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平成23年 7月 1日(金):初稿 |
○「過失相殺と損益相殺等の前後関係-過失相殺対象損害範囲」を続けます。 話がややこしくて混乱し、読んで頂いた方もなかなか分かりづらいと思いますので、出来るだけ整理します。 1.事例 基本的に加害者Bの交通事故で被害を受けた被害者Aの損害賠償請求事件であるが、Aにも過失があり、過失割合はA40%、B60% Aの被った損害が、医療費200万円、休業損害300万円、その他慰謝料・逸失利益等1500万円で合計2000万円 通勤中の事故で労災保険が適用され、Aは労災から、医療費・休業損害合計金500万円の給付受領済みで、労災は加害者Bに対して代位による求償請求をしてB過失割合60%部分の300万円をBから受領済みとします。 2.控除後相殺説(相殺前控除説) 既払金500万円を控除した金1500万円をAがBに請求した場合、この1500万円に過失相殺を適用すると、AのBに対する請求額は1500万円の60%相当額金900万円となる。この場合、Bの支払額は労災への既払金300万円とAに対する支払金900万円の合計金1200万円で、Aの取得額は、労災給付500万円、B支払金900万円の合計1400万円となります。 この考えは、損害総額から社会保険の給付額を控除した後の損害額につき過失相殺をすべきであるとする控除後相殺説 3.控除前相殺説(相殺後控除説) 既払金500万円を控除せず損害全体2000万円について過失相殺を適用すると、AのBに対する請求額は2000万円の60%相当額金1200万円から労災給付金500万円を差し引いた700万円となります。この場合、加害者Bの支払額は労災への既払金300万円とAに対する支払金700万円の合計金1000万円、Aの取得額は、労災給付500万円、B支払金700万円の合計1200万円になります。 この考えは、損害総額につき過失相殺をしたあとで社会保険の給付額を控除すべきであるとする控除前相殺説 4.控除後相殺説・控除前相殺説での具体的結論の比較 控除後相殺説 控除前相殺説 A側 AのBに対する請求金額 900万円 700万円 (労災給付金との合算額) (1400万円)(1200万円) B側 BのAに対する支払金額 900万円 700万円 (労災支払金との合算額) (1200万円)(1000万円) 5.控除前相殺説(相殺後控除説)の不合理 労災適用にならず労災給付がない場合は、全損害2000万円について過失相殺が適用になり、AのBに対する請求額は、B過失割合部分60%相当額の1200万円となり、加害者Bは被害者Aに1200万円支払わなければなりません。 ところが、労災給付500万円があった場合、そのうちA過失割合部分40%相当額金200万円は、結果としてBの債務の内金200万円を消滅させることになり、Bは労災給付がなければ1200万円支払うべきところ1000万円で済みます。 6.控除後相殺説の不合理 Aがこの交通事故の損害賠償として請求できるのは全損害2000万円の内60%相当額の1200万円のはずなのに、労災給付500万円あった場合、そのうちA過失割合部分40%相当額金200万円を上乗せした1400万円の支払を受けることになります。 7.私見 私は、Aが、労災保険料を納めている対価として労災給付がなされるものですから、当然Aの利益ための支払となると考えています。控除前相殺説では、結果として、労災給付の内A過失割合部分40%相当額がBの利益ための支払となってBの損害賠償債務の内金200万円は消滅し、本来Bは1200万円支払うべきところ、労災給付があったお陰で金200万円減額となり、金1000万円の支払で済み、これは明らかに不合理です。 8.平成元年4月11日最高裁判決 Aが労災保険料を支払って労災給付を受けているのにAの利益ための支払にならないとの結果は、明らかに不合理と確信しています。とろこが、平成元年4月11日最高裁判決は、Bのための支払となる控除前相殺説(相殺後控除説)をとりました。「そんなバカな!」と言うのが私の考えです。 以上:1,700文字
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