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平成27年 1月23日(金):初稿 |
○「無保険車・人身傷害保険に関する平成20年12月2日名古屋地裁判決紹介1」の続きです。 ****************************************** 2 争点(2)(無保険車傷害保険金請求における弁護士費用請求の可否)について (1) 本件保険約款の無保険車傷害条項1条1項には、被告は、無保険自動車の所有、使用または管理に起因して、被保険者の生命が害されること、または身体が害されその直接の結果として後遺障害が生じることによって被保険者またはその父母、配偶者もしくは子が被る損害(この損害の額は同条項9条に定める損害の額をいう。 )に対して、賠償義務者がある場合に限り、無保険車傷害条項及び一般条項に従い保険金を支払う旨、同条項9条1項には、被告が保険金を支払うべき損害の額は、賠償義務者が被保険者またはその父母、配偶者もしくは子が被った損害に対して法律上負担すべきものと認められる損害賠償責任の額によって定める旨規定されている。これらの条項からすると、被告は原告らが本件事故によって被った損害について、「賠償義務者が被保険者またはその父母、配偶者もしくは子が被った損害に対して法律上負担すべきものと認められる損害賠償責任の額」を無保険車傷害保険の保険金として支払うこととされているから、原告らが無保険車傷害補償保険の保険金請求として弁護士費用を請求できるか否かは、この「賠償義務者が被保険者またはその父母、配偶者もしくは子が被った損害に対して法律上負担すべきものと認められる損害賠償責任の額」に原告らの弁護士費用が含まれるか否かによることになる。そして、不法行為の加害者が、被害者に対して負担する損害賠償責任の範囲は、不法行為と相当因果関係にある損害とされているから、上記「賠償義務者が被保険者またはその父母、配偶者もしくは子が被った損害に対して法律上負担すべきものと認められる損害賠償責任の額」とは、「賠償義務者(加害者)が、賠償責任を負うべき交通事故(不法行為)と相当因果関係にある損害」をいうと解される。 ところで、交通事故の被害者が加害者に対し、自己の権利擁護のため訴えを提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、現在の訴訟が高度に専門化技術化されており、当事者が十分な訴訟活動をするためには、通常弁護士に委任しなければならないことから、その弁護士費用は相当と認められる額の範囲内で、交通事故と相当因果関係にある損害と認められる。しかし、被害者が実際に加害者に対して損害賠償の支払いを求める訴えを提起し、訴訟追行を弁護士に委任していない場合には、弁護士費用は現実に発生しておらず、また、交通事故の加害者に対する損害賠償の支払請求が当然に弁護士に委任してなされるものとも認められないことから、弁護士費用を交通事故と相当因果関係にある損害と認めることはできない。 (2) 本件において、原告らは本件事故の加害者である丙川に対し、損害賠償の支払を求めて訴えを提起し、訴訟追行を弁護士に委任したという事実を認めることはできないのであって、弁護士費用を本件事故と相当因果関係にある損害と認めることはできない。確かに、原告らは本訴訟の追行を弁護士に委任しているが、本訴訟は原告花子が被告との間で締結していた保険契約に基づく保険金の支払を求めるものであり、加害者に対する損害賠償請求とはその性質を異にするものであるから、この弁護士費用を本件事故と相当因果関係にある損害と認めることはできない。 ところで、原告らは、東京高裁平成14年6月26日判決が、弁護士費用が無保険車傷害保険金の支払対象になると判示している旨主張するが、同判決は加害者及び保険会社に請求がなされた事案であり、保険会社の被告のみに請求がなされた本件と事案を異にするため採用することはできない。 3 争点(3)(無保険車傷害保険の保険金請求における遅延損害金の起算日及びその利率)について (1) 遅延損害金の起算日について 証拠(略)によれば、原告花子は、被告に対し、後遺障害等級認定の申請書類を提出し、これに対して、平成17年7月21日、損害保険料率算出機構名古屋自賠責損害調査事務所長が原告花子の後遺障害について自賠法施行令別表1第1級1号と認定し、平成18年2月18日、弁護士岩田修一(以下「弁護士岩田」という。)は被告に対し、本件事故によって原告花子に生じた損害額1億7594万7221円について、保険金を支払うことを求める内容の「通知書」と題する書面を送付し、平成18年3月23日、弁護士岩田は、財団法人交通事故紛争処理センター名古屋支部に対し、被告に対する保険金請求について和解斡旋の申立てを行ったことが認められる。 この点、原告らは、原告花子は、本件事故の直後から、被告に対して本件人身傷害補償保険金の請求・受領を繰り返しており、無保険車傷害保険金についても後遺障害の認定を受けた平成17年7月21日の直後から黙示的にその支払請求をしていたといえるから、同日から30日が経過した日以降の最初の取引日の翌日である同年8月23日から本件保険金の遅延損害金が発生する旨主張する。 しかし、原告花子が本件事故の直後から、被告に対して本件人身傷害補償保険金の請求・受領を繰り返していた事実を認めるに足りる的確な証拠はなく、同事実を認めることはできない。その上で、後遺障害認定を受けた平成17年7月21日の時点において本件保険金について黙示の支払請求がなされていたと認められることができるか検討するに、保険会社は被保険者から保険金の支払請求がなされるとその支払に30日以内に応じなければ遅滞の責任を負うことになるところ、被保険者は、保険会社が被保険者の請求に応じてその請求内容を調査し適正な保険金額を算定して保険金請求に応じることができるように、保険金の内容を具体的に明らかにして請求する必要があるというべきである。そうすると、被告に対し、後遺障害認定の申請書類を提出し、原告花子の後遺障害について後遺障害等級の認定がなされたというだけでは、いまだ被告に対し保険金の内容を具体的に明らかにして請求がなされたと認めることはできないから、この時点において本件保険金の支払請求がなされていたと認めることはできない。ところで、平成18年2月18日に弁護士岩田が被告に宛てて送付した「通知書」(証拠略)には、保険金の請求内容を明らかにした上で、請求保険金額を明示してその支払いを求めている旨の記載があるところ、原告らが、弁護士岩田を代理人として本件保険金の支払請求をしたものと認めることができる。したがって、遅延損害金の起算日は平成18年2月18日から30日経過後の翌日である同年3月21日となる。 (2) 遅延損害金の利率について 無保険車傷害保険は、交通事故における賠償義務者が対人賠償保険等に加入していない等の理由で、被保険者が損害賠償の支払いを受けられなくなる場合に被保険者に対して、「賠償義務者が被保険者またはその父母、配偶者もしくは子が被った損害に対して法律上負担すべきものと認められる損害賠償責任の額」が支払われるものであり、実質的には被保険者が賠償義務者に請求できる損害賠償請求と同視しうるものであるが、無保険車傷害保険の保険金支払債務は保険会社と当該保険の契約者との間で締結された保険契約によって生じる債務であり、賠償義務者が法律上負担すべき損害賠償債務と一致するものではない。無保険車傷害保険の保険金の支払が遅滞に陥るのは請求から30日が経過した後であって、不法行為に基づく遅延損害金の起算点が不法行為日であるのと異なっているのもこのためである。とすれば、無保険車傷害保険の保険金債務は、商人たる保険会社との間に結ばれた保険契約に基づく債務であるから、商行為によって生じた債務(商法514条)ということができ、遅延損害金の利率も年6分というべきである。 ところで、被告は、無保険車傷害保険においては、加害者に対する関係で請求できる以上に被保険者に権利を付与する必要はないから、遅延損害金の利率は年5分にすべきであると主張する。確かに、無保険車傷害保険は実質的には被保険者が賠償義務者に請求できる損害賠償請求と同視しうるものであるから、損害額元本の計算にあっては加害者に対する関係で請求できる以上に被保険者に権利を付与する必要はないと いいうることができる。しかし、支払うべき保険金額が確定した後に保険会社が履行期を徒過して支払を遅滞している場合には、被保険者は保険契約に基づく保険金支払債務の履行遅滞責任を主張すべき正当な権利があるというべきであり、履行遅滞責任の追求についてまで加害者に対する請求の範囲に限られると解すべき理由はない。 さらに、前述のとおり保険金請求の遅延損害金の起算日は請求の日から30日経過後であり、不法行為の日でなく、起算日の違いを考慮すると利率を年5分にする要請はそれほど強いものとはいえない。 したがって、被告の主張を採用することはできない。 4 争点(4)(障害基礎年金の加算部分の損益相殺の可否)について 国民年金法33条の2第1項は、障害基礎年金の額は、受給権者がその権利を取得した当時その者によって生計を維持していたその者の子があるときは、前条(32条)の規定にかかわらず、同条に定める額にその子1人につきそれぞれ7万4900円に改定率を乗じて得た額を加算した額とすると規定し、受給権者にその者によって生計を維持していた子がいる場合には、その子の数に応じて一定の金額を加算して支払う(この加算額を以下「加算部分」、32条に規定の額を以下「基本部分」という。)旨定めている。原告は、この加算部分については、児童扶養手当等に代わって支給されるものであるから損益相殺されない旨主張する。 しかし、同法22条1項は、政府は、傷害若しくは死亡又はこれらの直接の原因となった事故が第3者の行為によって生じた場合において、給付をしたときは、その給付の価額の限度で、受給権者が第3者に対して有する損害賠償の請求権を取得すると規定し、政府は受給権者が加害行為を行った第3者に対して有する損害賠償請求権を代位取得する旨規定している。そして、同条同項は、政府が受給権者に代位する範囲について、基本部分と加算部分を区別していないところ、政府は受給権者に基本部分に加算部分を加えた全額について代位することができると解される。そうすると、障害基礎年金については基本部分に加え加算部分についても受給権者の損害を填補しているというべきである。 また、原告花子の後遺障害による逸失利益の計算にあたっては、原告花子が受け取っていた児童扶養手当等の金額も考慮した上で、基礎収入を平成16年賃金センサス・学歴計女子全年齢平均賃金と定めて計算していることから、障害基礎年金の加算部分を損害額から控除して損益相殺的処理をしても原告花子が実質的に不利益を受けることにもならない。 したがって、障害基礎年金の加算部分についても基本部分と同様に、原告花子の損害額から控除することができると解する。なお、障害基礎年金は傷病によって障害を有するに至った者の収入の減少を補完する趣旨で支給されるものと認められるから、原告花子の損害額のうち、これと同性質を有する休業損害及び後遺障害による逸失利益に限って控除されると解される。 5 争点(5)(無保険車傷害保険の保険金請求における既払いの自賠責保険金及び障害基礎年金の充当方法)について (1) 原告らは、原告花子が受領した自賠責保険金及び障害基礎年金について、それぞれ受領した日までに損害額元本に生じた遅延損害金にまず充当する旨主張する。 (2) そこで検討するに、上記2で説示したとおり、無保険車傷害保険は、賠償義務者(加害者)が、賠償責任を負うべき交通事故(不法行為)と相当因果関係にある損害を保険金支払の対象とするものであるが、これに対する遅延損害金は請求をした日から30日を経過した後に請求できるというように、この損害には事故当日からの遅延損害金は含まれないと解される。このことは、本件保険約款の無保険車傷害条項に明確に記載されているわけではないが、同約款の対人賠償保険に関する賠償責任条項によれば、事故当日からの遅延損害金は、事故による損害とは別枠で支払われるようになっており(賠償責任条項14条1項、2項3号)、遅延損害金は、事故による損害には含まれない取扱いとなっているところ、同じ保険約款上の規定であることからすると、無保険車傷害保険においても、遅延損害金は、事故による損害には含まれないものと解するのが相当である。また、同約款の無保険車傷害条項には、被告の支払う保険金の額は、自賠責保険等によって支払われる金額等を9条の規定により決定される損害の額(上記のとおり、この額は賠償義務者が賠償責任を負うべき交通事故と相当因果関係にある損害と解される。)及び費用から差し引いた額とする旨の規定がある。これらの規定からすると、無保険車傷害保険の支払保険金額の計算に際し、賠償義務者が賠償責任を負うべき交通事故と相当因果関係にある損害から自賠責保険金等によって支払われる金額等を差し引くにあたっては、損害額元本から差し引くことを予定しており、自賠責保険金等が支払われた時点までに生じる賠償義務者が負担すべき遅延損害金から差し引くことは予定していないものと認めることができる。 (3) したがって、原告花子が受領した自賠責保険金及び障害基礎年金については、原告花子の損害額元本から控除すべきであるから、原告らの主張を採用することはできない。なお、被告の保険金支払債務が履行遅滞となった以降に支払われた障害基礎年金についても原告花子の損害額元本から控除されるべきと解されるが、控除される部分も支払時点までは履行遅滞にあったというべきであるから、支払時点までについて遅延損害金は発生するものと解される。 6 自賠責保険金及び障害基礎年金の控除方法並びに遅延損害金の計算 (1) 上記1で計算した原告花子の損害額の小計は1億5463万1534円であり、前提事実及び証拠(平成20年2月19日受付調査嘱託回答、同年8月9日受付調査嘱託回答、(証拠略))によれば、原告花子に次のとおり自賠責保険金及び障害基礎年金が支払われたことが認められる。 ア 自賠責保険金の支払 平成19年4月10日 4,000万円 イ 障害基礎年金の支払(平成17年7月から平成19年12月の支払分については偶数月の15日(同日が土休日の場合にはその直前の平日)に支払われたものと認める。) 平成17年8月15日 20万3616円 同年10月14日 20万3616円 同年12月15日 20万3616円 平成18年2月14日 20万3616円 同年4月15日 20万3308円 同年6月15日 20万3000円 同年8月15日 20万3000円 同年10月13日 20万3000円 同年12月15日 20万3000円 平成19年2月15日 20万3000円 同年4月13日 20万3000円 同年6月15日 20万3000円 同年8月15日 20万3000円 同年10月15日 20万3000円 同年12月14日 20万3000円 平成20年2月15日 20万3000円 同年4月15日 20万3000円 同年6月13日 20万3000円 同年8月15日 20万3000円 なお、被告は口頭弁論終結時において支給されることが確定している金額についても損益相殺されるべきであると主張するが、証拠上給付を支給されることが確定している部分は認められない。 (2) 以上の自賠責保険金及び障害基礎年金を別紙のとおり原告花子の損害額元本から控除すると、原告花子の損害額は1億1077万2378円となり、平成20年8月15日までに生じた確定遅延損害金は1874万0437円となる。 第五 結論 以上によれば、原告花子の請求は、損害額1億1077万2378円と平成20年8月15日までの確定遅延損害金1874万0437円の合計額である1億2951万2815円及び損害額部分である内金1億1077万2378円に対する平成20年8月16日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、原告一郎及び原告春子の請求は、200万円及びこれに対する平成18年3月21日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるからこれを認容し、原告夏子の請求は、100万円及びこれに対する平成18年3月21日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるからこれを認容し、原告らのその余の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。(なお、本件は無保険者傷害条項による支払保険金が人身傷害補償条項による支払保険金を上回る場合であり、本件保険約款により無保険者傷害条項による保険金支払が認められる。) (口頭弁論終結日 平成20年9月30日) 名古屋地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官 徳永幸藏 裁判官 尾崎 康 裁判官 小林健留 以上:7,203文字
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