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平成24年11月30日(金):初稿 |
○「平成24年7月31日横浜地方裁判所判決紹介まとめ1」を続けます。 ○判決では、概ね以下の基準で被害者に脳脊髄液減少症が発症したとしています。 の脳脊髄液減少症診断基準は、丁山医師を委員長とする「脳脊髄液減少症研究会ガイドライン作成委員会」作成基準(以下「ガイドライン基準」という)及び「脳脊髄液減少症の診断・治療法の確立に関する研究班」が平成23年10月ころ中間報告で発表した暫定的な診断基準(以下「厚労省中間報告基準」という。)を重視しているようです。 原告はC病院丁山医師のブラッドパッチを受け、同医師の意見書と証人尋問結果を採用し 同医師が、 ①受傷後まもなく起立性頭痛等の症状があったこと、 ②画像所見として、平成20年11月のRI脳槽シンチグラフィー検査において注入から1時間後に膀胱内にRIの集積が見られたこと、3時間後及び6時間後には腰椎部から明瞭な髄液漏出像が認められたこと、24時間後のRI残存率は13.8%と低いこと、平成22年6月のRI脳槽シンチグラフィー検査においては膀胱内にRIが集積したのは注入から6時間を経過した後であり、髄液漏出像はなく、24時間後のRI残存率は31%と正常であったこと、 ③ブラッドパッチに一定の効果があったこと を主な根拠として、原告が脳脊髄液減少症を発症したと判断したことを重視し、 被害者の症状、RI脳槽シンチグラフィー検査の結果、ブラッドパッチの効果を詳細に分析して、「原告が脳脊髄液減少症を発症したと確定的に認めることまではできないものの、①B病院において起立性頭痛であると診断されていること、②厚生省中間報告基準における参考所見が複数見られること、③ブラッドパッチが一定程度効果があったことからすると、原告について、脳脊髄液減少症の疑いが相当程度あるということができる。」と結論付けています。 ○注目すべき判断は、 RI脳槽シンチグラフィー検査の結果等について 「RI注入から1時間後の原告の膀胱内にRIが集積していることは、直ちには、脳脊髄液の漏出を示すものとは認められないものの、参考所見とはなる」、「本件における腰椎部付近におけるRI集積を示す画像は、直ちには、脳脊髄液の漏出を示すものとは認められないものの、参考所見とはなる」、「RI残存率が低いからといって、この点から脳脊髄液の漏出があったとはいい難く、厚生省中間報告基準においても、RI残存率は診断基準とされていない」、 脳MRI検査結果について 「(モンロー・ケリーの法則から)脳脊髄液が減少した場合、それに伴って、拡張し易い静脈や毛細管等の容積が拡大することから、静脈拡大は脳脊髄液減少症を示す特徴とされているが、その判定は難しく、厚生省中間報告基準においても、静脈拡大については、客観的判断が難しいことから、低髄液圧症の参考所見とされている」、 ブラッドバッチ効果について 「原告は、5回にわたり、ブラッドパッチを受けていること、そのうち症状がかなり改善したのは1回目(平成18年11月9日)及び4回目(平成20年12月2日)であること、しかし、その効果は、長続きしなかったこと、他の3回は、目立った効果はなかったことが認められる。したがって、原告の症状が、ブラッドパッチにより、長い期間にわたって顕著に改善したとまでは認められないものの、一定の効果はあったと認められる。」 等の見解を示していることです。従前の判例だと、脳脊髄液減少症発症の否定に繋がる検査結果も、「原告が脳脊髄液減少症を発症したと確定的に認めることまではできないものの(中略)、脳脊髄液減少症の疑いが相当程度あるということができる。」と結論付けました。 ○後遺障害程度は、「頸部受傷後の頭痛、後頸部痛、背痛などの神経症状が残存し、鎮痛作用のかなり強い鎮痛剤を継続的に使用し、その痛みの程度は著しい」、「脳脊髄液減少症を発症した疑いが相当程度ある」、「本件事故の態様は、原告が意識を失うようなものであったことなどを総合」して、第9級10号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」に該当すると結論付けています。 ○損害論認定概要は以下の通りです。 治療関係費は、原則として症状固定までの分とするも、脳脊髄液減少症治療関係費に限り将来の損害として認定し、休業損害は、受傷後およそ1年間は100%労働能力喪失、その後症状固定時まで80%喪失として賃金センサス男子大学・大学院卒の各年度該当年齢を基準として認め、逸失利益は、脳脊髄液減少症の疑いがあるが、ブラッドパッチにより脳脊髄液の漏出が既に止まっている可能性もあり、脳脊髄液減少症ではない可能性もあることから、10年間に限って労働能力35%喪失として賃金センサス平成20年男子大学・大学院卒25歳~29歳の男子労働者の平均賃金を算定基準として認めています。 ○本判決での、脳脊髄液減少症発症の認定根拠は、これまでの否定例と,正に、紙一重の差であり、認めるも認めないも裁判官の腹一つと感じましたが、「原告が脳脊髄液減少症を発症したと確定的に認めることまではできないものの(中略)、脳脊髄液減少症の疑いが相当程度あるということができる。」と結論で、第9級10号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」に該当するとの認定は、画期的と評価出来、このような判例が増えることを願うのみです。 以上:2,236文字
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