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県立高校体育祭騎馬戦落馬重大後遺障害損害賠償約2億円認定判例紹介1

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平成27年10月12日(月):初稿
○平成27年9月30日、中学校体育大会組み体操「人間10段ピラミッド」が崩れて生徒の1人が骨折する事故がありました。YouTube動画が配信されています。

大中ピラミッド(大阪府八尾市立の中学校における組体操事故)


○主催者の大阪府の責任が問われる可能性がありますが、平成15年9月、県立高校体育祭騎馬戦で落下して、第5頚椎脱臼骨折及び頚髄損傷の傷害を負い,後遺障害等級1級に該当する第7頚髄節以下完全麻痺の後遺障害を残した生徒とその両親が福岡市に損害賠償を求めた事件の判決が、平成27年3月3日福岡地方裁判所判決(ウエストロー・ジャパン、LLI/DB判例秘書)です。以下、判決全文を複数回に分けて紹介します。

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主  文
1 被告は,原告X1に対し,2億0067万4164円及びこれに対する平成25年8月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,被告に生じた費用の10分の1と原告X1に生じた費用の10分の3を原告X1の負担とし,被告に生じた費用の3分の1と原告X2に生じた費用を原告X2の負担とし,被告に生じた費用の3分の1と原告X3に生じた費用を原告X3の負担とし,その余を被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 被告は,原告X1に対し,2億8053万8754円及びこれに対する平成15年9月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告X2及び原告X3に対し,それぞれ550万円及びこれに対する平成15年9月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,福岡県立a高等学校(以下単に「a高校」という。)の生徒であった原告X1が,平成15年9月7日の体育祭の騎馬戦において落馬して負傷し第7頸椎以下完全麻痺の後遺障害を負い,治療費等合計2億8794万5894円の損害を被ったのは,被告の安全配慮義務違反及び同校の校長らの過失によるものであると主張して,被告に対し,安全配慮義務違反又は国家賠償法1条1項に基づき,うち2億8053万8754円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求するとともに,原告X1の両親である原告X2及び原告X3が,被告に対し,安全配慮義務違反又は国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料及び弁護士費用として各550万円及びこれに対する同日から支払済みまで同割合による金員の支払を請求する事案である。

1 前提事実
 下記の事実は,当裁判所に顕著であり若しくは当事者間に争いがなく,又は掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。
(1) 当事者等
 原告X1は,昭和60年○月○日生まれの男性で,平成13年4月1日から平成16年3月31日までa高校に在籍していた者であり,原告X2は原告X1の父,原告X3は原告X1の母である。
 被告は,a高校を設置管理する地方公共団体である。

(2) 平成15年9月7日の体育祭での事故
a高校は,平成15年9月7日の体育祭において,騎馬戦を実施した。
 原告X1は,同日の騎馬戦(以下「本件騎馬戦」という。)に騎手(他の生徒が組んだ騎馬に乗り,他の騎馬上の生徒と組み合う役割の生徒のことである。以下同様。)として参加し,他の騎手と組み合っていたところ,地面に落下した(以下「本件事故」という。)。

 その際,原告X1は,第5頚椎脱臼骨折及び頚髄損傷の傷害を負い,後遺障害等級1級に該当する第7頚髄節以下完全麻痺の後遺障害が残存した(甲1,2及び乙13)。
 なお,後遺障害の症状固定時期につき下記のとおり争いがある。

(3) 被告による原告X1に対する安全配慮義務及び本件騎馬戦当時のa高校学校長(以下単に「校長」という。)の注意義務
 被告はa高校の設置者として,また校長はその職責により,a高校に在学し被告と特別な社会的接触関係を有していた原告X1に対し,その生命,身体及び健康等を危険から保護するように努める安全配慮義務又は注意義務を負っていたものである。
 本件騎馬戦は,生徒が落馬等により負傷する危険性のある競技であり,かつ校長及び被告の履行補助者である指導担当教諭らにおいてその危険性を予測できたから,それを実施するに当たっての具体的な安全配慮義務ないし注意義務(以下「本件義務」という。)の内容には,以下が含まれる。

ア 本件騎馬戦前の準備段階における義務
(ア) 参加する生徒に対し,騎馬戦における受傷の可能性を周知し,身体の安全を確保できるよう指導を行うとともに,実際に生徒自身が身体の安全を確保できるように事前練習を十分に行わせること。
(イ) 本件騎馬戦の審判員を務める教員に対し,生徒が負傷することのないように適宜のタイミングで対戦を中止し又は騎馬を支えることなど(以下「危険防止措置」という。)ができるように指導して,訓練を実施すること。

イ 本件騎馬戦実施時における義務
 危険防止措置を取ることができるように審判員を配置し,また生徒に負傷の危険が発生した場合には審判員に危険防止措置を取らせること。

(4) 当裁判所に顕著な事実
 原告らは,平成25年7月25日に本件訴えを提起し,訴状は同年8月5日,被告に送達された。
 また,被告は,同年10月15日に原告ら代理人に到達した準備書面により,国家賠償請求権の消滅時効を援用する意思表示をした。

2 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 本件義務違反があったか(争点(1))

ア 原告らの主張
 校長及び指導担当教諭らは,本件義務を履行しなかった。
 すなわち,原告X1は本件騎馬戦前にその危険性を周知され,身体の安全を確保するに足る指導を受け,また十分な練習の機会を与えられたことがない。本件騎馬戦に先立つ平成15年9月4日に行われた騎馬戦に関する講習会では,騎馬戦の大まかなルールが説明されたのみであって,原告X1自身は実際に騎馬を組んで練習していない。
 さらに,原告X1が当該講習のときに自身の騎馬を担当する審判員として顔を合わせたB教員が,本番の最中に原告X1の騎馬を見失うなど,本番当日の審判の配置は整然さを欠くものであって,実際に審判員は危険防止措置を取ることができなかった。

イ 被告の主張
 そもそも,本件義務の具体的な内容は,原告X1を含む生徒は高校生であって,転落時には相手の騎手と組み合っている手を放して頭部を防御するといった判断能力及び危険回避能力を備えていることを前提に考慮するべきである。
 その上で,校長及び指導担当教諭らは,以下のとおり本件義務を履行した。
 すなわち,a高校では,平成14年までの騎馬戦を大将落とし(各騎馬が各々競技場を自由に動き相手チームの騎馬と組み合って騎手を落馬させていき,最終的に相手チームの大将である騎手を落馬させたチームの勝利となるルールのことである。以下同様。)のルールで行っていたが,騎馬が競技場に入り乱れるため,生徒の安全確保に難があった。そのため,本件騎馬戦は一騎打ち(組み合う騎馬をあらかじめ1対1対応するよう指定しておき,相手の騎馬に敗北条件を充足させて勝利した騎馬の数が多いチームを勝ちとするルールである。以下同様。)の方法で実施するとともに,殴る蹴る等の暴力行為を行った騎馬を即失格とするルールを設け,騎手にはラグビーのヘッドキャップの着用を義務づけ,さらに組み合う騎馬1組ごとに1人の審判員を配置して危険防止措置を取ることができるようにするなど,本件騎馬戦は生徒の安全に十分に配慮して行われた。

 また,本件騎馬戦に先立つ平成15年9月4日,騎馬戦に出場する全生徒及び審判を務める予定の教師等を多目的ホールに集め,本件騎馬戦のルールや危険性について説明する講習会を行った。危険性を説明するに当たっては,一部の生徒に騎馬を組ませて具体的な事例を示した。その後,グラウンドで騎馬の入退場や整列隊形,審判の担当する騎馬や審判の位置確認を行った。

 さらに,同月5日,審判を務める予定の教師等をグラウンドに集め,再度騎馬戦のルールや安全確保の確認を行った。その後,体育祭のリハーサルにおいて,騎馬戦に出場する全生徒,審判を務める予定の教師等が参加して,対戦相手となる騎馬や,審判の位置等の確認を行った。

 本件騎馬戦の本番において,審判の配置に混乱はなかった。原告X1の騎馬を担当した審判はC講師であって,B教員ではない。C講師は,原告X1と相手騎手の体が傾いている側で身構え,いずれかの騎手の頭が騎馬の腰より下に来たらすぐ試合を止めるとともに,騎手が落下した場合には受け止められるよう準備していたが,突然両騎手の倒れる向きが反対側に変わって落下するという瞬間的な出来事に対応できなかったものである。

(2) 原告X2及び原告X3との関係で被告が安全配慮義務を負うか(争点(2))
ア 原告らの主張
 被告は,原告X2及び原告X3との関係でも安全配慮義務を負う。
イ 被告の主張
 原告X1と異なり,原告X2及び原告X3は被告と特別な社会的接触関係に入ったわけではないから,被告は原告X2及び原告X3との関係では安全配慮義務を負わない。

(3) 損害の発生及びその額(争点(3))
ア 原告らの主張
 原告らは,本件事故により,以下の損害を被った(以下,特に記載が無ければそれは原告X1の損害である)。
(ア) 治療関係費 498万1838円
 内訳は,原告X1が平成16年4月15日から1月ほど入院した,中華人民共和国の北京市の朝陽病院での手術費及び入院費が250万円。平成16年1月から同年8月までの福岡リハビリテーション病院での入院治療費が248万1838円である。
(イ) 褥瘡防止のための薬品等代金 10万2585円
 平成16年7月26日から同年12月末までの期間の分である。
(ウ) 平成21年末頃以降の治療費 255万2500円
 内訳は,平成21年末頃に博多駅前かしわぎクリニックで受けた幹細胞移植手術の費用が215万2500円。平成26年3月31日に支出したリハビリ器具「HALFIT」を使用してのリハビリ費用が40万円である。
(エ) 付添費用 2868万円
 本件事故日である平成15年9月7日から平成25年7月6日までの3585日間,日額8000円。
(オ) 将来介護費 1億0297万5333円
 共に昭和27年生まれの原告X2及び原告X3が67歳に達するまでは日額8000円,その後は職業付添人による介護を前提に日額1万8000円で計算するべきである。
(カ) 入院雑費 49万5000円
 原告X1の入院期間11月(330日)に日額1500円を乗じる。
(キ) 紙おむつ代 78万1200円
 原告X1は,平成15年9月7日から平成25年7月6日までの10年9月(558週)間,紙おむつの使用を余儀なくされた。原告X1は,1袋30個入り700円の紙おむつを週に2袋程度使用する。
(ク) 通院交通費,宿泊費等 83万2545円
 内訳は,平成16年4月に朝陽病院で手術を受けるに当たり,通訳及び移動及び宿泊場所等の手配の費用としてコーディネーターに支払った50万円,北京までの航空機代30万2715円並びに原告X1が入院中の福岡リハビリテーション病院から福岡空港までの往復のケアタクシー代2万9830円である。
(ケ) 装具,器具等購入費 186万6267円
 内訳は,平成18年3月2日に購入した家庭用トレッドミルの代金42万円,平成25年11月19日に購入した家庭用トレッドミルの代金19万9500円,平成17年11月24日に購入した車いす代31万5000円,平成16年1月13日に購入した車いす用グローブ代7600円,同年7月頃に購入した介護用ベッド代40万円及び介護用マットレス代5万2920円,同年12月に購入した下肢装具代22万9690円並びに平成20年1月30日に購入した膝装具及び靴型装具代29万4477円である。
(コ) 家屋改造費及び介護用自動車購入費 1064万5905円
 内訳は,平成16年8月の自宅改装費180万円,同年4月の介護用自動車購入費220万円,同年6月の助手席回転シート取付費20万5905円,同年7月の介護用自動車購入費240万円,平成21年9月の介護用自動車購入費404万円である。
(サ) 将来の介護用品,リハビリ器具等購入費 1610万1240円
 原告X1は,介護用自動車や介護用ベッド等の介護用品や,リハビリ器具等の購入及び維持管理に,少なくとも年120万円程度を要している。
 そこで,原告X1の平均余命期間分を,将来の介護用品,リハビリ器具等購入費として損害に算入するべきである。
(シ) 休業損害 2176万1500円
 原告X1が平成16年3月に高校を卒業した後すぐに就職したと仮定した場合,症状固定日である平成23年2月8日までの7年間に,19才の平均年収244万8100円,20ないし24才の平均年収315万5600円の5年分1577万8000円,25才の平均年収353万5400円の合計2176万1500円の休業損害が生じている。
(ス) 後遺障害逸失利益 9109万9981円
 原告X1は,症状固定日である平成23年2月8日に26才であり,このときから原告X1が67才になるまでの41年間,本件事故により労働能力を100パーセント喪失したものである。
 原告X1の基礎収入は,平成23年賃金センサス男性学歴計全年齢平均の年526万7600円である。
(セ) 入通院慰謝料 462万円
 原告X1は,本件事故により11月の入院を余儀なくされ,またその後症状固定日まで80月間,通院及び医師の指示に基づく自宅療養を行った。
(ソ) 後遺障害慰謝料 2800万円
 原告X1は,本件事故により後遺障害等級第1級に該当する,神経系統の機能に著しい障害が残存した。
(タ) 損害の填補 5055万円
 原告X1は,被告から,平成16年11月8日に3370万円,同年12月1日に1685万円の障害見舞金の交付を受け,損害に填補した。
(チ) 弁護士費用 2300万円
(ツ) 慰謝料 原告X2及び原告X3につき,それぞれ500万円
 原告X2及び原告X3は,原告X1が本件事故で負傷したことにより,甚大な精神的苦痛を被った。
(テ) 弁護士費用 原告X2及び原告X3につき,それぞれ50万円

イ 被告の主張
 被告が原告X1に対し障害見舞金を支払った事実は認め争わず,その余は否認し争う。
 原告X1の症状固定日は,平成16年3月31日である。

(4) 過失相殺及び損益相殺(争点(4))
ア 被告の主張
 原告X1は,本件事故当時高校3年生であって十分な判断能力を有し,またスポーツを得意としていた者であるから,地面に落下する際には,相手の騎手の胴にしがみついていた手を放して地面に手をつく等の回避行動を取るべきであったところ,それをとっていない。このことは,原告X1の過失として考慮されるべきであり,その過失割合は5割を下らない。
 また,原告X1は,a高校があいおい損害保険株式会社と締結していたレクレーション保険契約に基づき,平成16年4月15日までに手術,入院保険金として合計120万円,同年9月30日までに後遺障害保険金として400万円の,合計520万円を受領している。また,原告X1は同月10日に福岡県教育委員会から見舞金100万円を受領している。これらは,原告X1の損害を填補するものであるから,原告X1の損害額から控除されるべきである。

イ 原告らの主張
 保険金及び見舞金受領の事実は認め,その余は争う。

(5) 消滅時効(争点(5))
(被告の主張)
 原告X1の症状は,平成16年3月31日に固定しているから,原告らは同日に損害及び加害者を知ったものであり,被告は国家賠償請求権の消滅時効を援用する。
 したがって,原告X1につき仮に安全配慮義務違反に基づく請求が認められるとしても,遅延損害金は被告が本件訴状の送達を受けた日の翌日から発生するに留まるし,原告X2及び原告X3の請求は棄却されるべきである。

(原告らの主張)
 原告X1の症状固定は平成23年2月8日であって,原告らはこのときに損害及び加害者を知ったものである。
 したがって,国家賠償請求権についても消滅時効期間は経過していない。


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