,自ら積極的に被告Y1の飲酒運転という交通事故発生の危険性が高い状況を作出したものである。また,亡Aは,シートベルトを装着していなかった。以上によれば,損害の公平の分担の見地から,4割の過失相殺を行うべきである。 5 被告Y4及び被告Y5の抗弁-シートベルト装着義務違反 亡Aは,シートベルトを装着せずに被告Y1車に同乗して本件事故に遭遇し,脳挫傷,外傷性くも膜下出血,下顎骨折,左鎖骨骨折,血気胸,腹腔内出血の傷害を負って死亡したものであり,シートベルトを装着していればこのような重篤な傷害は避けられた可能性が高いから,損害の公平な分担の見地から,相当な割合による過失相殺を行うべきである。 (原告側主張) 7 被告らの抗弁(好意同乗減額及びシートベルト装着義務違反)に対する認否 被告らの抗弁(好意同乗減額及びシートベルト装着義務違反)は否認する。 被告Y1は,キャバクラにおいて,グラスに水だけを足して飲んでいる状況であり,事故から4時間後の飲酒検知の結果は呼気1リットル当たり0.05ミリグラムにすぎないから,亡Aは,被告Y1車に同乗するに際し,被告Y1が運転に影響を与えるような量のアルコールを摂取していたとは認識していなかった。仮に本件事故の一因として被告Y1の飲酒運転があげられるとしても,亡Aは,被告Y1に飲酒を勧めるなどの行動をとっていない。また,本件事故の一因として被告Y1の居眠り運転があげられるとしても,亡Aは,本件事故当時眠っており,被告Y1に対して先を急かすなどして危険運転を作出したような状況は存在しない。 仮に亡Aが被告Y1の飲酒を知りつつ同乗したことが損害の減額事由として考慮できるとしても,好意同乗の当事者でない被告Y4との関係では亡Aの過失を観念できないから,好意同乗による減額は,被告Y1及び被告Y2との間で斟酌されるにすぎない。 本件事故により被告Y1車の前部が大破し,原形をとどめていないことからすれば,亡Aがシートベルトを装着していたとしても,同人が死亡していた蓋然性は高い。したがって,被告らの好意同乗減額及びシートベルト装着義務違反の主張には理由がない。 仮にシートベルト装着義務違反が過失相殺事由として考慮できるとしても,道路交通法(以下「道交法」という。)上のシートベルト装着義務の名宛人は同乗車両の運転者の被告Y1であるから,被告Y1との関係では亡Aのシートベルト装着義務違反を過失相殺事由とすることはできず,被告Y4との間で斟酌できるにすぎない。 理由(裁判所の判断) 第4 抗弁(好意同乗減額及びシートベルト装着義務違反)について 1 第1認定の事実によれば,亡Aは,Bとともに自ら被告Y1を呼び出して一緒にキャバクラに赴き,同所で約4時間にわたり被告Y1とともに飲酒した(うち被告Y1の飲酒時間は約2時間30分)上で,被告Y1が運転する車両に同乗しているのであるから,自ら交通事故発生の危険性が高い状況を招来し,そのような状況を認識した上で同乗したものと認められる。また,亡Aは,本件事故の際,シートベルトを装着せずに,脳挫傷,頭蓋底骨折,気脳症,外傷性くも膜下出血,顔面骨骨折,頚髄損傷,顔面挫創,左血気胸,左鎖骨骨折,左大腿骨頚部骨折,腹腔内出血,下顎骨折,左下腿骨折の傷害を被り死亡したのであるから,損害の公平の分担の見地から,民法722条2項の類推適用により,好意同乗減額及びシートベルト装着義務違反を併せて25パーセントの損害の減額を行うのが相当である。 2 これに対して,原告らは,亡Aがシートベルト装着していたとしても同人が死亡していた蓋然性が高い旨主張する。しかしながら,亡Aは,上記の傷害を負って死亡したところ,亡Aがシートベルトを装着していれば,これらの傷害の程度を軽減できた可能性は否定できないから,原告らの上記主張は採用できない。 また,原告らは,シートベルト装着義務の名宛人は同乗車両の運転者の被告Y1であるから,被告Y1との関係ではシートベルト装着義務違反を損害の減額事由とはすることはできない旨主張する。たしかに道交法上のシートベルト装着義務の名宛人は,同乗車両の運転者である被告Y1である(同法71条の3第2項)。しかしながら,助手席同乗者のシートベルト装着義務がすべての道路で法制化されたのは昭和60年であり既に社会に定着していると考えられること,同乗者のシートベルト装着義務は,同乗者の生命,身体を保護するためのものであるから,同乗者が自らの生命,身体を保護するために当然に負うべき義務と考えられ,同義務を怠った同乗者は,自ら交通事故による損害の拡大の危険性が高い状況を作出したといえる。したがって,亡Aのシートベルト装着義務違反は,同乗車両の運転手である被告Y1に対する関係でも損害の減額事由と考えるのが相当である。 以上:2,496文字
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