旧TOP : ホーム > 交通事故 > 交通事故判例-脳脊髄液漏出症 > |
平成24年11月26日(月):初稿 |
○自転車搭乗中、乗用車と衝突の22歳男子は脳脊髄液減少症によるとの相当程度の疑いで9級10号、10年間35%の労働能力喪失の後遺障害を認めた平成24年7月31日横浜地方裁判所判決(自保ジャーナル・第1878号)全文を2回に分けて紹介します。先ず判決主文から争点及び当事者の主張までです。 ******************************************* 主 文 1 被告は、原告に対し、2312万8932円及びこれに対する平成17年6月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第一 請求 被告は、原告に対し、4,998万8,283円及びこれに対する平成17年6月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第二 事案の概要 本件は、被告運転の自動車(以下「被告車両」という。)と原告運転の自転車(以下「原告自転車」という。)とが衝突した交通事故(以下「本件事故」という。)について、原告が、被告に対し、人身損害については自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条に基づき、物的損害については民法709条に基づき、損害の賠償と本件事故日からの遅延損害金を請求する事案である。 1 争いのない事実 (1) 本件事故の発生 ア 日 時 平成17年6月8日午前7時40分ころ イ 場 所 神奈川県海老名市<地番略>先の十字路交差点(以下「本件交差点」という。) ウ 関係車両 被告車両 自家用普通乗用自動車(車両番号(略)) エ 事故態様 被告は、被告車両を運転中、本件交差点において、左方向から進行してきた原告自転車と衝突した。 (2) 責任原因 被告は、被告車両の保有者であり、また、左方向の安全確認を怠って本件交差点に進入したなどの過失があるから、自賠法3条及び民法709条に基づき、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任を負う。 2 争点及び当事者の主張 (1) 事故態様及び過失相殺 (被告の主張) ア 本件交差点には信号機が設置されておらず、原告においても、本件交差点に進入する際、右方からの車両の動静に注意すべき義務がある。原告は同義務を怠り、漫然と本件交差点に進入したため、本件事故が発生した。 イ 原告が走行していた歩道は、自転車の通行が禁止されていた。 ウ 以上から、25%の過失相殺がされるべきである。 (原告の主張) ア 被告車両が走行していた道路には一時停止の標識がある。本件交差点には、4方向を確認するミラーが2か所設置されている。被告車両からみて、本件交差点の左側には保育園があり、また、左側の見通しが悪い。 イ 被告は、本件交差点に進入する際、一時停止をして、本件交差点の左右の状況を注視すべき義務を負うが、同義務を怠り、漫然と時速10㎞で本件交差点に進入した過失がある。 ウ 本件交差点付近の車道の幅は3㍍しかなく、大型車両が頻繁に通行していたため、自転車で走行する者は、やむを得ず歩道を走行していた。 エ 本件事故は、上記イの被告の一方的な過失で発生したものであり、過失相殺すべきではない。 (2) 原告は本件事故によって脳脊髄液減少症を発症したか、症状固定時及び後遺障害等級 (原告の主張) 原告は、日本脳神経外傷学会による「外傷に伴う低髄液圧症候群」の診断基準によっても、脳脊髄液減少症を発症したと認められる。原告には、①脳脊髄液減少症の症状である起立性頭痛があり、②RI脳槽シンチグラフィー検査等で髄液漏れの所見が認められ、③ブラッドパッチによる症状の改善が認められる。 なお、ブラッドパッチにより髄液漏れは止まっているものの、原告の症状が慢性化して持続しているのは、減少した髄液量が均等に増加しないことや、損なわれた神経系が回復しないことが原因であって、ブラッドパッチの施術結果は脳脊髄液減少症を否定するものではない。 症状固定日は、平成23年11月30日である。 後遺障害等級は、自賠法施行令別表第二第9級10号である。 (被告の主張) 脳脊髄液減少症の診断基準として、脳脊髄液減少症研究会の「ガイドライン2007」は適切ではない。原告には、①起立性頭痛が認められず(事故後約4ヶ月間に頭痛の訴えがなく、B病院初診時[平成18年4月27日]にも、起立性頭痛は認められない。)、②RI脳槽シンチグラフィーは診断基準として信用性が低く、これによって髄液漏れがあるとは判断できず、③ブラッドパッチの効果が認められたのは1回目と4回目のみであり、その効果も一過性のものであったから、効果があったとは認められない。 症状固定日は、平成18年10月末とするのが相当である。 後遺障害等級は、自賠法施行令別表第二第14級9号である。 (3) 損害 (原告の主張) ア 治療関係費 (ア) 治療費 176万5000円(平成18年11月1日以降の治療費) (イ) 入院雑費 4万8000円(平成18年11月1日以降の入院雑費) B病院での入院(平成19年7月30日~同年8月10日、平成20年7月23日~同月31日及び同年8月18日~同月19日)、C病院での入院(平成20年11月29日~同年12月4日及び平成22年6月1日~同月3日)の入院時の雑費 1500円×32日 (ウ) 交通費 14万2220円(平成18年11月1日以降の交通費) 1400円×54日(B病院への車通院を除く54日分の交通費)+1万5000円(B病院駐車場代)+1万6,800円(共済未払分)+2180円×13日 (C病院への交通費)+420円×8日(Dクリニックヘの交通費)+3,120円 (E病院への交通費) イ 休業損害 (ア) 本件事故日~F会社の退職時(平成17年11月30日) 170万4080円(G共済から支払済み) (イ) 平成17年12月1日~平成19年12月13日 9071円(賃金センサス平成20年男子大学・大学院卒20歳~24歳の平均 賃金331万1,100円を日額で算出した額)×100%×743日=673万9753円 (ウ) 平成19年12月14日(原告が25歳となる日)~平成20年1月17日 1万2,055円(賃金センサス平成20年男子大学・大学院卒25歳~29歳の男子労働者の平均賃金440万0,100円を日額で算出した額)×100%×35日=42万1,925円 ウ 逸失利益 2,620万6,775円 (計算式) 440万0,100円(賃金センサス平成20年男子大学・大学院卒25歳~29歳の男子労働者の平均賃金)×35%×17.0170(67歳-28歳=39年のライプニッツ係数) エ 慰謝料 入通院慰謝料 300万円 後遺症慰謝料 700万円 オ 物損 自転車(2万6,800円)+シャツ(1,000円)+ズボン(4,000円)+靴(6,000円)=3万7,800円 カ 損害の填補 上記イ(ア)の170万4,080円 キ 弁護士費用 454万円 ク 合計 4,990万1,473円(なお、前記第一の請求金額と異なるのは、前記ア(ア)の治療費の額について、原告の主張が、185万1,810円から176万5,000円に変更されたためである。) (被告の主張) ア 否認ないし争う。 イ 休業損害のうち、イ(ア)は認め、イ(イ)、(ウ)は争う。 ウ 逸失利益は争う。 後遺障害の等級は14級9号であり、労働能力喪失率は5%、喪失期間は3年間が相当である。 エ 慰謝料は争う。 オ 物損は不知。 カ 損害の填補は認める。 キ 弁護士費用は争う。 以上:3,155文字
|