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確率的心証論による昭和45年6月29日東京地裁判決全文紹介2

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平成26年 5月23日(金):初稿
○「確率的心証論による昭和45年6月29日東京地裁判決全文紹介1」を続けます。



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被告訴訟代理人は、「請求棄却・訴訟費用原告負担」との判決を求め、事実上の答弁として、
 第一項は認める。ただし、原告の受傷は不知。
 第二項は認める。
 第三項は不知。
 第四項は認める。
 第五項は認める。
 第六項については、昭和43年2月27日現在両下肢の運動障害のため歩行不能・四肢の知覚障害があったことは認めるが、その原因は後記のとおりであり、その余は不知。
 第七項ないし第九項は不知。
 第一〇項は争う。
 第一一項は認める。
 第一二項は不知。
と答え、事故の経過につき

一、加害車の運転手Bは、当日午前8時15分頃、被告会社新宿営業所を出発してから事故時まで約2時間30分の間何の異常もなく発進・停止を繰り返して来たが、本件交差点にさしかかった時、前方に三台の車両が信号待ちで一列に停車していたので、その後方に停車しようとし、ギアを入れてエンジンブレーキのかかった状態で近附き、あと30米のところでブレーキをかけたところ、突然油圧パイプに故障を生じ、ブレーキペタルを踏みなおしたが効かず、左側に回避することも左側進行車両があるためできなかったため、結局本件追突に立ち至ったものである。

二、右の次第であって、事故については運転手Bには過失はなかったし、運行供用者である被告としても日常専門家による整備を怠っていなかったのでやはり過失はなく、構造上の缺陥も機能の障害もなかったのであるから、被告には賠償責任はない。かりにそうでないとしても、右のようなブレーキ系統の故障は予知不能の事態であるから、不可抗力に基づく事故というべきで、賠償責任はない。
と述べ、更に、原告の身体障害につき、

三、原告は頸椎むち打ち損傷を負うたのであるが、通例この傷害は数ヶ月で治癒するのに原告は既に4年余の入院生活をしている。しかしながらその治療経過を見ると、昭和42年3月京都加茂川病院に入院し頸椎前方固定手術を受け、以後歩行能力を増して、同年12月14日一旦退院するに至ったものであるところ、その後12月24日午後9時15分頃、コタツに坐ったままバタンと右後方に倒れ息苦しさを訴え、これが原因で再入院し、現在に至っているのである。この発作はヒステリー発作の疑いがあり、現在の症状は体質的あるいは心因的なものと考えられ、再入院後の損害は本件事故と因果関係がない。

四、かりに、因果関係があるとしても、原告は受傷の初期において頸部安静固定を主治医の指示の下に行うべきであったのに、安易に諸病院を転々としたため適切な治療時期を逸した疑いがあり、これは損害拡大についての過失というべきであるから、損害額算定につきこの過失を斟酌すべきである。

五、かりに右過失が認められないとしても、原告の現症は生来の体質的あるいは心因的なものが加味されているから、通常生ずべき損害の範囲を越えており、この越えた部分については被告には責任がない。

六、なお、原告主張の損害中、過去および将来の収入減については按摩師としての必要経費を控除すべきであり、また将来の収入減については身体そのものの経年性変化、労働能力の減退を考慮すべきである。
と述べた。

 原告訴訟代理人は、右被告主張の抗弁事実を争う、と述べた。
 《証拠関係略》

理   由
一、請求原因第一項中、追突事故の発生については当事者間に争いがない。また、同第二項の事実も当事者間に争いがない。従って、被告は自賠法第3条によるいわゆる運行供用者責任を負うべきものであるところ、被告は、右追突事故がブレーキの油圧パイプの突然の故障による旨主張するのである。しかし、同条但書による免責を主張するためには、単に、運行供用者や運転者が無過失であるのみでなく、車両の構造に缺陥がなく、機能に障害がなかったことも併せて主張立証せられるべきであるのに、被告の主張によれば、事故はブレーキの故障に基づくというのであるから、その主張自体免責の要件を否定していることになる。もっとも、その欠陥ないし障害から事故発生に至るのを回避することが現代工学技術の水準に照して到底期待不可能というのであれば別論であろうが、本件での被告主張はいまだその程度の詳細さを備えるに至らぬのであるから、結局免責主張はそれ自体失当といわなければならない。不可抗力との主張についても同断であって、結局採用することができない。

二、そこで、損害の判断に入ることとなるが、原告負傷に関する請求原因第四項・第五項の主張事実については当事者間に争いがなく、問題は、その後遺症状にある。被告は原告が途中一旦退院して以後の症状につき事故との因果関係を争っているので、治療経過をまず認定しておく。
 《証拠略》を総合すると、事故発生後昭和44年9月頃までの原告の入院・通院先および始期、終期は、次のとおりである、と認められる。
〔表省略〕

三、右のうち、昭和42年3月1日から同年12月14日までの入院期間の最後期同年11月29日以後の半月間は、整形外科治療を終って鼠蹊部ヘルニア手術のため外科に入院していたものと認められ、これは本件事故と相当因果関係ある治療と認めるべき証拠がないが、右転科以前の全期間については、その症状および治療経過が本件事故と相当因果関係を有することは、被告の明らかに争わぬところであるから、これを自白したものとみなす。また、昭和42年12月14日加茂川病院退院後、同年12月24日の再発以前における10日間の通院についても、《証拠略》に照らし、相当因果関係を肯認することができる。

四、問題は、昭和42年12月24日の再発以後の症状が、本件事故と相当因果関係を有するか否かである。
(1) まず、再発時の情況を見るに《証拠略》によれば、昭和42年12月24日、夕刻までは比較的気分が良好であったが、午後9時15分ごろ、コタツに座った姿勢のままバタンと右後方に倒れ、息苦しさを訴えたこと、このため、家族の者が、加茂川病院へ往診を求め、加茂川病院からは午後9時30分ごろ往診したところ、意識混濁はないが、質問に返答できず、吸気時、喉頭部にヒュッヒュッと言う短い喘鳴を聞き、顔色良好、脈の緊張良好であったが、苦痛を訴えたので、加茂川病院の医師は、直ちに原告を病院まで連れて来て、酸素吸入等を施したこと、最高血圧160ミリメートル、最低血圧不明、脈拍120、瞳孔は散大していたが、左右同大、対光反射も迅速かつ十分で、約15分ほどで平静になり、はじめて痛いと発言したこと、どこが痛いかと尋ねたが返答なく、30分ほど後になって、左の腰痛を訴え、このとき、両下肢の自動を命じたところ、自動可能であったが、緩慢であり、疼痛のため速く動かせないと告げたこと、そこで、整形外科に二回目の入院をさせたこと、翌昭和42年12月25日午後5時現在における加茂川病院医師の所見は、〈1〉起立不能、歩行不能。〈2〉両下肢自動運動不動であるが、ときにより自動するのを認める。〈3〉膝蓋腱反射冗進。〈4〉アキレス腱反射正常、□搦を認めない。〈5〉下肢の筋緊張低下し、触れると冷に感ずる。〈6〉尿意、排尿感が明瞭には分からない。〈7〉臍より下四横指より末梢側に知覚鈍麻を認めた。〈8〉胸部圧迫感、両乳房の間に圧迫感と鈍痛を残す。〈9〉左腰痛を訴えたが、ラセグー氏徴候は陰性。〈10〉上肢のシビレ感もなく、指運動も良好であるが、触れると冷であるとの内容であったこと、以上の事実が認められる。

(2) 鑑定人大石昇平の鑑定結果を記載した鑑定書によると、昭和43年2月27日当時の症状は、右再発時とそれほど変っておらず、要約すれば、両下肢の運動障害のための歩行不能、四肢その他の知覚障害、頭重その他の不定愁訴が認められるというのである。そして、《証拠略》により、本件口頭弁論終結当時にも、右の症状が依然として残存していることが認められ、更に大石鑑定をも合せ考えると、昭和44年8月末において労働基準法施行規則体身障害等級表の第1級に相当する障害であると認められる。


以上:3,371文字

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