平成26年10月26日(日):初稿 |
○平成26年10月25日付読売新聞配信の「交通事故訴訟、10年で5倍に…弁護士保険利用」とのニュースを多くの弁護士ブログが取り上げていますが、ちと違和感を感じました。弁護士が扱う交通事故事件が10年前の5倍にも増え、弁護士が報酬額を引き上げるために審理を長引かせているなんて記述は、弁護士が、多重債務事件に続いて金儲けに走っているとの印象づけるように感じます。 ○事業である以上利益追求即ち「金儲け」に走るのは当然のことです。問題は、「金儲け」にこだわる余り、不適当な手段を使う、例えば「無理に審理を長引かせる」、或いは、本来、50しかとれず、この程度で示談すれば簡単に済むことを、無理に100を取れるとして裁判に及び弁護士費用特約での弁護士費用を吊り上げることなどでしょう。 ○「最高裁の調査で判った」との記述ですから、ウソではないでしょうが、ちと疑問を感じて、財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部発行損害賠償算定基準(赤い本)平成26年版下巻1頁から記載されている平成25年9月14日東京地方裁判所民事第27部統括裁判官白石史子氏の講演「最近の東京地裁民事交通訴訟の実情」を確認してみました。 ○これによると東京地裁交通部新受事件数は、平成20年は1400件弱のところ、平成24年は1778件と5年間で30%弱増えていますが、到底、5倍なんて激増には及びません。5倍に増えたのは全国の簡易裁判所だけでの交通事故事件と思われます。簡易裁判所の管轄は140万円以下ですから、おそらく、記事末尾の「被害が軽微な物損事故」についての簡易裁判所での訴訟が増えているものと思われます。 ○「被害が軽微な物損事故」だと簡単に処理できるのではと一般の方は考えると思われますが、実は、この「被害が軽微な物損事故」が、極めて難しい事件で、本気でその実態解明をしようとしたら大変な手間暇がかかり、挙げ句に立証できないと言うのが殆どです。人損事件は加害者側に無過失の立証責任がありますが、物損事故は被害者側に加害者の過失立証責任があるところ、軽微な物損事故は、警察も、当事者間で話し合いをして下さいと言って実況見分などしません。ですから被害者側で現場の実況見分調書等を作成しなければなりません。 ○これが大変な作業です。仮に被害者側主張実況見分調書ができたとしても、それが正しいとする第三者目撃証言等裏付け証拠が必要ですが、殆どの場合これを準備することはできません。従って被害者側の立証ができるかというと殆ど不可能です。ですから私は、軽微な物損事故については立証可能性を吟味して、裁判になっても先ず無理なので、不満があっても話し合いで解決した方が宜しいですとアドバイスするのが殆どです。従って当事務所では、地方裁判所の人身損害賠償事件は特に難しい事件ばかり常に10数件抱えていますが、簡易裁判所での訴訟は、これまで殆ど取り扱ったことがありません。簡易裁判所交通事故事件がいくら増えても当事務所とは全く無縁です。 *************************************** 交通事故訴訟、10年で5倍に…弁護士保険利用 読売新聞 10月25日(土)3時0分配信 交通事故の損害賠償請求訴訟が全国の簡易裁判所で急増し、昨年の提訴件数は10年前の5倍の1万5428件に上ったことが、最高裁の調査でわかった。 任意の自動車保険に弁護士保険を付ける特約が普及し、被害額の少ない物損事故でも弁護士を依頼して訴訟で争うケースが増えたことが原因。弁護士が報酬額を引き上げるために審理を長引かせているとの指摘も出ており、日本弁護士連合会は実態把握に乗り出した。 弁護士保険は2000年、日弁連と損害保険各社が協力して商品化した。事故の当事者が示談や訴訟の対応を弁護士に依頼した場合、その費用が300万円程度まで保険金で賄われる。契約数は12年度で約1978万件。重大事故で保険加入者を保護する目的で導入された側面があるが、被害が軽微な物損事故で使われているのが実態だ。 最終更新:10月25日(土)3時0分 以上:1,684文字
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