平成25年 2月11日(月):初稿 |
○「職種により労働能力喪失率の増減はありうるとの判例要旨紹介」で、49歳の女性看護師について、自賠責保険認定等級は12級で労働能力喪失率は14%であるところ、自賠責では後遺障害とは認定されなかった複視について10級相当と認定し、さらにそのため看護師ができなくなったことの評価として労働能力喪失率を40%と認定した事案を紹介していました。後遺障害等級毎の労働能力喪失率は、あくまで標準的な一基準を示しているだけで絶対ではありません。職種によっては、自賠責等級での標準的労働能力喪失率を大幅アップした認定もありますので、自賠責等級で機械的に労働能力喪失率を決めるべきではありません。 ○以下、平成18年12月25日東京地裁判決(自動車保険ジャーナル・第1714号)全文を紹介します。 ************************************************* 主文 1 被告は、原告に対し、2081万2471円及びこれに対する平成15年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第一 請求 被告は、原告に対し、5015万8503円及びこれに対する平成15年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第二 事案の概要 本件は、原告が被告の所有、運転する車両と衝突した事故について、原告が、被告に対し、自動車損害賠償保障法3条により、5015万8503円の損害賠償及びこれに対する事故日から支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いがない事実) (1)(本件事故) 日時:平成15年6月18日午前8時30分ころ 場所:神奈川県川崎市〈地番略〉先の信号機のない交差点 態様:原告が自転車を運転、北進して、上記交差点に進入したところ、東進して同交差点に進入してきた被告運転の普通乗用自動車((ナンバー略)。以下「被告車両」という。)が原告の自転車に衝突し、原告は転倒した。 (2)(責任) 被告は、被告車両の所有者であり、本件事故時、同車両の運転者であるから、自動車損害賠償保障法3条により、原告に生じた損害を賠償する責任がある。 (3)(傷害) ア 原告は、本件事故により、頭部、胸部等を強打し、頭部外傷、急性硬膜下血腫、顔面外傷、肺挫傷、肋骨骨折、両滑車神経麻痺等の傷害を受けた。 イ 原告は、平成15年6月18日から同年7月17日まで、B病院に入院した。 また、原告は、同年8月1日から平成16年4月2日まで同病院に、同年1月13日から同年4月9日までC病院に、それぞれ通院した。 (4)(後遺障害) ア 症状固定日 平成16年8月24日 イ 後遺障害の内容 両滑車神経麻痺及び頭部外傷後遺症 (5)(損害のてん補) 原告は自賠責保険より224万円の支払を受けた。 2 争点 (1)後遺障害の程度 (2)過失割合 (3)損害の算定 3 争点についての当事者の主張 (1)原告の主張 ア 後遺障害の程度について 原告の眼神経に係る後遺障害は、両眼の滑車神経麻痺であり、両眼の滑車神経に麻痺が生じることは、まれなことである。麻痺が単眼であれば、健眼によって真像を得ることができるが、両眼に麻痺が生じれば、両眼とも取得する像は仮像である。このため、原告は、看護師としての業務を遂行できないのはもとより、終身にわたり極めて軽易な労務にしか従事できない。したがって、本件事故による両眼の後遺障害は、後遺障害等級7級4号に相当する。 また、頭部外傷後遺症については、後遺障害等級12級13号に相当する。 よって、原告は後遺障害によって労働能力の56%を喪失した。 イ 過失割合について 本件事故は単なる出会い頭の事故ではなく、原告が本件交差点の横断を完了しかけたところに、被告車両が衝突したものである。被告車両にブレーキを踏んだ形跡はなく、原告の自転車のハンドルと左のペダルが凄く破損していたことから、出会い頭ではなく、被告車両の前面と自転車の左側面との衝突であって、被告の脇見運転で、速度超過があった。 したがって、本件事故は、前方不注視、速度超過といった被告の一方的な過失によるものである。 ウ 損害について (ア)治療費 3万4740円 (イ)入院雑費 4万5000円 (ウ)交通費 5万8640円 (エ)休業損害 565万3120円 (オ)逸失利益 2960万7003円 (カ)入通院慰謝料 250万円 (キ)後遺障害慰謝料 1000万円 (ク)弁護士費用 450万円 (2)被告の主張 ア 後遺障害の程度について 原告は後遺障害等級併合12級の認定を受けている。したがって、原告の後遺障害の程度は12級相当であり、譲歩したとしても10級相当である。 イ 過失割合について 被告は、被告車両が本件交差点に直進進入しようとした際、右方向から一時停止を無視して交差点内に進入してきた原告の自転車に気づき、ブレーキを踏んだが、間に合わず衝突したものである。 本件事故は、信号機による交通整理の行われていない交差点において、一時停止を無視し左方の安全確認を怠り、交差点に進入した原告の自転車と同交差点に直進進入した被告車両が出会い頭に衝突したものであるから、過失割合は原告40、被告60とすべきである。 ウ 損害について 弁護士費用を除く損害については否認し、弁護士費用については不知。 以上:2,305文字
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