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平成23年 5月17日(火):初稿 |
○「交通事故での胸郭出口症候群等を認めた名古屋高裁判決紹介1」を続けます。 「当裁判所の判断」ですが、名古屋高裁においても名古屋地裁の判断をほぼ踏襲しています。 ******************************************** 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,被控訴人の請求は,控訴人らに対し,各自2245万2437円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余を棄却すべきものと判断するが,その理由は,以下のとおり原判決を付加訂正するほかは,原判決「第3 当裁判所の判断」欄の1,2に記載のとおりであるからこれを引用する。 2 原判決の付加訂正 (1)原判決15頁16行目「紛争処理機構は,」と「本件事故」との間に,次のとおり付加する。 「胸郭出口症候群は,斜角筋,鎖骨下筋,小胸筋等の筋肉が断製し,血腫,瘢痕が形成され,その結果,血管や神経を圧迫することによって発生するものであるところ,」 (2)原判決15頁19行目冒頭から同頁25行目末尾までを次のとおり改める。 「こと,動脈狭窄の原因の大半は経年性のものであることから,被控訴人に胸郭出ロ症候群が発症していたとしても,本件事故との間に相当因果関係が存在するとはいえない旨主張する。 しかしながら,証拠(甲33)によれば,熊本大学整形外科学教室における外傷性胸郭出口症候群の手術所見によると,前斜角筋・中斜角筋の肥大・繊維化,異常索状物,鎖骨下筋の肥大・繊維化などによる腕神経叢の絞扼,下神経幹の癒着,後束周囲の癒痕などが観察され,これらの所見からすると,外傷性胸郭出口症候群の病因としては頚椎の過伸展・屈曲後に腕神経叢周囲の瘢痕や解剖学的異常により腕神経叢が複数部位で絞扼を受けることが考えられるものと認められ,前記認定の事実に照らすと,外傷性胸郭出口症候群の発症機序は,控訴人らが主張するように,斜角筋等の断裂損傷による血腫,瘢痕が形成されることによるものとは必ずしもいえず,本件事故のような追突事故に起因する頚椎の過伸展・屈曲によっても発症するものと認められる。そして,被控訴人には胸郭上部の血管造影ビデオ上,該当部の動脈の一部狭窄の所見が認められることは前記(付加訂正後の原判決)認定のとおりであるところ,証拠(甲71)によれば,本件事故発生後の平成16年10月21日,本件事故発生以前の平成15年10月及び平成14年8月に実施された健康診断の結果,被控訴人にはいずれの時点においても脂質は正常範囲であったことが認められ,被控訴人について経年性による動脈狭窄が生じている蓋然性はかなり低いものと推認されること,また,後記(付加訂正後の原判決)認定のとおり,被控訴人には,本件事故発生後から平成16年9月末ころにかけて,既に首から下のしびれや痛みの症状が見られたことを総合すると,本件事故と被控訴人に発症した胸郭出口症候群との間には相当因果関係が存在するものと認めるのが相当であり,被控訴人の胸郭上部の造影レントゲン写真やMRI等の撮影がされていないことをもって,前記認定は左右されないというべきである。」 (3)原判決16頁10行目から11行目にかけての「そうであるとすれば,」から同頁13行目「信用できるといえる。」までを,次のとおり改める。 「また,それより以前の診断書には左上肢のしびれ感に関する記載はないが,証拠(甲3の2,4の2,5の2,69,70)によれば,本件事故後から平成16年9月30日までの間に,肩甲上神経ブロック(局所麻酔剤),トリガーポイント注射の治療を受け,また,同年7月10日,同年9月6日及び同月11日には,筋肉痛,関節痛,神経痛,末梢神経炎,末稲神経麻痺などの緩和に用いられるピタノイリンカプセル25の処方がされていることが認められ,前記事実を総合すれば,被控訴人には,本件事故発生直後から首から肩にかけての疼痛等の神経症状がみられたものと推認され,被控訴人が従前から服部医師に対して左上肢のしびれ感も訴えていたとの同人の原審における供述部分とも整合するものであるといえる。」 (4)原判決21頁2行目末尾に,次のとおり付加する。 「この点について,被控訴人は,本件事故による後遺障害の結果,医療情報担当者として勤務先で勤務を継続することができず,自主退職せざるを得なかったとして,平成16年度年収額を基礎収入として後遺障害逸失利益を算定すべきであると主張する。しかしながら,本件後遺障害の結果,被控訴人が労働能力を一部喪失したことは後記(付加訂正後の原判決)認定のとおり,であるが,被控訴人は,勤務先に就職後38年間にわたって医療情報担当者として勤務しており(弁論の全趣旨),専門職として相当程度の知識と経験があったものと推認されることに照らすと,本件事故による後遺障害のために退職せざるを得ない程度に勤務に支障があったものとは考え難く,他に,被控訴人の後遺障害の程度が勤務を継続しえず,退職を余儀なくさせる程度に達していたことを裏付ける的確な証拠は本件証拠上見あたらない。したがって,被控訴人の前記主張は採用し難い。」 第4結論 よって,原判決は相当であり,控訴人らの本件控訴及び被控訴人の本件附帯控訴はいずれも理由がないからこれらをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第3部 裁判長裁判官 高田健一 裁判官 尾立美子 裁判官 上杉英司 以上:2,246文字
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